安定飛行に移行急務 〝健康長寿〟の期待背負う(2016.1.7)
― 2016年の機能性表示食品 展望と考察 ―
2015年4月にスタートした機能性表示食品制度は今年4月に2年目を迎える。多方面からの注目を浴びながら離陸を果たしたが、安定飛行にはまだ至っていない。その実現が急務だが、不安定な気流に揉まれる状況はもうしばらく続きそうだ。健康食品市場の成長のみならず、「健康長寿社会」の実現に向けた期待も背負う機能性表示食品の2016年を展望、考察する。
販売品目数が増加
昨年が機能性表示食品制度の「運用元年」だとすれば、今年は、機能性表示食品の消費者への普及を本格的に目指す「市場形成元年」になると言えそうだ。
制度スタート前は想像すら出来なかったほど長く待たされている届出の受理も進み、通販、店販など、各種販売チャンネルで流通される機能性表示食品が200品目、300品目と増えてくる。
いわゆる健康食品から機能性表示食品への移行も相次ぐ。その中には中小企業による届出も少なからず含まれ、業界のあり方が目に見えて変わりはじめるだろう。
頻出しているとされる届出書類の不備、もはや「形式確認」とは呼べぬとも言える書類確認のあり方など、届出手続きをめぐる諸問題の改善が見られれば、品目数はより増していく。
届出の方法は今年4月から変わる。これまでは届出書類の郵送が求められていたが、電子化(オンライン化)される。これにより届出書類の処理速度が多少なりとも早まることが期待される。
販売が始まっている機能性表示食品はまだわずかだ。
それが増えるにつれて消費者との接点が広がり、機能性表示食品の認知機会も高まる。販売品目数の増加が、消費者認知度を向上させるのと同時に、市場形成を後押しすることになる。
また、待たれていた機能性表示食品の広告・宣伝に関する業界自主ガイドラインがまとまる。
自由度を損なう制約だらけの内容となれば、おのずと死文化の道を辿るだろうが、これまで手探り状態であったその手法やあり方に一定の規範が示される。機能を直接的に訴求できるメリットを生かし、規範に則りつつ表現や内容に工夫を凝らした広告・宣伝を目にする機会が増え、消費者の購入意欲も高まることになりそうだ。
制度の変化を注視
機能性表示食品を販売する、あるいは販売を検討する企業にとって今年は、消費者庁など行政の動きを引き続き注視する必要が求められる年でもある。消費者庁は、制度の積み残し課題に関する「検討会」を今月中にも立ち上げ、議論を開始する見通しだ。ふたたび落ち着かない年になる。
制度はスタートから2年後を待たずして大きく変貌する可能性がある。
検討課題になるとみられるのは、食事摂取基準に基準が策定されている栄養素の取り扱い。現状では機能性表示食品の対象外とされている、ビタミン・ミネラル、糖類などが対象化されるかどうかが焦点になる。
加えて、同様に対象外とされている、機能性関与成分が明確でないものの取り扱いも議論の俎上に上げられそうだ。この制度が健康食品市場の発展・成長につながるものになるかどうか、行方を左右する議論が始まる。
仮に、これらの対象化が決まるとすれば、機能性表示食品制度に対する対応方針を保留、または諦めていた企業は判断を迫られるだろう。
機能性表示食品にするのは困難と言われてきたローヤルゼリーやプロポリスなどといった素材にも、機能性関与成分としての道が拓ける可能性がある。最初からそうであるべきだったが、これら現在対象外とされている成分・素材を主に取り扱う企業にとっては、今年が制度の「運用元年」となるかも知れない。
また、検討課題はそれだけでない可能性がある。消費者団体に指摘されるなどして制度スタート後に表面化してきた課題も少なくない。対象外成分の対象化という「アメ」があれば「ムチ」もあり得る。検討会に参画する業界代表委員には、消費者にしっかり寄り添いながら、業界の利益にかなう結論を得られるよう、リーダーシップを発揮することが求められる。
消費者教育重要に
検討会の動向にかかわらず業界に求められるのは、機能性表示食品と特定保健用食品や栄養機能食品、そしていわゆる健康食品の違い、また、健康の維持・増進に対する食品の役割などを理解してもらうための消費者教育になるだろう。販売品目数の増加につれてその必要性も高まる。
制度の理解推進に消費者庁も務める姿勢を見せている。ただ、機能性表示食品は、一定の科学的根拠に基づき企業の責任で機能性を表示する制度。国を頼りにばかりはしていられない。
消費者に対し、バランスの取れた食生活の普及啓発とともに、その中での機能性表示食品の適切な利用を、行政やアカデミアなどとも連携しながら、業界自らが率先して動き、促していけるかどうかが問われる。
健康食品業界にとって今年は「動く」年だ。
健康食品をめぐる表示が抜本的に改まった機能性表示食品制度をはじめ、今年4月施行が予定されている景品表示法改正に伴う「課徴金制度の導入」、昨年4月に施行された食品表示法に基づき導入される「製造所固有記号のルール変更」など、押し寄せる変化の波を乗り切るには、絶えず情報取集しながら、「動く」ことに尽きる。
動くとは、「変化」と同義だ。法律や制度、社会や消費者ニーズの変化に合わせて企業も変わっていけるかどうかが、日本で唯一の「成長産業」とも言われるヘルスケア産業界で生き残るための試金石となる。