健康食品 危害情報、なぜ2倍 (2020.9.10)
健康食品に関する消費者からの「危害情報」が激増している。2019年度は3911件と4000件に迫る数字となった。前年度比は2倍を超える。10年前は500件未満にとどまっていたものが、ここまで増えるのは何故か。悪質な定期購入商法が背景に横たわっている可能性が高い。
全国の消費生活相談情報が蓄積されるデータベース「PIO‐NET」(パイオネット)。運用する国民生活センターは2020年9月3日、パイオネットに収集された19年度の「危害・危険情報」のまとめを発表した。
危害情報とは、商品、サービスなどに関連して「身体にけが、病気等の疾病(危害)を受けた情報」(国セン)のこと。消費者からの〝自己申告〟に基づく。そのため因果関係が調査されたわけではないが、健康食品に関する危害情報は、摂取した商品で受けたと主張された健康被害の訴えに当たる。
10年前、09年度の健康食品に関する危害情報件数は459件と500件未満だった。14年度になっても583件。それが19年度は3911件という異常な数字を示した。増加率を見ても、前年度の1800件から200%以上と、やはり異常な数字だ。
ただ、件数はじわりと増えていた。15年度は898件と前年度比で300件以上増加。そして16年度は1866件と一気に1000件の大台を突破。以降18年度まで1800件台で推移。そして19年度は4000件に迫る数字に至ることになる。
原因は何なのか。注目したいのは、健康食品の「販売契約」絡みの苦情相談件数が激増している事実だ。
国センによると、パイオネットに19年度収集された健康食品に関する苦情等の相談件数は5万4439件。前年度の3万2949件から約1.7倍に増加した。
増加要因としては、通常価格より安い価格で購入したら「実際は定期購入だったという相談」、それが「解約できないという相談」が増えている影響があるという。つまり定期購入に関する苦情の増加が、健康食品全体の苦情件数を大きく押し上げた。
では、そうした苦情の具体的件数はどれほどか。消費者庁が取りまとめた令和2年版消費者白書によると、「お試しで購入したつもりが定期購入だった」といった相談を主とする健康食品の定期購入に関する19年の相談件数は、約2万6700件という。
18年は約1万4400件だったから増加率はおよそ2倍。健康食品に関する危害情報の増加と足並みを揃えるように、定期購入に関する苦情相談件数も増えていることになる。
そして、健康食品の定期購入を巡る苦情増加の背景には、複数の特定企業による、通常よりも安い価格を提示しながら消費者をつり、高額な定期購入などに不当に落とし込み、解約ができないようにする「悪質な定期購入商法」があると考えられている。
19年度に消費者から寄せられた健康食品に関する危害情報の事例として、国センは以下を示している。
「ネット上の広告を見て100円のダイエットサプリメントのモニターを申し込んだが、後で高額の請求があり定期購入だとわかった。飲むと下痢をする。解約したい(50歳代・男性)」
「スマホで動画広告を見て、500円程度の筋肉増強サプリを申し込んだ。飲むと湿疹が出たので解約を申し出たら、定期購入なので初回分を定価で支払えば解約できると言われた(60歳代・男性)」
これらは果たしてサプリメントで生じた健康被害の訴えなのか。むしろ実際に訴えたかったのは、悪質な定期購入商法で受けた、あるいは受ける可能性のある経済的被害に対する苦情、憤り、不平・不満ではなかったか。
こうした消費者からの怒りの声が今後も積み上がり続けば、悪質な定期購入商法に使われたサプリメントに配合された素材、成分に対して、当局からも健康被害リスクの疑いをかけられかねない。最終製品としての製造・品質管理に疑いの目が注がれることもあり得る。
健康食品や化粧品の悪質な定期購入商法に対しては、消費者庁が特定商取引法の改正を通じて規制の抜本的強化を図ろうとしている。ただ、原材料事業者や最終製品受託製造企業など業界自らで、濡れ衣を決して着せられないための自己防衛策を講じておく必要がありそうだ。