機能性表示食品の広告自主基準、悩みに応えるか(2016.5.26)
健康食品産業協議会らが自主的に作成した「『機能性表示食品』適正広告自主基準」。機能性表示食品の販売が始まっている中で、広告に関しては「ガイドライン」が存在しない。そのため、適正な広告表現のあり方をめぐっては、媒体社を含めた各社の個別判断に委ねられていたことが作成背景にある。
「大きな逸脱に十分注意」
機能性表示食品の広告をめぐり消費者庁は、機能性表示食品の販売が始まった昨年6月、「機能性表示食品等の広告に関する主な留意点」というパンフレットを出していた。ただ、内容的に分厚いものとは言えず、日本広告審査機構は昨年11月に開催したセミナーの中で、産業協議会が作業を進めていた広告自主基準について「我々も心待ちにしたい。これが発表されると参考にできる」と期待感を示していた。
一方、ようやくまとまった自主基準にしても、記載内容は機能性表示食品の広告作成をめぐる「基本的な考え方」が中心で、「具体論はあまり盛り込まれていない」(産業協議会)。基本的な考え方として挙げられているのは、食品表示法等の関連法や通知などを遵守すること、広告表現は届出の範囲内で行うこと、届出表示を一部省略・簡略化・言い換えなどする場合は届出表示と大きく表現が逸脱しないよう十分注意すること、医薬品や特定保健用食品などと誤認されないように留意すること──などだ。
ただ、自主基準の土台となった「『トクホ』適正広告自主基準」と大きな違いはないが、届出表示の効果を示すグラフなどのデータ、アンケート・モニター結果、個人の感想、研究者・医師など専門家による説明の取扱い方などについて一定の考え方を提示している。
届出表示に基づく機能性を示すグラフの使用について自主基準では、「効果の強調や効果を保証するような表現にならない」よう求めた上で、出典や試験条件を適切に表示しなかったり、極端なグラフのトリミングなど作為的なデータ抽出を行ったりしないよう注意を促している。特に瞬間的に映し出されるため誤認を招く恐れの高いテレビなど映像媒体でのグラフ使用については、グラフ内容をナレーションでも説明するなど、消費者が理解できる表現になるよう工夫を求めている。
また、消費者に分かりやすい情報を提供するために必要な一方、機能性表示食品の広告を作る際の大きな悩みどころである届出表示の短縮や省略、キャッチコピーなどでの代用については、「スペース等に限りがある広告においては」という前提付きで「可能」だとした。
ただ、それにより「広告全体を見て」著しく優良であると誤認されれば、景品表示法や健康増進法の観点から「問題になることがあるので十分に注意すること」と釘も指している。
現場 基準以前に厳しい制約
産業協議会らが今回取りまとめた自主基準は、全体的に見て、広告を作成する事業者の創意工夫の余地を大きく確保したものとなった。
しかし、機能性表示食品の広告宣伝を巡っては、自主基準の有無に関わらず、相当に厳しい制約が付いて回ってしまっている現実がある。
テレビ局、ラジオ局の在京5社は昨年5月、機能性表示食品の「CM考査の考え方」をまとめ、トクホやその他の食品と「明確に区別」し「視聴者(聴取者)に誤認を与えないことが重要」としつつ、機能性を訴求する表現について「届出のあった機能性の範囲を超えないよう注意する必要」があると各局に要請していた。
また新聞社にしても、今年3月にあったライオンのトクホ広告に対する健増法に基づく勧告を受け、広告審査にかなり慎重になっていると伝えられている。景表法と異なり健増法の適用範囲は、表示を行った販売業者、製造者だけではない。広告を掲載、放送した媒体に対しても同法の適用が有り得るためだ。
「誤認」を避けるために表現の自由を損なうような過度な制約が行われている──業界内からこうした指摘も聞こえる機能性表示食品の広告宣伝。機能性表示食品になったことで「細かいところにまで制約がかかり、顧客の誘因が複雑に縮こまってしまっている」と悩む声もある。こうした現実問題の改善に、今回の自主基準が役立つものと言えるかどうか。
機能性表示食品の広告問題は、いわゆる健康食品の広告問題と地続きだ。いわゆる健康食品の方が、機能性表示食品よりも「魅力的」な広告表現が出来ているという見方もある。結局のところ、機能性表示食品といわゆる健康食品の「違い」に関する消費者啓発が深まらない限り、多額の広告投資を行うのは別として、機能性表示を売上げに役立てることは難しいのかもしれない。