2017健康産業展望 20年代に向け追い風(2017.1.12)
団塊世代が75歳以上に達する2020年代まで残り3年。少子高齢化がさらに加速されようとしている中で、健康産業、ヘルスケア産業の社会的役割がますます高まっている。サプリメント・健康食品はまだまだ成長できる。
健康、万人が求める価値に
2025年の国際博覧会(万博)誘致を目指す大阪府。およそ6兆円の経済波及効果が見込まれるとした府の基本構想では、テーマに「人類の健康・長寿への挑戦」を掲げた。「『健康』を次世代へとシームレスにつなぎ、未来を担う若者への明るいメッセージを示す万博としたい」
産業界も後押しする。「わが国の健康・医療産業の起爆剤となり得る」。〝健康・医療イノベーション創出〟を重点事業に位置づける関西経済団体連合会の森詳介会長(関西電力相談役)は、1日発表の年頭所感で万博誘致にこう意欲を示した。
府の基本構想では、国への経済効果について次のように説く。「『日本再興戦略(2013)』において、健康寿命延伸産業の育成を位置付け、市場規模の拡大を目指している。この万博を機に、これらの産業における新製品・サービスの創出と市場拡大や、再生医療等製品の開発が促進され、ひいては成長戦略の実現が期待される」
治療から予防へ。国の医療制度を維持するため日本政府は、「健康寿命の延伸」施策を掲げた。
65歳以上の高齢者人口が3割を超え、少子高齢化がさらに加速する2020年代は3年後に迫る。その中で、「効果的な予防サービスや健康管理の充実により、健やかに生活し、老いることができる社会」(日本再興戦略)を支える健康寿命延伸産業の育成は喫緊の課題。42兆円を超えた国民医療費、人口減少への対策を図るためだ。
ただ、「残念ながら目に見える成果は、今のところ皆無と言える」。健康寿命延伸、ヘルスケア産業の育成を目指す団体、日本ヘルスケア協会はこう指摘する。
同団体と密接に連携する日本チェーンドラッグストア協会も現状を疑問視。「かかりつけ薬剤師・薬局、健康サポート薬局といった新たな制度が出されたが、その内容はまだまだ提供者サイドのもので、真に生活者・患者サイドに立ったものであるか、疑問の内容が多くみられる」
治療から予防へ。健康寿命延伸のために健康産業、ヘルスケア産業が果たす役割は大きい。中でも、生活者の健康意識を高め、健康行動の変容を支えることのできる機能性表示食品や特定保健用食品などサプリメント・健康食品は、その一翼を担える産業だ。産業がさらに大きく発展することで、生活者の健康寿命を延伸し、クオリティ・オブ・ライフの向上につながる。
そのため、市場としても有望視されている。
「価値が需要を喚起する」
今期売上高6300億円を見込むウエルシアホールディングスの池野隆光会長はこう語る。「いま、世の中の人々が考える一番の価値は、『健康』である。老若男女に共通する価値観である」(2020 VALUE CREATOL Vol・355)。
また、「需要を喚起するのは『価値』であり、競争上の自己差別化というものは『価値』ですべき」(同)。こう指摘するのはセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文名誉顧問だ。
老若男女全ての人々がいま、一番に考える「健康」という「価値」を、サプリメント・健康食品は提供できる。価格ではなく健康というその価値により競争・差別化を図ることで、さらなる需要を喚起することもできる。サプリメント・健康食品とはそうした商材だ。
しかしその一方で、これまでの間、生活者や消費者に対し、真にその価値を提供し得てきただろうか。
昨年1年間を振り返るだけでも、トクホの関与成分問題が業界内外を大きく騒がせた。機能性表示食品でも、機能性関与成分が表示値を下回る商品が一部に確認された。健康食品にしても、本来含まれない成分が含まれていたなどしたため自主回収に至る商品が複数出た。
価値を担保するための品質が伴っていない。そんな事案が散見している。
「GMP認定を取得していれば十分なのか、という次の段階に目を向ける必要がある。そうしなければ品質の問題はなかなか改善しないだろう」。日本健康食品規格協会の池田秀子理事長はこう戒める。「業界がギアを入れ替え、品質管理に関して〝真剣路線〟を自ら走っていけるかどうかにかかっている」
品質向上、生活者のために
一昨年の15年4月。健康寿命延伸施策にも関わる新たな制度として、機能性表示食品が登場した。それにより、健康食品・サプリメントを取り巻く環境は大きく変わろうとしている。
変化は新たな需要も創出する。ビジネス・チャンスを掴むためにも業界が自ら変化し、進化する必要がある。品質管理レベルの一層の向上に向けた取り組みを業界一丸となって進めることが、その「はじめの一歩」となる。
それに加え、機能性に関するエビデンスのさらなる拡充も求められる。
生活者や消費者が健康食品に求めているのは決して機能性ばかりではない。ただ、食品機能をめぐる科学的根拠の充実化を図ることは、「健康」に関する新しい「価値」の提供につながる。その意味では、継続摂取するうえでの飲みやすさだったり、手軽さだったりを訴求できる新たな製剤・剤形技術の開発も求められる。
今年4月に予定されていた消費税率10%への引き上げは延期された。安倍首相は昨年、19年10月まで再延期する方針を表明している。
「この間に、高齢化社会におけるドラッグストアとしての役割をしっかりと確立することが、早急の課題である」と日本チェーンドラッグストア協会は力を込める。
サプリメント・健康食品も同様だ。消費支出の減少が見込まれる次の消費増税までに、健康寿命延伸産業の一翼を担う存在としての役割を確立することが求められる。そのためには、提供者側の都合に依らない、真に生活者、消費者が求める価値を提供できるようになる必要がある。
サプリメント・健康食品産業はまだまだ成長できる。
3年後の2020年。サプリメントの需要喚起も予想される東京五輪・パラリンピックが開催される。その5年後の25年には、「健康」をテーマにした大阪万博が盛大に催されるかもしれない。健康産業にとっての追い風はしばらく吹き止みそうにない。