法律家から見た新制度 定義規定 極めて抽象的(2015.9.24)

2面_Opinion_法律家から見た機能性表示食品 opinion

 食品表示を巡る事業者リスクを現役弁護士・弁理士が解説するセミナーを国際栄養食品協会(AIFN、天ケ瀬晴信理事長)が14日、都内で開いた。機能性表示食品の〝法的諸問題〟をテーマにした講演で、「ガイドラインでNGだとされている表示例も本当にNGなのかどうかは裁判になってみないと分からない」と述べたスプリング法律事務所(東京都新宿区)の新保雄司弁護士(=写真)に後日改めて話を聞いた。法律家からは機能性表示食品制度がどう見えますか──。

 新保弁護士の見解を紹介する前に、機能性表示食品制度の法的な位置づけを改めて簡単に押さえておくと、この制度を規定するのは今年3月に公布された「食品表示基準」である。これは一昨年6月に成立、今年4月1日に施行された「食品表示法」第4条1項に基づき定められた内閣府令だ。

 制度論ではなく法律論として機能性表示食品を捉える時、新保弁護士がとりわけ注目するのは、いつまでも公表されずに業界を猛烈にやきもきさせた機能性表示食品の届出ガイドラインではなく、食品表示基準である。

 「食品表示法自体は条文数も少ない単純な法律で、言ってしまえば、食品表示基準を定めると決めているだけのようなもの。その分、食品表示基準は700頁超とボリュームのある内容になってはいる。ただ、機能性表示食品について触れている箇所は非常に少ない。しかも、そこに書いてあることは事実上『このように表示しなさい』と、『このような表現による表示はいけません』だけで、どうすれば機能性表示食品として販売してよいのかを判断できるような具体的な規定がまったくない」

 機能性表示食品の定義自体は食品表示基準第2条1項10号で規定されている。新保弁護士は、別掲上の図に示す通り、この定義は①対象②表示③除外事由④届出の4つに大別できるとし、「それを充足できるかどうかの観点から問題点をすべて集約できる」と述べた上で、要件を一つでも充足しないまま事業者が機能性表示食品として販売すれば、行政指導・処分、差止請求の対象になると話す。

 その一方で、定義では例えば届出について、「安全性及び機能性の根拠に関する情報」を届け出るとされているのだが、「安全性や機能性の科学的根拠について具体的にどのような情報を届け出ればいいのかがまったく規定されていない」と新保弁護士は指摘。「そこは結局のところ、ガイドラインを確認したり、消費者庁の担当課に個別に問い合わせたりしないと分からない」という。

 「法律論の観点から一番の問題点として挙げたいのはそこ。機能性表示食品は(法律の委任を受けた)内閣府令で規定されてはいるものの、その規定自体が極めて抽象的で、食品事業者にとって重要な判断基準がまったく示されていない。そこは確かにガイドラインという形で落とし込まれてはいるのだが、ガイドラインは法律でも政令でもない。簡単に中身を変えることもできる。その意味で、機能性表示食品は行政庁の恣意的な判断が入りやすい制度になっている」

行政手続法37条 受理の概念排除した

 新保弁護士はまた、機能性表示食品における届出と、行政手続法第37条の関係にも課題があると指摘する。

 同37条に基づくと本来ならば届出番号がなくとも届出60日後から販売できる──14日のセミナーで新保弁護士はこうした主旨の発言をしていた。無論、その届出が不備なく要件を満たしていることが前提の話だが、どういうことか。

 別掲下の図は行政手続法第37条の全文だ。ガイドライン41頁「届出の在り方に係る事項」でも、機能性表示食品の届出について同様の説明があるのだが、この条文を新保弁護士は「行政機関による『受理』という考えを排除したことに意味がある」と強調する。

 「以前、法律上の根拠がまったくないにもかかわらず、行政機関が事業者の届出行為を阻止しようと書類を受け取らないことがよくあった。よく知られる事例は風俗営業所の出店抑制としての手法。高層マンション建設なども同様で、届出が必要となる場面で行政庁が恣意的に判断したり、例えば『付近住民全員の同意を得なければ届出を受理しない』などと、法律では一切求められていない要件を事業者に不当に課したりする行為を排除するという目的でこの法律(同法37条)は定められた」

 ガイドライン41頁「届出の在り方」を改めて読んで欲しいと新保弁護士は言う。実際にここでは「受理」という言葉は使われていない。また、「届出については同法37条の規定に基づき」とも記されている以上、機能性表示食品の届出も、受理の概念を排除した「法37条の適用を受けるとガイドライン自体が明言している」とする。

 一方で、機能性表示食品には届出番号を表示しなければならない旨が食品表示基準第3条で定められている。届出番号を得るには、現実問題として、消費者庁に受理してもらうほかはないだろう。しかも、同庁判断で届出表示の内容などに対し疑問符が付けられ、差し戻されたというケースが散見されている。恣意的な判断が行われているとは思わないが、この矛盾をどう理解すればいいのだろうか。

 「審査を受け、それに通れば届出要件を充足していると判断されたというイメージを持たれているかも知れないが、法律上の立て付けはそうではない。消費者庁による届出書の形式確認は、あくまでも行政指導・処分の契機に過ぎず、法律上の効力が発生するものでもない。ただ、現実的には許認可と同じように法律上の効力があるかのような機能を持ってしまっているということだと思う」

 機能性表示食品は事業者の責任において機能性を表示するものだが、現状、実質的には行政庁からの指導を踏まえて表示するものだと新保弁護士は見る。一方で、その指導は法的効力を持たない。そのため、「指導した内容に対する責任を行政庁が負うこともない。あくまでも事業者責任」とも指摘する。

 その指導内容に疑問を感じる事業者もあるだろう。届け出た機能性表示や科学的根拠などの情報に自信を抱いていれば尚更だ。指導を無視して販売したらどういう事態が考えられるのか。

 「一般論だが、まずは行政指導がくる。これに従わないと措置命令が下る。措置命令は行政処分に相当し、それを争うとなれば、不服審査法に基づく異議申し立て、もしくは審査請求、それでは迂遠だと言うことならば、行政処分の取り消し訴訟という手段もある。行政訴訟にもし勝てば、措置命令に伴う損害を賠償せよということで、国家賠償請求の話にもなってくるだろう。ただ、救済されるにしても事後的なものだという問題がある」(聞き手・本紙記者石川太郎)

新保雄司氏(しんぼ・ゆうじ)=弁護士
プロフィール▽1999年慶應義塾大学法学部卒業。01年第一東京弁護士会登録、スプリング法律事務所(旧沖信・石原・清法律事務所)参加、09年同事務所パートナーに就任し現在に至る。不正競争防止法で定義される商品等表示を中心とする一般民事事件を多く手掛ける。企業法務に強い

Clip to Evernote

ページトップ