機能性表示 幕開けの年 重要となる始めの一歩(2015.1.8)


― 2015年展望 ― 健康寿命延伸に貢献 新規需要開拓の契機にも

 健康食品市場の様相を大きく変えるだろう機能性表示制度が、食品産業全体を巻き込みながらいよいよ2015年春からスタートする。国の許認可ではなく企業の自己責任による機能性表示という日本では全く新しい試みに企業、消費者の双方が戸惑うに違いない。消費者の理解を得て、機能性表示食品が市場に浸透するには時間を相当要すると見られるが、新制度を価値あるものにするためには始めの一歩が肝心となりそうだ。

 一昨年の拡大から一転、2014年の健康食品市場はマイナス成長となった。健康産業流通新聞の推定では約9%減と落ち込み幅は決して小さくはなく、「アベノミクス」をつまずかせる要因となった4月の消費増税が、健康食品の個人消費も大きく鈍らせた。

 秋以降、健康食品の消費は回復基調に傾いたと見られる。しかし、円安などに伴う原料価格高騰の懸念もあり、市場の足元は不安定だ。そんな状況の中で機能性表示制度が4月にもスタートする。健康食品産業界は新制度を大いに活用し、健康寿命の延伸という国是に貢献し、市場を大幅拡大に反転させる起爆剤としていくべきだ。

 健康食品はその誕生以来、摂取することでどのようなメリットがあるのかを消費者に伝えられないという不遇をかこってきた。保健機能食品制度の登場でその状況も一部緩和されたが、特定保健用食品に対応できるのは一部の企業に限られた。栄養機能食品にしても、決められた表示のほとんどが消費者に響くものではなかった。

 新制度実施を受けて6月以降にも市場流通が始まると見られる機能性表示食品は、機能性や安全性に関する科学的根拠など情報を揃えて販売前に消費者庁に届け出ることを条件に、多くの企業に門戸が開かれる。身体部位名を含めた健康維持・増進に関する表現を行えるようになることで、消費者への訴求力は格段に増しそうだ。

 機能性を謳うことが許されないにもかかわらず健康食品産業界はこの10年、原料について、あるいは最終製品についても、科学的根拠の積み上げを進めることを是としてきた強みがある。その科学的根拠が機能性表示食品制度に応じられるものかどうかは各社で差があるだろうが、活用しない手はない。

 健康食品市場は健康維持・増進を求める団塊の世代以降の高齢者層に強力に支えられている。この層が全員75歳以上になる2025年が高齢化社会のピークとなり、その後この層が市場から退場していくことを考えれば、できるだけ早く新規需要の開拓に取り組むことが求められる。

 機能性表示制度のスタートは、健康食品の新しい需要層を開拓していく契機にもなる。中でも、美容食品以外には接したことはほとんどないであろう20代から40代の若い世代の取り込みが期待できそうだ。睡眠不足やストレス、眼の疲れなど社会的損失にもつながる疲労感に絡んでいく機能性表示食品の登場が待たれる。
 機能性表示の範囲など新制度の運用面に関して消費者庁の解釈が示されるため、産業界が行方を注視するガイドラインには、昨年7月末に公表された検討会報告書が反映される。ガイドラインは無くとも準備はある程度可能だったといえ、臨床試験を新たに実施するなど準備に乗り出す事業者も少なくなかった。ガイドライン公表以降、食品産業全体で新制度対応に向けた動きが加速するとみられる。

 ガイドラインは今月中にも消費者庁より発出される見通しだ。これにより科学的根拠の評価方法など重要要件が規定される。その内容次第で新制度が産業界の多くの企業で活用できるものになるかどうかが決まる。消費者にとっても、食品機能を幅広く享受し、QOL向上に役立てていけるかどうかの重要な分岐点となるだろう。

 機能性表示食品制度を巡る議論は1年にも満たないかなりの短期間でなされたこともあり、昨年12月に新制度を条件付きで了承した消費者委員会が強く指摘している「法的基盤の脆弱性」など、課題を抱えたままでの船出となる。

 検討会報告書にも「施行後2年を目途に新制度の施行状況を検討し必要な措置を講じることが期待」とあり、消費者庁も早晩見直すことを前提に新制度の運用を開始する。消費者委員会は、2年と言わず「実施後すみやか」に法的基盤を補強・整備するよう要求。見直し議論の開始時期は早まる可能性もありそうだ。

 産業界から見ても新制度には多くの課題がある。とりわけ機能性関与成分が明確でないものは対象外とされることが強く疑問視されている。ただ、これについても検討会報告書は「制度の運用状況を踏まえて検討することが適当」としており、産業界の意向を新制度に反映させるには今後の運用が問われることになる。

 運用を問われるのは産業界である。制度スタート直後は市場が混乱することも予測されるが、消費者の信頼を損なう事態を招けば制度が形骸化しかねない。産業界にとってより使い勝手の良い制度に進化させていくためにも、臆さずとも大切に運用していく姿勢が求められる。

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