規制改革、「機能性」巡り再び始動 事後規制 行き過ぎないか(2018.12.6)


 機能性表示食品の届出状況は現在、130件ほどの自主撤回分を除いても1500件に迫る水準に達しており、堅調に拡大中だ。一方、その裏側では届出後の取り締り(事後規制)も活発。行き過ぎた広告宣伝、不当な届出が是正される必要に疑いはないが、行き過ぎた事後規制が行われているのではないか──機能性表示食品制度の運用改善を図ってきた政府の規制改革推進会議が再び動き出した。

 11月28日に非公開で会合を開いたのは規制改革推進会議の「専門チーム」。ワーキンググループの議題には上げないものの、重要と判断されたテーマを検討する役割を担う。この日取り上げた議題は3つ。『機能性表示食品の届出・広告宣伝における表現について』も議論した。

 複数の関係筋によると、この日の会合では規制改革側が、機能性表示食品の事後規制を所管する消費者庁表示対策課に厳しく詰め寄った。問題視しているのは届出後の広告宣伝規制を含めた事後規制の在り方だ。事後規制は〝取り締り〟と同義。「健康食品全体に対する広告規制の在り方も問題視している」ともされている。

 今回の機能性表示食品制度を巡る議論の発端は昨年10月。規制改革ホットラインにある民間企業から寄せられた提案だった。

 この提案では、届出書類を確認する食品表示企画課で受理されても、販売開始後に表示対策課から取り締りを受ける可能性があるため、「事業展開上の予見可能性が損なわれている」と指摘。それを解消する手立てとして、両課の連携強化による「届出内容について(事後に)対策課から問題を指摘されることのない仕組みの構築」を要求するものだった。

 また、販売開始後の広告宣伝について、届出内容と照らして「著しい誤認」を与えると考えられる事例を明示するよう要求。つまり、景品表示法が禁じる「優良誤認」など不当表示の事例を具体的に示すべきだと提案していた。

 優良誤認の認定は、個別の文言などでなく、広告全体から総合的に違反か否かを検討する「個別判断」が原則とされる。そのため、取り締りの境界線は判然とせず、そのような見えづらさは、届け出たヘルスクレームに関する科学的根拠などが不適切だとして景表法などを根拠に取り締りを受けるケースでも同様にある。そうした企業の予見可能性に欠ける法執行体制の是正を求める意見だったとみられる。

 この意見をホットラインが受け付けたのは昨年10月11日。その翌月7日には、機能性表示食品の広告表示を巡る優良誤認で販売会社16社が一斉措置命令を受ける異例の事案が発生。いみじくも、その際に業界からは、「16社の中でも(問題となった広告宣伝の優良誤認性の程度に)強弱があり、境界線が分からない」などと処分基準が不明確だとして疑問視する声があがっていた。

 一方、消費者庁は寄せられた意見に対し、事例の明示については「現行制度下で対応可能」と回答。だが、対策課から問題を指摘されることのない仕組みの構築は「対応不可」と拒否した。

 機能性表示食品制度は届出後の事後規制によって適正な運用が図られる制度であり、そのため広告を含めた適切な表示の責任を負うのは一義的には企業であり、また、届出受理をもって機能性などが評価されたわけではない―ことを対応不可の理由として説明しているが、規制改革側は一切納得しなかったとみられる。

 この日の会合に顔を揃えたのは、消費者庁から食品表示企画課長、表示対策課食品表示対策室長、業界からは健康食品産業協議会および日本通信販売協会の関係者らだったとされる。規制改革側からは、森下竜一氏ら規制改革推進会議委員および専門委員の3名。

 規制改革側が表示対策課に強く要求しているのは、機能性表示食品の事後規制や、健康食品の広告規制に関する事業者の予見可能性の向上のようだ。予見可能性が損なわれているため「自由な経済活動が阻害されている」との問題意識も抱いている模様で、是正のために一定の指針を取りまとめさせようとしているとされる。

 一方で、表示対策課は、規制改革側の要求に対して「事実上のゼロ回答」(関係筋)。「持ち帰り検討する」と引き取るにとどめた。

 要求に対応すれば、広告表示を巡る「総合的な個別判断」の原則が崩れることになりかねない。しかし、規制改革側の問題意識も相当強いようだ。「納得できる回答が出てくるまで議論を続ける」などと表示対策課に詰め寄ったと伝えられている。

ブラックボックスにメス
 規制改革推進会議「専門チーム」の会合に出席した健康食品産業協議会と日本通信販売協会は、予見可能性の低さについて揃って問題提起した。

 公表資料によると、通販協は「予見性を担保する処分基準と事例公表」を提案。産業協議会は、不適切表示に対する行政の是正手段が不透明なため、企業に萎縮感や不公平感があるとし、「どのような場合にどのような是正手段が講じられるのか、『見える化』が望まれる」と要望した。

 通販協は予見可能性が低い要因の一つとして、景表法の不実証広告規制に言及。企業が提出した資料が表示の合理的根拠かどうかは行政が判断する上、どのような資料が提出されたのか詳細は明かされない。そうした「ブラックボックス」な仕組みに強い疑問を示したといえそうだ。

 一方、産業協議会は、「届出受理」と「事後規制」の関係性にも焦点を当てた。行政手続法上の届出制は本来、届出書類の内容までは踏み込まず、形式上の不備がなければ受理する。ただ、機能性表示食品の届出は、対象が「食品」である特殊事情を受け、書類確認時、形式上の不備とともに、不適切な内容の有無も確認されている。

 そのため、届出前に一定の規制が行われているのが実態で、その上で事後規制が行われているのが現在の制度運用の構図だ。こうした状況が「(届出受理までに)『これだけ不備指摘の指導を受けたのだから、内容も含め万全』だと誤解」される状況をつくっていると指摘した。

 実際問題、当事社を除く企業サイドからはブラックボックスな事後規制が続くことで、「いわゆる健康食品のほうが自由に広告できるし、手軽に販売できる」との認識が業界に蔓延すれば、機能性表示食品制度はレームダック(死に体)化しかねない。規制改革推進会議の問題意識の根底には、それへの強い危機感があると考えられる。


Clip to Evernote

ページトップ