認知機能 どう広げる アプリ活用等の新提案(2021.3.11)

02市場最前線写真上② キリン合体①

 国民の3人に1人が65歳以上となる超高齢社会が間近に迫るなか、認知機能を改善するなどの健康対策の取組みが様々な方面で進んでいる。健康食品業界では、イチョウ葉やDHA・EPAなどを機能性関与成分に、認知機能に対応する機能性表示食品の届出公開が300件を超える数に達している。一方で、消費者の側では、自身の認知対策についての意識が希薄な面もみられる。認知機能対策の重要性を訴求する取組みが求められそうだ。

 キリンホールディングスは独自素材のβラクトリンを用いた認知機能対策の取り組みを始めた。βラクトリンは、キリンHDと協和キリン、小岩井乳業が見出したホエイプロテイン由来のペプチドだ。来月から、βラクトリンを機能性関与成分に、「認知機能の一部である記憶力を維持する」働きを訴求する機能性表示食品を売り出す。

 まずは同社グループの協和発酵バイオが来月20日からサプリメントを市場投入し、次いでキリンビバレッジ、小岩井乳業が飲料を順次販売していくなどして初年度で4億円の売上を見込む。3年後には15億円の売上規模に育てる計画。最終商品以外のBtoB展開も進めるなど事業領域を拡げていく考えだ。

 脳機能領域の国内市場は近年拡大基調。国内市場は2020年は530億円、27年には580億円に伸長するとも推測されている。しかし、世界的にはより大きな成長率が見込まれており、超高齢社会の日本での潜在ニーズは想像以上に大きい可能性がある。

 キリングループでは、当面はテレビCMなど大規模なプロモーションを行う予定はないようだが、脳機能をトレーニングするためのアプリを開発し、アプリを利用してもらうことで認知機能の重要性を意識させる取り組みを始たい考え。大学や自治体との脳科学研究から得た知見を通じて開発したもので、主に60代以上のシニア層に向け活用を促すという。

 このアプリでは、「記憶力」「集中力」「柔軟さ」など、〝脳力〟を鍛えるための5種類のゲームを用意。また、シニアの利用頻度の高い歩数チェックなどの健康項目も導入し、利用頻度を高める工夫を行った。食事記録、睡眠・体重といった体調管理の記録も可能で、脳機能のトレーニングと合わせ健康習慣を促すプログラムとしても利用を促していきたい考えだ。また、将来的には30~50代など若い年代に向けた脳機能対策についても検討する。

 このようなアプリを開発した背景には、認知機能対策サプリで課題視される「体感性」への対応があるとみられる。今月2日に商品発表会をオンラインで行ったキリンHDの担当者は、脳機能対策商品の体感性について、「短期的に効果を上げることは難しいが、脳トレのアプリとセットで用いることで体感性を上げていきたい」とし、じっくりと市場構築を進めたい考えを示した。同社グループだけでなく、協業による事業展開もしていく計画で、雪印メグミルクがβラクトリンを用いたヨーグルトの販売を今年6月に予定。グループ内外で認知機能対策の取組みを進めていく。

CSRの一環で必要性啓もうも
 脳機能、認知機能の対策はキリン以外でも進められている。伊藤園では、認知機能に関する課題解決に向けたプロジェクトを昨年11月から始動。同社の20年にわたるカテキンの研究をベースに、抹茶に含まれるテアニンを活用するもの。抹茶の継続摂取によって健常中高年者の認知機能の一部を改善することを確認し、同月からテアニンと茶カテキンを機能性関与成分にした機能性表示食品の飲料を市場投入している。同プロジェクトでは、製品開発はじめ共同研究、地域社会、他企業との協働によるCSR活動など多角的な事業展開を通じて、認知症への理解を深める活動を進めている。

 認知機能改善のアプローチは今後どうなるのか。運動や人との交流など、認知機能の衰えを低下させる手法はいくつもあるはずだ。その手法のひとつとして、機能性が裏付けられた機能性表示食品が一助として活発に用いられるような各企業の取組みに期待したい。

【写真=キリングループらはβラクトリン配合の機能性表示食品と脳機能をトレーニングするアプリ「脳トレ」の活用を促していく】


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