TPP 健食に影響は 関税撤廃メリット僅か?(2015.11.12)


 日米など参加12カ国が先ごろ合意し、5日に協定文書の全文が公表された環太平洋経済連携協定(TPP)。先んじて公表された関税撤廃(第907号第1面既報)については、ビタミンをもととした栄養補助食品をはじめ、魚油や亜麻仁油など、健康食品関連品目も少なくない数が含まれていた。健康食品市場への影響は未知数だが、最終商品市場に変化を与える可能性を予測する見方もでている。

 TPP参加国は、日米のほか、カナダ▽メキシコ▽ペルー▽チリ▽ニュージーランド▽オーストラリア▽シンガポール▽マレーシア▽ベトナム▽ブルネイのアジア太平洋地域12カ国。参加国は今後増える可能性もある。

 日本の健康食品・サプリメントは、原料を輸入に頼る場合が多い。そのため、自由貿易協定は市場に影響を与える可能性が高い。ただ、最大輸入相手国の中国は現在のところTPPに不参加。また、10%を超えるものも中にはあるが、大半の品目で関税率は数%と小さく、関税撤廃のメリット、あるいは参加国から強豪企業が市場参入してくる影響は、こと健康食品原料に関しては限定的だと見られている。

 一方で、市場開放に伴い、法規制の関係で日本では食品として従来販売できなかった原料に門戸が開かれることに、警戒感を示す向きがある。

 政府は検疫などに関して「制度変更が必要な規定はない」と説明しているとされるが、米国などから更なる市場開放を求められる可能性がある。また、ある原料メーカー大手は、「グレーゾーンのものも多い。なし崩し的に入ってこないとは限らない」として、明確に〝黒〟とは言えない原料の流通拡大に懸念を示す。

【考察】最終商品市場に影響 ㈱グローバルニュートリショングループ代表 武田猛氏 

 栄養補助食品(ビタミンをもととした栄養補助食品)の関税が撤廃されるため、特に最終商品市場への影響が大きいと考えられる。現行関税率12.5%は小さくないといえ、米国で最終商品を製造し、日本に輸入している米国系ネットワークビジネス企業などがメリットを受けるだろう。日本企業でも、PB(プライベートブランド)などに関し、国内ではなく米国での製造を選択する先が出てくる可能性もある。貿易が自由化されると国内製造業の空洞化が進む傾向があるといえ、受託製造企業は対応策を考える必要がありそうだ。

 また、機能性表示食品制度の施行を受け、日本市場への参入を検討する米国の有力ダイエタリーサプリメント販売企業が増加傾向にあると見られる中で、TPPは参入意欲をさらに高める可能性がある。オーストラリアやニュージーランドにも有力販売企業は少なくない。食薬区分や添加物に関する規制の違いなど非関税障壁も多いため、すぐに参入してくるとは考えづらいが、日本市場に対する関心はより高まると見られる。

 一方、原料市場への影響はそう大きくないだろう。魚油や亜麻仁油など多くの素材で関税が撤廃されるが、どれも関税率は高くない。原料コストが数%下がったところで商品原価率への影響は小さく、消費者メリットもほとんどないだろう。原料市場に影響を与えるのは関税よりも為替の方だと言える。ただ、例えば魚油についてエチルエステル品を食品として販売できるようになるなど、海外企業にとっての非関税障壁まで撤廃されるような事態になれば、原料市場にも、ドラスティックな変化が生じる可能性がある。(聞き手・本紙記者石川太郎)

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