感染予防巡り 監視とニーズの板挟み (2020.3.26)

01トップ写真差し替え3回目カラーで①

 新型コロナウイルス感染症拡大に乗じた商法に行政、司法が監視の目を光らせている。消費者庁が新型コロナ予防効果を標ぼうする健康食品や空間除菌商品などに対し、表示改善要請と消費者への注意喚起を緊急的に実施した矢先の3月19日、大阪府警が医薬品医療機器等法違反の疑いで大阪市内の薬局に家宅捜査を行った。しかし、その一方では、抗ウイルス機能が報告されていたり、免疫力を高めたりする食品を求める消費者が増えている現実もある。監視の目と消費者ニーズの板挟みに事業者が悩んでいる。

 「〝新型ウイルス予防のお茶〟宣伝の薬局を警察が捜査」(NHK NEWSWEB)。こんな見出しのニュースが3月19日午後、インターネットなどで一斉に報じられた。同10日には、消費者庁が新型コロナ予防効果を謳う商品には根拠がないなどとして、消費者への注意喚起を行っていた。

 報道内容をまとめると、「コロナウイルスに対して予防効果がある」などと記載したチラシを配りながらタンポポ茶を販売していた大阪市生野区の薬局が3月19日、薬機法違反(未承認医薬品の広告禁止)の疑いで大阪府警の家宅捜査を受けた。薬局側の認否については報じられていない。

 同店は個人経営とみられる調剤薬局で、神戸市の企業から仕入れたとみられる中国製タンポポ茶「ショウキT‐1」を店頭で販売していた。問題のチラシは、この神戸の企業の子会社(販売会社)が関与していた模様で、同社はホームページに「お詫び」を掲載。同社は販売するタンポポ茶を「不安におののく皆々様のお役に立てるのではないかと全社を上げてご案内」していたという。

 「新型コロナウイルスの予防にタンポポ茶」──タンポポ茶を巡っては、消費者庁が先月下旬から今月上旬にかけて緊急的に実施したネット広告監視調査でも、このように表示しながら販売する事業者が確認されていた。

 ハーブとしてのタンポポの葉や根の機能については、「ナチュラル・メディシン・データベース」の日本語版などに利尿効果や食欲不振、消化不良に対する効果について記載があるものの、ウイルスに関しては見当たらない。ただ、タンポポ属は一般に「病原菌に対し抗菌活性を持つ」(「健康食品」の素材情報データベース)。

 消費者庁のネット広告監視調査では他にも、「ビタミンCはコロナウイルスから体を守る」「マヌカハニーサプリ、新型コロナウイルス対策」「新型コロナウイルスの感染予防にもオリーブ葉エキスが有効です」──などといった表示が健康食品について確認され、同庁は先月10日、23事業者40商品に対して表示改善を要請したことを明らかにした。

 「現段階においては客観性及び合理性を欠く」。同庁は新型コロナ予防効果を標ぼうするウイルス予防商品についてこうした認識を持つ。現段階で新型コロナは「性状特性が必ずしも明らかでなく、かつ、民間施設における試験等の実施も不可能」(同庁)なためだ。そのため、景品表示法違反(優良誤認)や健康増進法違反(食品の虚偽・誇大表示)のおそれが「高い」とする。

 同庁はまた、感染拡大防止が強く求められる中、新型コロナ予防表示を真に受けて「感染予防について誤った対応をしてしまう」ことに強い懸念を示す。それを防ぐためにネット広告監視を緊急的に実施した。

 こうした危機意識は警察も共有しているとみられる。薬機法の目的は「保健衛生の向上を図る」ことに置かれているが、大阪府警は今回、その観点から新型コロナ予防効果を標ぼうする商品の排除に動いたと言えそうだ。行政と司法から強いメッセージが発せられたことになる。

関連商材、売上2倍の現実 「今こそ」と「火事場泥棒」の相克
 「ちょっと酷い。どんどん取り締まればいい」(原材料事業者)。新型コロナ予防効果を標ぼうする健康食品を販売する事業者に対しては業界からも非難の声が上がる。

 一方で、消費者は今、ウイルスを防いだり、免疫力を高めたりすると言われる食品をこれまで以上に求めている。配置薬業界では2月、乳酸菌配合サプリメントの売上高が前年同月対比で約1.5倍に伸長、プロポリスについては約2倍に増えたという。スーパーなどの店頭でも、ヨーグルトや乳酸菌関連製品の動きが改めて活発化。メーカー各社は出荷量を大きく伸ばしていると伝えられている。なぜか納豆まで飛ぶように売れている。

 しかし、消費者庁が緊急的に実施したネット広告調査で乳酸菌やヨーグルト、プロポリスについては新型コロナ予防効果を標ぼうする表示は確認されておらず、消費者は広告表示に踊らされることなく自主的に、新型コロナ予防対策のために買い求めている様子が見て取れる。

 もっとも、そうなる背景には、これまでの広告表示や宣伝手法があることは否定できないだろう。そうであれば、表示の改善を要請されたり、捜査されたりした事業者としては到底納得できない。ヨーグルトなどを積極的に買い求めている消費者の中に、消費者庁が懸念を示す「感染予防について誤った対応」を取る人がいないとは限らないからだ。

 「引き続き不当表示に対する継続的な監視を実施し、法に基づく措置を講じる」。消費者庁は、今後も新型コロナ予防効果を標ぼうするウイルス予防商品の表示を監視していく方針を示す。他方で、これまでにない高まりを見せている様子の免疫力向上・抗ウイルス商品に対する消費者の需要。関連素材や商品を持つ健康食品事業者は、監視とニーズの板挟みになっている。

 「いま打ち出さないでいつ打ち出すのか」。免疫力を高める可能性が示唆されているとする素材を取り扱う原材料事業者はこう話す。一方で、「うちにも関連素材がいくつかある。改めて拡販に動きたい気もするが、火事場泥棒と思われたくはない」と別の原材料事業者は言う。

 新型コロナ予防効果を標ぼうするのは便乗商法だが、免疫力を高める食品を普及啓発するのは便乗ではなく、むしろ社会貢献になる──こうした考え方も聞かれる。

 ただ、この局面では暗示であれ免疫力に関わるアピールをすれば、消費者はすぐさま新型コロナ予防効果を連想することになりそうだ。それも一種の便乗商法ではないかと言われた時、返す言葉とエビデンスを業界は用意できているだろうか。

【写真=国立健康・栄養研究所も新型コロナ予防効果を謳う健康食品の宣伝に対する注意を呼び掛ける】



Clip to Evernote

ページトップ