病者巡る議論は平行線 「境界域と病気 境目曖昧」(2014.11.20)
規制改革会議の健康・医療ワーキンググループが、食品の機能性表示制度を議題に、消費者庁食品表示企画課課長らを呼んで先月17日に開いた会合の議事録が、このほど公表された。文献レビュー(システマティックレビュー)のあり方、特に「被験者」をめぐる同庁と委員の議論は堂々巡りの平行線。境界域の人を含めた「病気でない方」を対象にしたデータをエビデンスにすべきとの主張を続ける同庁に対し、「(機能性表示を可能にするための)議論の最初に戻っているような気がします」と委員の一人がぼやく。
「何度も申し上げていますけれども」。
「何度も言うようですがというのは、むしろこちらが言いたいセリフです」。
会合は非公開のため議事録から窺い知るほかないのだが、同じ話を繰り返す同庁に対し、規制改革会議委員の林いずみ・永代総合法律事務所弁護士は苛立ちを隠さない。「科学的な数値ではなく、健康か病気かでまず分けるのだというのは、ナンセンス」。
「病気でない方を対象としてデータを取り、それをエビデンスとしていただきたい」(食品表示企画課・竹田秀一課長)。議事録によると、同庁は食品の機能性表示制度における機能性評価についてこう考えている。
「健康な方の健康をより維持増進していくというのが、今回の制度の食品の考え方。病気の方のデータというのは、病気の方にはこういう効果がありますということになり、それは健康な方にそのまま当てはめることはできない」「健康な人が飲んだときにどうなるか分からないのであれば、エビデンスがあるとはいえない」
竹田課長は会合の中で繰り返しこのように述べている。「健康な人」とは「病気でない人」の意味のようで、そこには疾病の境界域にある人も含まれるという。
ただ、感染症などの急性疾患は別にしても、健康と疾病は連続線上にあるものだとする捉え方が現代では一般的。各委員も、同庁の考えに疑問を投げかける。
「境界域と病気をどう定義するのかが非常に分かりにくい」と指摘しているのはWG座長の翁百合・㈱日本総合研究所副理事長。医師でもある森下竜一・大阪大学大学院医学系研究科教授は「病気か病気でないかというのは、あるところを境目に決まらない」としている。
事業者によって温度差はあるのだが、同庁が求めるように、病者を被験者にしたエビデンスを文献レビューの対象外とすると、「使える論文はかなり限られる」という訴えは多い。
この点については翁座長も懸念を示している。「(機能性表示を行うための)入口がすごく狭まってしまうのではないかという印象をすごく持つ」「限定的に解釈していただくと制度の趣旨と異なってしまう」。
一方、疾病の境界線上にある人のエビデンスは使える。しかし、ケースとしてはかなり多いと見られる海外文献をレビュー対象にする場合に特に、事業者は微妙な判断を迫られる可能性が高い。後から「病者だ。違反だ」などと言われてはたまらない。
「最終的に混乱が広がるだけ」だと森下委員は言う。「日本で言う病気というレベルは、必ずしもヨーロッパでは病気ではないこともあるし、それぞれの国ごとで違う」「(病者なのか境界域なのかを)区別できないというケースが圧倒的に出てくると思う」「基準に関しては医者の間でも(意見が)分かれているぐらい」「医者でも答えられないし、消費者庁も多分お答えできない」。
その上で、この課題の落としどころについてこう考えを述べている。
「重症な人は除くとか、薬を飲んでいる人は除くとか、これは駄目ですという明確な基準を(消費者庁に)決めてもらい、それ以外に関してはできる限り正常な方のデータを中心にやってもらった方が良いけれども、ボーダーラインに関してははっきりしないので、そこはある程度メーカーに任せる」──それで良いのではないか、と。
この日の議論で最も時間を割いたのは、この「病者」のところだったようだ。しかしこの課題、今年7月まで行われていた検討会では議論されていないし、報告書にもその旨記載はない。そのため林委員も、「どこから『病者かどうか』というのが出てきているのか」と竹田課長に尋ねている。答えはこうだ。
「食品である以上、健康な方が通常摂取される。その際に体により良いことが起きるというエビデンスを集めていただくということであり、その点について(新制度)はトクホとまったく同じ考え方。したがって大前提になっているので、あえて書いていない」。