健康食品安全対策委員会 報告書 日医、健康食品どう見る (2020.8.6)
サプリメント・健康食品の健全な市場成長・発展のためには医療従事者の理解と支援が欠かせない。そのためには、日本医療界の総本山、日本医師会との関係構築が必要となる。日医がサプリ・健康食品に向ける眼差しと直接向き合うことも求められるだろう。2016年から活動している日医「健康食品安全対策委員会」がこのほど取りまとめた報告書から最新の眼差しを探る。
「健康食品は取らない方が良いと発言していたが、そのように勧めると隠れて使うようになるジレンマがあった」
東京都医師会の尾崎治夫会長を長とする日医の「健康食品安全対策委員会」。今年6月に取りまとめた報告書にはこんな記述が見られる。報告書は、日医の横倉義武前会長の諮問を受け、2018年12月以降5回の議論を経て、取りまとめられたものだ。
この記述は、健康食品に対する否定的な見解を詳らかにしつつ、それでも健康食品を手放さない患者、消費者への対応に悩んできたことを明かしたものとも言える。
そんなジレンマを解消するために、現在取っている手段はこうだ。
「『使うな』ではなく、使うのであればメモを取るようにと勧めている」
報告書によると、問診で健康食品の摂取有無を確認すると、「特に摂取はしていません」と言いつつ「いつも青汁は飲んでいます」のような返事をする患者が多い。そんな現状を報告書は「自分が健康食品を摂取しているとの認識が薄くなっている」と表現する。
また、消費者自身が「どの健康食品をいつからどれだけ摂取しているか」を把握していない現状を憂い、懸念を示す。報告書が保健機能食品を含む健康食品全般に対して向けた大きな問題意識がそこだ。「一番の問題」だともする。
なぜか。健康被害が万が一生じた場合、「(原因について)患者に思い当たるふしがなく、医療側にとっても原因究明の途が閉ざされてしまう」からだ。それに、摂取した健康食品が原因である可能性が推測されたとしても、「摂取の履歴がわからなければ、医師にとっては、確信を持っての判断を下すことが難しくなる」
健康食品を利用することは否定しない。ただ、健康被害が生じた場合に原因究明がスムーズに行えるよう、健康食品の使用についてメモ(記録)を必ず取って欲しい──日医は今年2月、そんなメッセージを患者、消費者に伝える啓発ポスターを会員医師に配布。病院の待合室に掲出するよう求めている。
「(健康食品の)利用者が自分の体調を意識して把握できるようになり、健康食品によって体調がよくなったか、効果がみられなかったかを自分で判断できるになる。そうすれば、仮に効果が実感できなければ自発的にやめることができる」
メモの効用について、報告書はこうした考え方も記した。逆に言えば、そのように使用した上で効果を実感できるのであれば、健康食品、サプリメントを使用することは妨げないということだろう。
「患者を含めた一般消費者と近い立場にいる医療者が、保健機能食品を安全で効果的に利用するための良き相談相手となることが重要である」
同委員会が18年6月に取りまとめた報告書にはこのような記述も見られる。また、次のようにも提言している。
「医療者が消費者から相談を受けた際に効果と限界について話し合い、消費者が適切に判断できるようになることを通じて、国民のヘルスリテラシーを高められるよう、日本医師会にはその支援の拡充を期待したい」
同委員会は先ごろ取りまとめた報告書で、食品の機能性表示を巡る現状を「表示が許される範囲が広がりつつあり、国民・消費者に混乱をもたらしている」と指摘した。ただ、サプリメント・健康食品を「使うな」の姿勢から、条件付きで容認する考えも覗かせている。一方で、健康被害を起こす可能性、品質、機能性の程度、そして広告宣伝には厳しい眼差しを送り続けている。
日医「健康食品安全対策委員会」 「いわゆる」に厳しい視線 「保健機能」評価も苦言多く
日本医師会の「健康食品安全対策委員会」が今年6月に取りまとめた報告書。「いわゆる健康食品」に対して厳しい眼差しを向ける一方で、機能性表示食品など健機能食品に対しては一定評価する。ただ、言いたいことは山ほどあるようで──。
報告書は「いわゆる健康食品に」について次のように記述する。
「天然」「自然」を謳う健康食品もあるが、「一般に天然の原材料は関与成分だけでなく、不純物も多く含んでいて原材料管理が難しい」、数十種類の成分、素材を配合していることを強調する広告も多いが、「(消費者にとっては)どれかが効くのではないかとの期待が生じるかもしれないが、(健康被害が生じた場合)どの成分が合わなかったのか医療機関では判断のしようがない」──。
さらに複数の成分・素材を配合し、そのことを強調する健康食品について、「ほとんどの成分が意味の無い少量しか入っていない製品もみられる」とまで言う。
それに対して特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品などの保健機能食品についてはこう記述。「いわゆる『健康食品』と比べれば優良な健康食品とも言える」
ただし「それぞれ課題を抱えている」と付け加えることを忘れていない。
トクホに関しては、「しっかりとしたデータを出した商品ができれば、日本から世界へ打って出る商品となる可能性」を秘めているとの期待感を示しつつ、「課題」として次の5つを提示した。
①健康への寄与の問題②疾病罹患者など二重盲検試験の参加者とは異なる層が利用すること③トクホを摂れば大丈夫と安心する可能性④関与成分の有効性等は科学の進歩によって変化する可能性⑤間違った方向性のテレビコマーシャル──。
このうち①では、トクホに求められる健康維持・増進に関わる機能性が、実際に疾病リスク低減などにどの程度寄与しているのかが不明だと指摘。「費用対効果」を検討する必要があるとした。
一方、特に厳しい見方を提示したのは⑤の課題だ。「他の健康食品の広告も同様」だと指摘しつつ、〝食べすぎてもこれさえ飲めば大丈夫〟と言わんばかりの宣伝に対し、「売上のために、悪い生活習慣の免罪符であるかのような誤解を招く広告は適切とは言い難い」と苦言を呈す。
他方で、機能性表示食品に対してはより厳しい視線を送る。表示する機能性の科学的根拠が恣意的に選ばれる可能性がある他、錠剤やカプセル状の製品について「体内に吸収されない可能性」があると指摘。さらに、前述のトクホ課題の課題として指摘した③④⑤は、機能性表示食品にも当てはまるとした。
錠剤、カプセルといったサプリメント形状の機能性表示食品が「体内に吸収されない可能性」。これは「崩壊性」に言及したものだ。
報告書では、日本薬剤師会が定期的に実施している、日本薬局方に基づく機能性表示食品の崩壊試験結果を引き合いに出し、「3年間のトータルでは、56種類のうち15種類、約28%が不適」との結果が報告されているとした。
業界内では以前から、医薬品に関する崩壊性試験の方法や基準などをそのままサプリメントの崩壊性の検証、担保に適用させることに対し、強く疑問視する意見が上がっている。サプリメント特有の事情が考慮されていないという思いが背景にある。
報告書も、そうした事情を考慮しているわけではない。ただ、「機能性を謳うのであれば、少なくとも、吸収されることが必要」との正論に業界はどう答えるか。
報告書では、「製造を外注していることが多いため、受託製造企業に対しての働きかけが有効策の一手」だとし、機能性表示食品などサプリメント・健康食品の品質管理に対する厳しい眼差しを市場の川上にまで向けている。