健康データ、健食開発へ 神奈川県がキックオフ会議(2014.10.23)
社会保障制度の維持に向けて「ヘルスケア・ニューフロンティア」を掲げる神奈川県は、健康・未病産業の創出に動き出した。健康の維持・増進から未病のモニタリング、未病のクラウド化、未病の科学へのフローで産業を創出し、県民の健康寿命を延伸させる構想だ。
神奈川県の黒岩祐治知事は14日、神奈川県庁で開かれたCHO構想推進コンソーシアムキックオフ会議で、民間企業社員の健康状態データをビジネス化する構想を発表した。黒岩知事は「社員の歩数や体重、健康診断データ、レセプトデータなどを見える化して健康を増進すれば、労働生産性が向上し、企業の医療費負担を低減できる」と述べた上で、ビジネス化の可能性を示唆した。
「例えば健康状態データをモニタリングデータとして食品メーカーに提供して、メーカーは提供されたデータからサンプルを作って、提供元の企業でサンプリングを行う。この連携によって、糖尿病にアプローチできる食品などの開発につながるかもしれない」。
同様に、健康計測機器や健康診断サービスなど健康関連企業の新商品と新サービス開発を創出する意向を示した。
CHOとは「健康管理最高責任者」の略で、企業や団体内で経営責任の観点から従業員の健康管理を推進する役職。神奈川県庁では黒岩知事がみずからCHOに就任し、目標達成にはポイントを付与する制度を設けて職員に歩数計を使用させている。
神奈川県は、①ⅰPS細胞やマイカルテなど最先端医療と最新技術の追求②漢方の産業化や運動習慣症例で未病を治す―の2つを融合させて「健康寿命日本一」「新たな市場・産業の創出」を指向し、その推進に向けてCHOの普及に着手した。3年後に、CHO健康企業の認定と未病産業のビジネスモデル確立を目指す。
既に神奈川県顧問の渡辺賢治・慶応大学環境情報学部教授は、国民医療費を抑制する未病対策として漢方の産業化を推進中だ。薬草栽培から製造加工、流通までのバリューチェーン構想を打ち出し、県内では茅ヶ崎市での薬草栽培などを支援する。
14日のキックオフ会議には県内外127の企業、自治体、大学、団体が出席した。企業の顔触れは様々で、アインファーマシーズ、足裏バランス研究所、味の素、JVCケンウッド、ドリームインキュベータ、ファンケルヘルスサイエンス、リコー、わかもと製薬など多業種に及んだ。
従業員の健康管理による業績向上や、未病ビジネス創出への関心が反映されたようだ。
社員の健康管理について、光関連機器などの大手メーカー㈱フジクラの浅野健一郎人事・総務部健康経営推進室副室長は「従業員の健康を重要な経営課題ととらえ、経営責任をもって健康管理と疾病予防に取り組んでいる」と報告。同社は社員の健康管理に①個人と家族のQOLの視点②労働契約法における職域での安全・健康配慮の視点③企業の生産活動における労働生産性の視点④企業・個人の保険料(医療費)負担の視点―など7つの視点を設定した。
同社は健康増進の取り組みを計画的に進めている。2010年度に健康増進・疾病予防を重点テーマに決定し、13年度には全社健康推進体制を確立した。
浅野氏は「フィジカルとメンタルの疲労感、不眠や睡眠パターンの乱れ、日々の活動の不活発化などは不調の兆しで、慢性化すると危険信号だ」と指摘した。予防活動については「個別化プログラムとセルフケアなど個人へのアプローチ、職場対抗イベントやワークショップなど職場へのアプローチという2つのアプローチが必要」と提言した。将来はビッグデータを活用した多変量解析によって、支援内容の個別化に向かうという。
こうした取り組みの成果は、企業価値の向上に集約される。神奈川県の首藤健治ヘルスケア・ニューフロンティア医療政策担当理事は企業価値の向上について、健康価値基準の4次元モデルを提示する。個人健康満足度、コスト削減効果、労働生産性向上の3次元に、未来に向けた時間軸を加えた4次元の推進によって「全体最適が進んで、企業価値が向上する」(首藤氏)。
神奈川県が発足させた未病産業研究会には今年9月30日現在で82法人が加盟している。首藤氏は「未病産業の創出に向けて、県は企業の取り組みを強力にバックアップする」と呼びかける。エビデンス確立やビジネスマッチングなどを支援する方針だ。
【写真は神奈川県庁で行われたキックオフ会議(14日、横浜市・中区)】