反ドーピング法案 成立の見通し その中 競泳界でまた違反(2018.6.7)
衆議院は5月31日、議員立法の反ドーピング法案を賛成多数で可決した。同法案は今後、参議院で審議され、今国会で成立する可能性が濃厚となった。一方、同月23日には競泳男子の古賀淳也選手(第一三共製薬所属)が、ドーピング検査で陽性を示したことが発表された。海外製サプリメントが原因との見方が出ている。反ドーピング法案の成立見通しや相次ぐ選手のドーピング違反を背景に、今後、食品・サプリメントの反ドーピング対策を巡る動きが活発化しそうだ。
法案、今国会で成立へ 5月末に衆院可決 施行は10月
衆議院は5月31日、議員立法「反ドーピング法案」(スポーツにおけるドーピング防止活動の推進に関する法律案)を賛成多数で可決した。これにより、同法案は今国会で成立する見通しとなった。施行日は10月1日で、所管は文部科学大臣(文科省およびスポーツ庁)となる。
同法案は超党派のスポーツ議員連盟が中心になって取り組んできたもので、当初は昨年の通常国会での提出・成立を目指していたが、約1年遅れる形となった。
今国会では、5月30日に衆院文部科学委員会の委員会提案の形で法案が提出され、同日に審査省略を決定、翌31日に衆院本会議に送られ、共産党を除く賛成多数で可決した。共産党は個人情報保護に関連する部分で反対の姿勢を示し、全会一致での可決とはならなかった。
同法案で対象となる競技レベルは、国際大会や全国規模の競技大会で、同大会に出場または参加しようとする選手だけでなく、監督・コーチや医師、薬剤師、支援者なども違反の対象になる。
また、文部科学省が定めた禁止物質(WADA禁止物質)の使用だけでなく、禁止物質の所持やドーピング検査の妨害行為なども違反行為となる。ただし、刑事罰などの罰則規定はない。
サプリメントなどを製造・販売する民間事業者は、直接の違反対象にはされていないが、法案では、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)などと連携・協力することが努力義務として規定されている。
JADAでは昨年9月、食品・サプリメント分野の新たな反ドーピング認証体制を検討する有識者会議を立ち上げているが、反ドーピング法案の施行日に合わせて、ガイドライン(GL)を策定するものとみられている。
このため、同GLは反ドーピング法案に何らか関連した位置付けになるとの見方もあり、同法案を直接担当するスポーツ庁の対応が注目されている。JADAも検討を急いでいる。
違反 競泳選手で2例目 海外サプリにコンタミ疑い
競泳男子の古賀淳也選手(第一三共製薬所属)が、ドーピング検査で陽性反応を示したことに関して、同選手の弁護を務める高松政裕弁護士はこのほど、7月にも禁止物質が含有していたとされる海外製サプリメントの製品名を公表する考えを示した。本紙の取材に対して明らかにした。
古賀選手のドーピング検査陽性は5月23日に同選手と高松弁護士、日本水泳連盟が記者会見を開き公表している。
会見内容によると、WADA(世界アンチ・ドーピング機構)が今年3月に古賀選手に対して実施したドーピング検査で、禁止物質のLGD‐4033とSARMS‐22の陽性反応が示されたというもの。両物質ともタンパク合成薬とされる。
古賀選手は陽性の原因として、服用したサプリメントに禁止物質が混入していたことが考えられると述べている。同選手によると、以前から5種類程度のサプリを摂取しており、これまでのドーピング検査では陽性反応はなかった。
しかし、今年2月から専門家から提示されたリストをもとに、インターネットで購入したサプリを摂取していたという。ただし、体調不良を起こしたため、現在は同サプリの摂取を中止しているという。
このため、古賀選手はインターネットで購入したサプリに禁止物質が混入していた可能性を指摘している。
インターネットで購入したサプリに関しては、米国の反ドーピング認証機関のサプリメント・データベースほか、複数の情報源を元に禁止物質が含有されていないことを確認したうえで、購入していたとしている。
摂取したサプリの製品名や紹介した専門家について、日本水泳連盟側では、「選手の弁護士が公表しないとしているため、当連盟は公表できない」(同連盟事務局)としている。
今回の件で古賀選手の弁護を務める高松政裕弁護士は、本紙の取材に対して「いわゆる禁止物質のコンタミの可能性が高いことがほぼ分かっており、混入した製品もおよそ特定できている」としたうえで、「日本アンチ・ドーピング機構の規律パネル決定が出される可能性があり、このため7月頃には古賀選手が摂取していたサプリメントの製品名を公表できるのではないか」としている。
一方、サプリを紹介した専門家については、法的責任などの観点から、現段階で氏名を公表するか回答を避けた。
古賀選手はリオデジャネイロ五輪の日本代表にも選ばれており、同競泳の400mリレーに出場している。国際水泳連盟はすでに古賀選手に暫定的資格停止処分を下しており、古賀選手側は意図的ドーピングでない旨を述べるため、同連盟の公聴会に出席するための手続きを終えているという。
日本水泳連盟では昨年3月、アンチ・ドーピング活動として、特に海外通販のサプリメントに注意するようホームページなどで呼びかけていたが、同年9月の水泳大学選手権で、参加選手が海外通販サプリに起因するドーピングで、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)から処分を受けている。