問われた成分配合量 ボディメイク巡り優良誤認(2020.3.12)
消費者庁、M&M社に措置命令
筋肉美も売りにするお笑いタレントを起用しながら、いわゆる〝ボディメイク〟を訴求していたサプリメントの広告表示を巡り、消費者庁は3月6日、健康食品など通信販売の「エムアンドエム」(東京都港区)に対し景品表示法に基づく措置命令を行い、発表した。対象となったのは機能性表示食品ではなく一般健康食品。筋量や筋力に対する機能性を知られる成分を配合していたものの、広告表示の内容と含有量の整合性が大きく問われた。
成分の効果「否定しない」
消費者庁の発表によるとM&M社が販売する『ファイラマッスルサプリHMB』の自社ウェブサイトでの広告表示のうち、少なくとも2019年4月~20年2月のものに景表法違反(優良誤認)が認められた。同社は表示を是正し、同品の販売を現在も続けている。
同庁は優良誤認を認定した表示について「あたかも、健康的な食事や運動と共に、本件商品を毎日4粒を目安に摂取し続ければ、本件商品に含まれる成分の作用により、効率よく筋肉増強効果及び痩身効果が得られるかのように示す」と判断した。
問題となった広告表示は、筋肉質な人物の画像とともに、「プロテイン20杯相当のHMBを配合」「ボディアップ HMB&BCAA高配合」「スッキリ成分インディアンデーツ高配合」「ボディメイク&スッキリの両立」「適度な運動と食事調整の結果をより効率よく高める」──などと表示するものだった。「ファイラー~」はHMBカルシウムのほかBCAAやインディアンデーツを配合した商品。
「HMB、BCAAの効果自体を否定するものではない」。同庁表示対策課は今回の措置命令についてこう強調している。
一方、M&M社は同日、商品の購入者や関係者に対して謝罪するコメントを出した。「事態を重く受け止め、再発防止に向けて全力で取り組んで参ります」
根拠資料1.2㌘ 配合量約60㍉
今回の措置命令はいつもと様子が少し異なる。今回問題となった表示には、適度な運動や食事の管理に併せた摂取を促す表示も付随。それにもかかわらず優良誤認が認定されたからだ。痩身効果表示を巡る優良誤認事例で目立つ「あたかも本件商品を摂取するだけで」というものでは今回なかった。
この点、M&M社は6日に出したコメントで、昨年8月以降始まった消費者庁の調査に対し、「本件商品がトレーニングと食事管理を行う方に向けた栄養補給を目的とするサプリメントであると主張」してきたと説明。同庁に優良誤認と認定された表示は、同社が意図する訴求内容とは異なると釈明する。
優良誤認を認定されたのはなぜか。背景には、「ファイラ~」に配合されていた、筋力や筋量に及ぼす有効性が一般的に知られるとともに、機能性表示食品の機能性関与成分としても利用されている、HMBカルシウムやBCAAの「量」があった。
表示対策課によれば、景表法の不実証広告規制に基づき表示を裏付ける合理的根拠資料の提出を求めたところ、M&M社はHMBに関してのみ資料を提出。その内容は「運動とともに1日1200~1500㍉㌘のHMBを摂取した場合、一定の筋力増強・維持効果を得られるというもの」(同課)だった。
M&M社は海外で実施された臨床試験論文を提出したとみられる。筋肉や筋力に対する働きを訴求するHMBカルシウムを機能性関与成分にした機能性表示食品でも、海外文献を中心にしたシステマティックレビューに基づき、1日あたり摂取量を1.5㌘に設定している場合が多い。
ただ、同課によると「ファイラ~」に配合されていたHMBの量は、1日摂取目安4粒(タブレット)あたり約60㍉㌘だった。同課は「(根拠)資料の数字に対して約5%しか入っていない。従って提出された資料は、この商品の(広告表示)の根拠にはならない」と断じる。
では、筋タンパク質合成促進機能などが知られるBCAAの配合量はどうか。
同課はやはり、一般的に報告されている有効摂取量と比べて「非常に少なかった」とする。具体的には、1日4粒あたりバリン、ロイシン、イソロイシンがそれぞれ66㍉㌘、合わせて200㍉㌘未満だった。
根拠資料開示 予見性高める
BCAAも機能性関与成分としての届出実績が複数ある。運動後の疲労感軽減を訴求する飲料の場合、1日あたり摂取目安量は8000㍉㌘(バリン2㌘、ロイシン4㌘、イソロイシン2㌘)。BCAAの機能性を期待するには1日あたり2000㍉㌘以上の摂取が必要と言われる。
消費者庁は今回の措置命令について、配合成分の有効性を示す科学的根拠と照らして配合量が明らかに少なかったために、「(広告表示で標ぼうするような)効果があると言える根拠はなく、優良誤認を認定した」と解説する。
同庁が不実証広告規制に基づき提出された資料の内容を開示するのは異例だ。優良誤認の認定根拠を詳らかにすることで、事業者の予見可能性を高める目的でそうしたとみられる。
もっとも、保健機能食品は別として、科学的根拠と比較して配合量が少量だったとしても、それ自体は否定されるべきものではない。体内で不足しがちな成分を定期的に補えることで健康維持・増進につながる面もあるからだ。しかし、「ファイラ~」の広告表示から消費者が受けるだろう印象を踏まえれば、その配合量の妥当性には議論の余地が大いにある。
ちなみに、ウェブで現在確認できるM&M社運営の販売サイトによると「ファイラ~」の通常価格は9480円(税抜)、定期コースの場合は4800円(同)。HMBカルシウム、BCAAともに配合量に関する記載は、同サイト上には見当たらない。
とはいえ、現在販売中の商品は、成分配合量が消費者庁の調査時から増えている可能性も考えられる。M&M社にメールで問い合わせたところ、「消費者庁からのご指摘を踏まえ、広告表示を改善するとともに、消費者の皆様にご満足いただける商品の開発に努めてまいります」との返信を寄せるにとどまり、質問への回答を避けた。
なお、消費者庁の調べによれば、M&M社を巡り全国の消費生活センターなどに寄せられた消費者からの相談や苦情は2019年4月以降現在までに800件超に上る。そのうち400件超が「ファイラ~」に関するもの。「定期コースを解約したいが電話がつながらない」などといった販売手法を巡る相談・苦情の多い傾向が見受けられるという。
【写真=優良誤認を認定されたウェブ広告の一部。措置命令を受ければ広告塔を引き受けた有名人にも影響が及ぶ可能性がある。画像は消費者庁公表資料から】