~考察~ 関与成分と食薬区分 (2)(2016.3.10)

新制度この先

~考察~関与成分と食薬区分(1) から

個別判断による受理か

 SAMeの届出はなぜ受理されたのか。

 消費者庁には考え方を明らかにすることが求められるが、その疑問に対する業界内の見方は現在、大きく二つに分かれる。一つは、「食薬区分を見落としたのではないか」というもの。一方、それとは真逆に、「食薬区分も含めて判断した上で受理したはず」と見る向きもある。

 前者の見方については、前述のパブコメ回答のほか、昨年9月30日に消費者庁が発出した「届出書作成に当たっての確認事項」を理由に疑問が残る。機能性関与成分名について、「医薬品成分ではないか」を確認するよう事業者に求めているからだ。食薬区分を意識した要請といえ、「実質的審査」とも称されるほどに慎重な「形式確認」を進めている中で、恐らく初の届出であったろうSAMeについて、同庁が食薬区分を確認しなかったとは考えづらい。

 一方、後者の見方が正しいと仮定し、また、パブコメで回答した「専ら医薬は機能性関与成分にできない」とする考え方が現在も変わっていないとすれば、食薬区分との兼ね合いをどう整理したのかという疑問が残る。「個別の案件には答えられない」などとして消費者庁が考え方を明らかにしないのであれば、推測するしかあるまい。

 一つ考えられるのは、SAMeを専ら医薬成分と見なさなかった可能性だ。というのも、海外で医薬品として使われるSAMeは、それ単体では不安定なため、トシル酸などと化学的に結合させた「SAMe塩」の構造を持つ。すると、SAMeそのものを医薬品と捉えることは果たして正しいか。

 また、当該商品に配合されているのは、成分本質を「酵母」とするSAMe含有酵母であり、これまでも食品として日本で継続的に販売されてきた。その上で、厚労省はSAMeを専ら医薬リストに挙げた食薬区分改正時のパブリックコメントに次のように回答している。

 「今回の改正は、SAMeが天然に含有される酵母等の食品を全て『専ら医薬品として使用される成分本質』とするものではなく、栄養成分表示等において、SAMeを記載すること自体にも問題はありません」(2009年2月21日付)

 例えば「グルタチオン」を含有する酵母について、厚労省がこのような見解を示した例はないとみられるが、栄養成分表示にSAMeと記載として問題ないのであれば、機能性関与成分名として表示するのも同様だと考えられる。
 一方で、機能性関与成分としての表示は、〝機能性〟を謳う以上、医薬品SAMeの含有の強調的な標ぼうに当たるとする指摘が可能かもしれない。ただ、日本でSAMe塩が医薬品として流通された実体はないとされる。であれば、そもそもSAMeを医薬品と認識する消費者は存在しないのではないか。

関与実体はSAMe含有酵母

 もう一つ見逃せない事実がある。当該商品の表示しようとする機能性の科学的根拠は、健常者を対象にした最終商品の臨床試験論文で届け出られた点と、同品の配合素材は「SS16」を製品名とする特定のSAMe含有酵母のみであることだ。すると、その特定のSAMe含有酵母を事実上の機能性関与成分と捉えることも可能であり、SAMeそのものは、作用メカニズムを説明するための成分であると同時に、品質管理のための指標成分と理解することもできる。

 確かにSAMeの名は専ら医薬リストにある。ただ、こうした届出情報や、SAMeの背景事情が複合的に考慮された上で、届出制度に馴染まないのは事実だが、「個別判断」で受理に至ったのではないか。だとすれば、他の専ら医薬成分が同じように受理される保証はまったく無いと考えられる。

 視点を変えると、同品の機能性関与成分名がSAMeではなく、例えば、その別名である「活性メチオニン」、あるいは「〇〇含有酵母」などであったとすれば、業界から大きく注目されたのは、「膝関節の違和感を緩和する」などという訴求力の強い機能性表示を、熊本県の中小規模通販企業が届け出たことのみであったかもしれない。全体として機能性を発揮するような天然物由来原料であっても、「機能性関与成分」と名付けた特定成分の届出を求める制度ルールが生んだ混乱とも言えそうだ。

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