新制度対応も視野、参入「社会の要請」 武田薬品(2014.10.23)
大手製薬企業の武田薬品工業が再び健康食品事業を手掛けることに業界からも驚きの声があがる。しかも、再開第1号製品に選んだのは「ミドリムシ」の和名で注目度を高め、市場を大きく広げたユーグレナ。ジェット燃料への応用開発で期待されていることもあり、「話題先行」との見方も出ているが、ユーグレナ食品で機能性表示を行うことを目的にした再始動だと見られる。鍵になるのは特有成分パラミロンだ。
16日、健康食品「緑の習慣」発売に伴い武田薬品工業が開いた記者会見。「日本社会に大きなニーズが存在するということに尽きる」(杉本雅史・同社ヘルスケアカンパニープレジデント)と食品事業再開の理由を強調した。国の医療財政の破たんを防ぐためにはセルフメディケーションの社会的浸透が重要。その中で「OTC医薬品も大きな役割を担うが、今回の健康補助食品も担える。お客様のニーズ、社会の要請が我々を動かした」
同社は96年、子会社で飲料・食品事業を手掛ける武田食品工業が発売したサプリメントで初年度20億円以上の売上げを達成。一方、06年には、その武田食品の事業を受け継ぐ合弁会社ハウスウェルネスフーズをハウス食品との間で設立(07年にハウス食品が完全子会社化)。これにより飲料・食品事業から事実上撤退していた。
武田薬品として本格的に健康食品事業を展開する第1号製品「緑の習慣」の初年度売上高目標は1億5000万円。同社のヘルスケア事業の売上収益は729億円(14年3月期)と、それに比べるとささやかな出足となるが、「アリナミンやベンザブロックといった(同社ヘルスケア事業を代表する)ブランドに育てていきたい」(杉本プレジデント)と意気込みを語る。
同社ではユーグレナを配合した第2、第3の製品の市場投入も計画している。ユーグレナ社との間で締結した「包括的提携契約」に基づき両社との共同研究・開発により進める計画。具体的には決まっていないが、OTC医薬品、医薬部外品、特定保健用食品といった、エビデンスに基づく国の許認可を消費者に訴求できる製品開発を進めていく方向だ。
しかし、ユーグレナを医薬品にすることは可能なのだろうか。この点について同社はユーグレナに特有の成分とされる「パラミロン」の機能にその可能性を見出している。「パラミロンにフォーカスしていることが今回の共同プロジェクトの特徴」だと出雲充・ユーグレナ代表取締役社長は話す。
「医薬品会社として血が騒いだ」などとして武田薬品が強い関心寄せているパラミロンは、βグルカンの一種だ。表面が多孔質を形成しており、コレステロールなど脂質を吸収・排出する機能があり、生活習慣病の予防につながる可能性が示唆されている。
パラミロンを巡ってはユーグレナも以前から機能性研究に注力。まだ基礎研究の段階だが、これまでにアトピー性皮膚炎の緩和、免疫バランスの調整、大腸ガン抑制、創傷治癒(パラミロンを用いたフィルムによるもの)といった機能を見出している。
医薬品化は「長い時間」
16日の会見ではユーグレナの医薬品化に向けた取り組みに関して多くの質問が記者から飛んだ。
これに対して武田薬品は、「実際に製品化するには相当に長い時間がかかる。基礎研究で確認されていることが証明されるとは限らない。長い時間を掛けて検討していく」と慎重姿勢に終始。具体的にどのような医薬品を開発していく見通しなのかも語らなかった。
一方で、今回の武田薬品とユーグレナの取り組みは、武田薬品の方からユーグレナに働きかけたことがきっかけとなっている。両社が正式に協同し始めたのは昨年春。政府・規制改革会議による健康食品の機能性表示解禁の議論が大詰めを迎えていた時期とちょうど重なる。
武田薬品は来春にもスタートする見通しの機能性表示制度への対応について「(制度の詳細が)しっかり固まってきた段階でどのような表現が可能なのか研究してみたい」と語るにとどめる。
ただ、杉本プレジデントは「新制度の下で、これまで以上に生活者からの食品の機能性に対する期待が高まると予想している。こうした環境やニーズの変化に対し、製薬企業としてしっかり応えていく必要がある」と会見で語っている。パラミロンを機能性関与成分とし、今回の新商品、あるいは今後市場投入する食品で、機能性表示を行いたい考えが透けて見えてくるようだ。
【写真左=16日の会見で握手する杉本雅史氏(左)と・出雲充・ユーグレナ社長。写真右=販売を開始したユーグレナ製品】