蹴脂茶 「安全性評価できない」、お門違い(2015.2.12)


 ㈱リコムが特定保健用食品に係わる表示許可を申請していた茶系飲料「蹴脂茶」について、食品安全委員会新開発専門調査会が「安全性を評価することはできない」などと異例の判断を下した背景には、専門調査委員の間で作用機序への疑問がわだかまっていたことがあると見られる。どんな作用機序が申請されたのだろうか。


 「体脂肪が気になる方や肥満気味の方に適する」旨の表示許可が申請された蹴脂茶の関与成分はエノキタケ抽出物。その機序についてリコムはこう説明する。エノキタケ抽出物に含まれる遊離脂肪酸混合物が腸管から吸収された後、血液循環によって、脂肪細胞表面に存在するβ3アドレナリン受容体への結合を介して脂肪の低減作用を発現する──。

 これに対して食品安全委員会は、「生体内において実際にその機序で作用していると判断するには十分なデータが示されてない」と指摘した。しかし、この指摘は必ずしも当たらない。同委に先立ち、消費者委員会の新開発食品評価第一調査会が審議し、有効性も含めて了承しているからだ。

 消費者委でも、とりわけ議論になったのは作用機序のところだったようだ。回数では4回、期間としてはおよそ1年半をかけて議論した。「十分なデータが示されてない」のだとすれば、消費者委も了承するはずはなかろう。作用機序に関してどのような資料が提出されていたのか。

 リコムによれば、最終的に計8つの資料を消費者委に提出。内訳は、in vitro3報、in vivo4報、そして、コンピューター上で仮想実験して薬理効果などを確かめる最新手法のin silico1報。in vivo試験の中には人を対象にしたものも含まれており、これらを根拠に作用機序を説明し、「理解されるまでに時間が掛かった」が、最終的に了承されるに至ったという。

 安全性を主に審議する食品安全委が、消費者委が一旦は納得した作用機序を蒸し返した格好であり、トクホ審査体制の早急な見直しを業界が求めるべき理由がまた一つ生まれたと言える。ただ、食品安全委には了承し難い理由がなくはなかった。


 一つは、β3アドレナリン受容体を介して体重減少効果を発現するという作用機序による抗肥満薬の開発に多くの製薬企業が挑戦し、大半が失敗していることだと思われる。専門調査会委員の一人は、蹴脂茶の作用機序を了承し、トクホとして世に出た場合、「世界初の安全に使えるβ3アゴニスト受容体アゴニスト減量薬になる」などと審議の中で発言。科学的根拠が示されていたにもかかわらず、そのような機能を食品が持つはずはないと考えていたのではなかろうか。

 いずれにしても、この作用機序が同委での議論をかなりややこしいものにさせた。

 というのも、同委によれば、β3アドレナリン受容体への作用については、心臓に関係する副作用報告が一部ある。しかし、蹴脂茶の安全性については、過剰摂取試験を含む臨床試験において、有害事象は何ら認められていない。一方、その作用機序が正しいのだとすれば、理論的には副作用の可能性がゼロではない中で、それを否定する資料は提出されてない──「安全性を評価することはできない」などと評価を半ば放棄したとも受け取れる判断を下した背景には、こうした事情があった。

 だとしても、理論上の安全性リスクを盾に、複数の臨床試験で有害事象は認められていないという事実を無視するかのような判断には疑問が残る。そのリスクが無視できないというのであれば、幾つかのトクホがそうしているように、摂取上の注意表示を義務づけるという解決手段もある。審議の議事録を読む限り、その手段を探った形跡は見当たらない。


 蹴脂茶の審査が始まったのは2010年と、5年前までさかのぼる。また、リコムがトクホ許可取得のために投じた研究費用は、トクホ許可取得のために必要だと一般的に言われる金額よりも多い。その中で今回の同委の判断は、蹴脂茶のような、従来なかった関与成分、作用機序、あるいは保健の用途を申請する新規性の高いトクホは、許可取得がかなり困難である側面を改めて見せつけた格好と言える。

 なお、同委の判断についてリコムの浜屋忠生社長は弊紙取材に次のようにコメントしている。

 「審議のすべてが終わったわけではない。パブコメ後、追加データの提出を要求されるのであれば、応じていくつもりだ。仮に、最終的に許可が下りなかったとしても、悔いはない。新規トクホに真摯にチャレンジしたことで、当社のレベルは格段に高まった。トクホにはならずとも、機能性表示食品として活用できるのだとすれば、そういった方向性も選択肢の一つと考えている」
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