原産地表示 結論得るも今後に課題 消費者利益につながる?(2016.10.20)
今年1月から異例の長さで続けられてきた、消費者庁・農林水産省の「加工食品の原料原産地表示検討会」が5日、ようやくとりまとめ段階に入った。困難なテーマを検討してきただけに、議論はまさに百出。事業者系委員と消費者系委員の対立が最後まで続いたものの、ここにきて具体的な表示方法がほぼ固まりつつある。しかし、TPP対策として、全ての加工食品に原産地表示を義務付けるという政治的な要請があったにせよ、提示された表示方法案は「妥協の産物」といえなくもなく、果たして消費者、事業者双方にとって、どこまで有益なのか、評価は分かれるところだ。
案は、加工食品に使用される主要原材料の重量順に原産地国を表示することを原則とし、同方法で事業者のコスト負担増となる容器包装の変更などが生じる場合、具体的には、原料や原産地国が多数、原産地国が煩雑に変わる―などの場合は、①「可能性表示」②「大括り表示」③「大括り+可能性表示」―の3つの例外的表示ができるというもの。
①は使用可能性のある複数国を、使用が見込まれる重量割合の高いものから順に「アメリカ又はカナダ」などと表示する。ただし注意書きとして、過去の取扱い実績を付記する。
②は、外国産地などが多数に上る場合、3カ国以上の外国産地を「輸入」と一括りに表記する。輸入品と国産品が混合する場合は、重量順に「国産、輸入」などと表記する。
③は「輸入又は国産」と表記する方法で、①と同様に過去の取扱い実績を付記する。
的を得た反対意見
加工食品の現状を考慮すれば、原則「国別重量順表示」できる商品数は当然限られ、農水省が事業者に聞き取り調査を行った結果(10月5日第9回検討会で公表)、同方法で表記できるのは、加工食品全体の約4割程度で、残りは①、②、③の表示方法になると予測している。
今回の表示方法案は、事業者の実現可能性と至上命題「全ての加工食品に原産地表示」を両立させた苦肉の策ともいえるが、やはり複数の消費者系委員からは「かえって消費者の誤認を招く」と反対の声が上がった。もっともな指摘といえる。実際「各社に聞いたところ、いずれもお客さんから分かりにくいと言われるとの意見だった」(日本チェーンストア協会・櫟友彦委員)、「これなら原産地表示対象品目を追加する従来のやり方のほうがいい」(食品産業センター・武石徹委員)など、事業者側からも疑問が出されている。
また、「過去に消費者庁は『輸入又は国産』と表記した食品を優良誤認と判断した事例がある。それを制度にするのはおかしい」(食のコミュニケーション円卓会議・市川まりこ委員)との指摘もあり、消費者庁が「制度(食品表示基準)になれば問題ない」と苦しい答弁に追われるなど、行政側にとってもリスクをはらむ表示方法ともいえる。前述の農水省の調査では、最も疑問視された③の表示方法が、全体の10%強にも達する見込みだ。
白紙撤回あり得ず
だが、「『輸入又は国産』が分かりにくいのは確か。しかし『地球産』と書くわけにもいかない」(事業者系委員)との意見に象徴されるように、実現可能性と目的をぎりぎりのところでマッチさせるには、現時点では今回の方法しかなかったともいえる。
「食品の原産地表示は昔から何度も議論してきたが、その都度頓挫した。問題はあると思うがこの案は前進といえる」(全国地域婦人団体連絡協議会・夏目智子委員)、「1歩でなくとも半歩前進と考えるべき」(宮城大学名誉教授・池戸重信委員)など、評価する声も事業者、有識者、消費者系委員を問わず多く出た。
「検討を白紙に戻すことはあり得ない」――。森光康次郎座長(お茶の水女子大学大学院教授)は何度もそう述べて、この難問をクリアする姿勢を示した。
新たな表示方法の導入で日本の食品表示の水準が一段高くなる可能性は高く、その意味で今回の検討会は意義あるものだったといえる。
施行後の検証重要
しかし、課題も残る。消費者目線に立った「分かりやすさ」、事業者の「実現可能性」、行政の「齟齬のない制度運用」などを考えれば、従来の原産地表示品目を順次拡大する方法を維持(加速)するという選択肢も否定しきれない。
今回の検討会が多分にTPP対応という政治的側面を背景に設置されただけに、表示案が真に消費者の利益向上につながるのか、食品事業者のレベルアップに資するのか、来年に予想される食品表示基準の改正後も不断の検証が必要といえよう。