体調不良訴え なお多く ネット通販「定期縛り」が元凶か(2018.8.23)
健康食品の摂取に伴う体調不良を訴える消費者が増えている。背景にあると疑われるのは、ネット通販の新興企業を中心に多用されるようになった「定期縛り」。それに対する苦情の増加と同時に体調不良の訴えが増えており、実際に体調不良を起こしたのかどうか疑わざるを得ない状況だ。ただ、それが実際の健康被害を見えづらくさせている可能性もある。
2年度連続で1800件台
健康食品を巡り消費者から寄せられた体調不良などの危害情報件数は、2017年度も1800件台に達し、2年連続で最多となった。次いで化粧品(1500件台)、医療サービス(800件台)が続く。
国民生活センターが8日に公表した「17年度のPIO‐NET(パイオネット)にみる危害・危険情報の概要」で分かった。
一方、国センは同日、「17年度のパイオネットにみる消費生活相談の概要」も併せて公表。それによると、健康食品、化粧品は、前年度に引き続き苦情相談件数が増加した。増加の背景について国センでは、「定期購入に関する相談が依然として寄せられていることが影響している」とする。
パイオネットは、国センと全国の消費生活センターをオンラインで結び、消費生活相談情報を蓄積するデータベース。危害情報とは、商品や役務などに関連し、「身体にけが、病気等の疾病を受けた」という消費者からの申し入れだ。ただし、因果関係までは精査していない。
国センの調べによると、パイオネットでは健康食品に関する危害情報が16年度に急増していた。その前年、15年度は907件と化粧品(1041件)、医療サービス(916件)に次ぐ第3位だった一方で、16年度は1877件と200%以上も増加。化粧品などを抜き、第1位に突如躍り出ることになった。
「17年度のパイオネットにみる危害・危険情報の概要」によると、健康食品に関する危害情報件数は1847件と前年度から30件減少したものの、2年連続で1800件台に達した。全体では1万1265件。健康食品は全体の16.4%と2割弱を占めることになる。一方、化粧品は1577件(構成比14.0%)で第2位。前年度から402件も増加し、15年度以降の最高件数を記録した。
健康食品に関して危害情報を寄せた消費者の性別をみると、女性が1573件と8割以上を占める。これを年代別でみると、30歳代が237件、40歳代が403件、50歳代が399件、60歳代が248件、70歳以上が270件──。さらに、10歳代からも60件の危害情報が寄せられ、17年度は10歳代と50歳代以上で件数が増加した。
また、健康食品について寄せられた危害情報の内容については、「消化器障害」が998件で最多。次いで「皮膚障害」が497件、「その他傷病及び諸症状」が283件で続いたという。
同時に増えた定期購入苦情
激増とも言える形で健康食品に関する危害情報件数が増えた16年度、同時に急増していたものがある。「定期縛り」と呼ばれるネット通販の新たな販売手法を巡る、健康食品や化粧品などの定期購入に関する消費者からの苦情相談件数だ。
これは、「ホームページやSNS等で広告を見て、『お試し価格』『初回無料』など通常価格より安い価格で健康食品や化粧品を購入したところ、実際は定期購入契約だったという相談」(国セン)。通常より安い価格で購入できるのは複数回の定期購入が条件であることを示している場合が大半だが、その表示が分かりにくいものが多い。
国センによると、パイオネトに寄せられた健康食品や化粧品、飲料の定期購入に関する苦情相談件数は、15年度に5661件と前年度から大きく増加していた中で、16年度は1万4320件と更に2.5倍に跳ね上がった。相談件数が最も多いのは健康食品だといい、危害情報の増加に足並みを揃える形で定期購入に関する相談件数が増えている格好だ。
「17年度のパイオネットにみる消費生活相談の概要」によると、苦情相談件数は約93万7000件と、利用した覚えのないサイト利用料の請求など「架空請求」に関する相談の増加に伴い、前年度から約4.6万件増加した。そのうち定期購入に関する相談件数は1万8497件。16年度から更に4000件余り増えており、増加傾向が依然続いているという。
また、定期購入を巡る苦情相談件数の増加に影響される形で健康食品に関する相談件数も増え、17年度は3万181件と前年度から747件増加。一方、化粧品は1万5957件と健康食品の半数程度にとどまるものの、前年度から3473件も増えた。商品・役務別の対前年度増加率を見ても第3位と高く、健康食品と同様に化粧品も、危害情報件数の増加と定期購入を巡る相談件数の増加は、表裏一体の関係にあることが窺える。
実際、消費者から寄せられる健康食品に関する危害情報は、定期購入に関する苦情とセットになっている場合が少なくないようだ。国センが昨年8月に公表した「16年度のパイオネットにみる危害・危険情報の概要」には、健康食品の危害情報の事例として次の2例が紹介されている。
「スマホで青汁の初回お試しを注文。湿疹が出て体調不良になったと言ったのに、4回の定期購入で解約不可と言う。納得がいかない。(40歳代女性)」
「ネットでお試し500円という酵素を注文したら、定期コースの申込みになっていた。飲むと下痢をしたり体調不良になるし、やめたいが連絡不能。(50歳代女性)」
苦情で隠れる?本物の危害情報
また、国センと消費者庁が連携運用している「事故情報データバンク」を見ても、例えば以下の情報が登録されている。
「500円のお試しスムージーを注文したら4カ月継続が条件だった。アレルギーでドクターストップがかかったが解約拒否された」
「ダイエット食品をインターネットで買い服用したが便秘となる。解約を申し出たが、3回購入するまで解約できないと言われた」
「プエラリアサプリで体調を崩し30日間返金保証の適用希望。条件が揃わず診断書を求められた。交渉中に2回目の商品が届き不満」
「スマホから青汁を申込んだ。2月初旬から脚全体に赤い発疹が出てきたので、今日解約を申し出たが承諾してくれない」
パイオネットに寄せられた情報も転載されるため当然といえるが、同データバンクでは、こうした情報の登録件数が増えている。「健康食品」、「解約」に加え「事故情報」をキーワードに検索すると、14年4月1日~15年3月31日まで14年度の登録件数は104件。それが16年度は965件とおよそ9倍に増加した。
17年度も951件と、ここ2年は900件以上で推移しており、健康食品の摂取に伴う消費者からの体調不良の申し出件数が大きく増加している背景には、ネット通販の「定期縛り」のあることが強く疑われ、解約できない不満が体調不良の訴えにつながっている可能性も否定できないといえそうだ。
ただ、実際に体調不良を起こした可能性が疑われる例もある。国センは、「17年度のパイオネットにみる危害・危険情報の概要」の中で、以下の事例を示している。
「ネット通販で酵素食品を購入し、3日間程飲んだところで下痢をした。医師から『健康食品により下痢をしたと思われる。使用を中止するように』と言われ、飲まずに放置していたところ体調は回復。その後、定期購入と知り、解約を告げたが業者は応じない(40歳代・女性)」