〝免疫元年〟となるか 対応素材 注目度じわり高まる(2020.9.10)
触りたいのだけど触りづらい──業界にとって「免疫機能」は長らくそんな位置付けにあった。
しかし、そうした業界関係者の認識がここにきて大きく変わろうとしている。「健康な人の免疫機能の維持をサポートする」。このような働きを訴求する機能性表示食品の届出が今夏、公開されたからだ。この届出の後を追える有望な免疫機能対応素材はあるのか。そこに着目したのが計4ページにわたる今回の大型特集企画。〝食〟と〝医〟の間に横たわる断絶をつなぐことのできるヘルスケア食品の、本格的な市場形成に向けた第1弾企画としてお届けする。
国内サプリメント・健康食品業界の「免疫元年」──後年ふり返った時、2020年はそう呼ばれる年になるのかもしれない。
その年の初頭から始まった新型コロナウイルス問題。それまでの人々の生活スタイルは大きな変革を余儀なくされ、もちろん、「食」の世界もその影響を受けた。
一般消費者にとって耳障りのいい「免疫にいい食品」という言葉が市場全体に飛び交った。店頭から一時的に納豆が消え、発酵食品やヨーグルトなどの乳酸菌食品が大きく売り上げを伸ばした。プロポリスに代表される免疫機能関連商材は好調な売れ行きを示した。
過去にも、インフルエンザ流行時、特定の乳酸菌が「免疫にいい」などとして売り上げを大きく伸ばしたことがあった。
そうした事実を踏まえれば、一般消費者は自然と次の流れを認識していることになる。
「ウイルスなどが流行した→予防・防御するためにどうすればいいのか→免疫を高める必要がある」の流れだ。つまり、免疫機能に良い影響を与える食品をとれば、「体(免疫機能)が強くなって感染予防につながる可能性がある」ということを、その科学的根拠までを考える消費者はあまり存在しないのだとしても、大まかには理解している。
そうしたなかで、20年が「免疫元年」と後年に評価される理由となる出来事としては、機能性表示食品における「免疫」表示の実現がある。
届出受理の衝撃
20年8月7日、「健康な人の免疫機能の維持に役立つ」といったヘルスクレームを行う機能性表示食品の届出が受理、公開された。キリンビバレッジとキリンホールディングスが届け出たプラズマ乳酸菌を機能性関与成分とするサプリメントなど5商品だ。年内にも、「健康な人の免疫機能の維持をサポート」と表示された食品が市場にお目見えするだろう。
免疫機能表示が実現した背景には、第2期健康医療・戦略をはじめ未来投資戦略、バイオ戦略といった3つの国家戦略があったと考えられる。「科学的知見の蓄積を進め、免疫機能の改善などを通じた保健用途における新たな表示を実現することを目指す」とそれぞれ明記されたことで、実現に向けた道筋は整った。ただ、こんなにも早く実現したことに驚きの声を上げた業界関係者は少なくなかった。
背景には、「免疫は難しい」ことがある。
「免疫」の言葉の意味は定義されているものの、サプリメント・健康食品や食品業界だけでなく、医学、薬学の世界でもその概念は確立されていない。
さらに、一般的に「免疫が低い」といわれる状態は、ウイルスや細菌などの病原体から身を守れなくなる可能性がある一方で、逆に、免疫機能が強く発揮されすぎてしまうと、それはそれで厄介。その典型例が「アレルギー」だ。
花粉症に代表されるアレルギー性鼻炎をはじめアレルギー性皮膚炎、気管支喘息、さらに薬剤や食品に対するアレルギーは、ひどくなるとアナフィラキシーショックなどの重い症状をも引き起こす。さらに、免疫系機能が正常に働かない「免疫不全」や、何らかの原因で自分の組織や細胞に対して免疫反応を起こしてしまう「自己免疫疾患」もある。
免疫システム全体の基本的なメカニズムや免疫細胞の機能等は徐々に解明されつつある。ただ、免疫細胞間の連携や免疫細胞個々の詳細な機序については分かっていない部分も多く、総体的に「免疫」を捉えることは非常に難しいのが現状だ。
また、食事や運動など、生活習慣の改善によって免疫力を調整できるであろうことは肌感覚でも理解できるものの、具体的にどの免疫細胞、どの指標が動けば、「免疫力がついた」「免疫力が改善された」と判断できるのか?それがどのように健康の維持増進に寄与するのか──といった部分は、いまだに研究者や医師等の専門家の間でもコンセンサスがとれていない。
一方で、逆に言えば、免疫機能に関するデータをある程度備えている場合、その食品などが生体の免疫機能に資する可能性があることを、明確に否定することもできないと言える。
第2、3弾焦点
近年、分析機器や分析技術など、科学的知見を積み上げるためのツールは革新的に進歩している。それもあり、食品の免疫機能に対するデータが積み上がりつつある。
そうした状況を直接反映するかのように、「免疫の維持」を訴求する機能性表示食品の届出が公開された。
機能性表示食品において認められない表現とされている「抗体や補体、免疫系の細胞などが増加するといったin vitro試験やin vivo試験で科学的に説明されているものの生体に作用する機能が不明確な表現」(届出ガイドライン)の部分に関しては、一定の科学的な説明ができれば、生体に作用する機能、つまりアウトカムをしっかりと結び付けていくことで、今回のように免疫機能表示が可能となることが示唆された。
今後、免疫機能表示を行う機能性表示食品の届出が続く可能性は高い。第2弾、第3弾の届出が年内中に出てくれば、後年、2020年は「免疫元年」と評されることがほぼ確実となる。