大阪商工会議所・大阪府主催セミナー レポート
(2015.2.26)

写真記事 大阪商工会議所森下氏-horz

~食品の新たな機能性表示制度セミナー (2月23日開催)

消費者庁・塩澤氏 回復、緩和も「ダメじゃない」 随所で発言「そこは企業判断」

 大阪商工会議所と大阪府主催の「食品の新たな機能性表示制度セミナー」が23日、大商で行われ、約700名が聴講に訪れた。主催関係者や参加者の予測に反し、ガイドラインが公表されない中での開催となったが、事前のアナウンス通り、消費者庁食品表示企画課の塩澤信良氏が登壇した。(本紙記者・石川太郎、佐藤和義)

 機能性表示食品の届出に係わるガイドライン案の公表時期について塩澤氏は「近々の予定」だと語り、作業の大半が終了したことを窺わせた。消費者庁は、新たな機能性表示制度に関する説明会を3月2日の東京を皮切りに全国7都市で開催する。ガイドラインの中身を明らかにしないまま説明会を行うことは困難といえ、「近々」とは来月2日までを指すと推測できそうだ。

 塩澤氏はガイドライン案の詳細ではなく概要を約45分にわたり説明。内容としては、1月14日規制改革会議健康・医療WGに消費者庁が提出した、ガイドライン案に関する現在唯一の公表資料である、「機能性表示食品に係わる届出に関するガイドライン案の概要」に補足説明を加える格好となった。

 近く公表されるガイドライン案には、公表資料とは異なる点がある。一つは、可能な機能性表示の範囲。公表資料で医学的な表現に当たるため使用できないとされていた〝回復〟と〝緩和〟の二つの表現について、「健康の維持・増進の範疇であることが明らかに分かる範囲内で使うのであれば、直ちに医薬品の表示(旧薬事法)に抵触するものではないと定義した」と塩澤氏は述べた。厚生労働省などとの間で調整を行ったとしている。

 診断、予防、治癒、処置などといった表現は医学的表現に当たるため引き続き使用できないという。一方、使用できるようにした回復、緩和の表現にしても、「文言のみならずパッケージ全体で、病気の回復や緩和を示唆するような表現は今回の制度の範疇外」だと釘を刺し、消費者に誤認を与えない適切な使用を求めた。

 また、機能性の科学的根拠を説明するために多くの事業者の利用が予想されている研究レビュー(システマティックレビュー=SR)についても公表資料にはない情報を伝えた。

 一つは、SR結果の報告(届出)について、「報告書はPRISMA声明に準拠した形で記載されていることが原則」だと説明したこと。同声明はSRやメタアナリシス報告の標準化を目的とした指針である。「今回メタアナリシスは必ずしも必要ではなく、関係ないものは省いて構わないが、PRISMA声明をしっかり見ていただき、必要な情報が盛り込まれているかどうかを念頭に置き、届出てもらいたい」

 また、SRを行う事業者は、その機能性表示が肯定的と判断できるかどうかを確かめるため、関連する文献を網羅的に収集し総合的に評価することを求められるが、どの程度「網羅的」に文献を集める必要があるのかについて、「企業等がお考えになること。そのさじ加減は皆さま方でご判断いただく。我々としてルールを設けるつもりはない」と説明した。

 企業等の責任による機能性表示を行うという新制度の趣旨に則り、企業等に下駄を預けた格好だ。この日の塩澤氏の説明では、「そこは企業等の判断になる」といった主旨の発言が随所で聞かれ、機能性関与成分の機能性、安全性に関する同等性をどう評価するかについても、「企業等の責任においてしっかり評価してもらう」「我々の方でこうだと線引きするつもりはない」とした。

 また、可能な機能性表示の範囲にしても、「規制改革会議でも議論になったが、我々としては最低限のネガティブ(許されない表示)リストの形でお示しするしかない」「(境界域の人までの)健康の維持・増進の範囲内ということが原則。それを踏まえ、各企業の方々が、(評価)指標と機能性表示がちゃんとリンクしているのかなどを適切にご判断いただく」という。

 最低限のネガティブリストしか示さない理由を塩澤氏はこう説明する。「(新制度は)規制改革の一貫。適正な範囲内で、企業の方々の自由な経済活動が広がることが念頭にある。ポジティブリストを示せば企業活動を制約してもらうことになりかねない」――こうした考えが、機能性表示の範囲のみならず、SRの実施方法、届出資料の情報開示、国の関与のあり方など、ガイドライン全体に反映されているのかどうかが注目されそうだ。

森下氏 制度改善要求も忘れず

 この日のセミナーでは、内閣府規制改革会議委員で、大阪大学大学院教授の森下竜一氏も講演し、機能性表示制度が間もなく誕生することについて、「世界にようやく追いつくことができるだけでなく、生鮮食品や加工食品の機能性表示も可能となり、世界最先端の制度だ」と語り、同制度へ期待感を表明するとともに、健康寿命の延伸や医療費削減などの効果にも期待した。

 森下氏は新制度の創設を規制改革会議の決定を経て閣議決定に持ち込んだ最大の功労者。セミナーでは新制度への期待だけでなく、制度創設段階では対象外とされている、ビタミンやミネラルなど栄養機能食品の成分の使用可否を「(施行後)2年に至らない範囲で検討」するよう消費者庁に求めていることも明かし、新制度の更なる改善を要求することも忘れなかった。

 一方、同氏が事務局長を務める抗加齢協会の機能性表示健康食品データブック委員会で、現在、新制度で機能性の確認に必要な科学的検証方法の一つであるシステマティックレビュー(SR)のデータシート作成に向けた検討を進めているとも説明。事業者のデータシート作成依頼を受けるほか、境界域の被験者データを使用する際の使用判断を同協会が行うことが可能という。データシートの著作権は同協会に帰属し、第三者が活用する場合は著作権料の支払いが必須になる。

 同協会は日本抗加齢医学会に関連した特定非営利活動法人で、同委員会には萩原俊男委員長をはじめ、歯科や循環器、内分泌代謝といった11の領域などに分けてデータブック作成委員を置くほか、60名程度の編集委員、領域ごとの査読委員を配置して対応するという。

駒村氏 新制度「モラル問われる」

 森下仁丹㈱の駒村純一社長も登壇し、新制度について「産業界がある種の自主基準を設けて運用するもの。産業界としてのモラルが問われる」と身を引き締めた。

 駒村氏はサプリメント市場の見通しにも触れ、現在、特定保健用食品(トクホ)を含め2兆円程度の国内市場は、新制度に対応したコストの安い輸入品によって、一旦は縮むかもしれないが、その後は順調に伸び年間5~10%の範囲で拡大を続けると予測。とりわけ、増加が期待される販売チャネルに店舗販売を挙げた。駒村氏は国内の7割超が通信販売や無店舗販売に占められているとのデータを示し、「店舗販売が少ないのは機能性を謳えないから。海外ではサプリメントのアドバイザーに相談して買っていく。日本でも機能性表示後は店舗が伸びる。また、店舗での販売なら違反行為もすぐに分かるため、そのことが適切な販売にも結び付く」とも語った。

 さらに、新制度に向けた産業界の動きとして、健康食品産業協議会(関口洋一会長・日本水産取締役執行役員)を中心に安全性確保や機能性評価の仕組みの整備を開始していることも明かした。

 具体的には、安全性確保策として、原材料の安全性確保は当然ながら、さらに新制度では義務化されていないGMP(適正製造規範)による積極的な製造管理を行うと語ったほか、健康被害への対応では「被った被害を保証できる体制を議論していかなければならない」とも語った。

 機能性評価に関しては、「アカデミアの協力をいただき機能性評価のスキームを作っていく」としたほか、今後の制度見直しを見越し「疫学データや既知のデータによる表示表現について、議論、提言していきたい」と語った。

【(写真右)ディスカッションの様子、(写真左)左から森下竜一氏、塩澤信良氏、駒村純一氏(23日、大阪市中央区)】

【関連記事「事実上の質疑応答90分」】

Clip to Evernote

ページトップ