部外品、表示規制緩和へ ビタミン含有保健剤 予防表示可能に(2017.2.9)
「リポビタンD」「アリナミンV」などの栄養ドリンクに代表されるビタミン含有保健剤(新指定医薬部外品)の効能効果が見直される。「疲労の回復・予防」といった予防表示が4月1日以降から可能になる見通しで、OTC医薬品業界団体は「新たな訴求が可能になる」として市場拡大に期待を寄せる。規制改革実施計画に基づき見直すものだが、背景には機能性表示食品制度の施行が見直し機運を高めたことがある。機能性表示食品に代表されるサプリメント・健康食品の領域に、医薬部外品がより接近することになりそうだ。
医薬部外品を所管する厚生労働省は1月27日、ビタミン含有保健剤の承認基準に関する改正案を公表し、意見募集(パブリックコメント)を開始した。今月25日まで意見を受け付け、来月に改正通知を公布し、4月1日にも改正適用する予定だ。
ビタミン含有保健剤で現在認められている効能効果は「滋養強壮、肉体疲労、栄養補給」などで、長年にわたり変わっていない。この承認基準を改め、体力、身体抵抗力又は集中力の維持・改善▽疲労の回復・予防▽虚弱体質に伴う身体不調の改善・予防▽日常生活における栄養不良に伴う身体不調の改善・予防――などとし、複数の効能効果の表示も可能にする。
さらに一部の効能効果については、配合する有効成分に応じ、より具体的な効能効果の商品記載を認める。例えば「肌の不調(肌荒れ、肌の乾燥)」「目の疲れ」「二日酔いに伴う食欲の低下、だるさ」「骨又は歯の衰え」「筋力の低下」「胃腸が弱く腹痛や下痢を起こしやすい」──など。機能性表示食品の届出表示と比べて歯切れのよい表現となっているのが特徴だ。
「生活者が製品を使用する目的やその特徴などがわかりやすい表現・表示」。審査基準を所管する厚労省審査管理課は見直しの方向性についてこう説明。「生活者にわかりやすいこと」に主眼を置いたもので、現在の効能効果の範囲を超えるものではないと言う。予防表示を新たに認めることについても「わかりやすさに基づく」(審査管理課)といい、あくまでも範囲拡大ではなく現在の効能効果の「読み替え」だとしている。
今回の基準改正は、昨年6月2日に閣議決定された規制改革実施計画に基づく。計画には「一般用医薬品及び指定医薬部外品の広告基準等の見直し」があり、今年度中に措置する案件として、「一般用医薬品及び指定医薬部外品の効能効果の表現の見直し」が盛り込まれていた。
一般用医薬品などの規制改革を求めていた日本OTC医薬品協会は、ビタミン含有保健剤の効果効能表現の見直しについて、「エポックメイキング」な出来事だとして歓迎。協会の杉本雅史会長は先月16日に行った会見で、「効能効果の読み替えが可能になれば、当然、新たな訴求ができる。市場活性化の明るい材料になる」と語った。
OTC薬協 「機能性表示食が契機」
厚労省がまとめた薬事工業生産動態統計によると、ビタミン含有保健剤は2008年の1160億円(生産額)をピークに減少傾向。14年度は盛り返したものの、一時は1056億円まで落ち込んでいた。
そのような中でビタミン含有保健剤の効能効果見直しを求めたのも同協会だ。14年、政府の規制改革会議(当時)が設置した規制改革ホットラインに要望を上げていた。
杉本会長は、「機能性表示食品が(要望の)きっかけ」だと明かす。機能性表示食品と医薬部外品の「整合性を保つ必要」があったためだ。「もともと医薬品であり、エビデンスがしっかりしているビタミン含有保健剤が何もうたえない。通り一遍の滋養強壮や虚弱体質など、非常に分かりにくい効能効果になっていること自体が問題だ」
OTC医薬品メーカー開発担当者も、機能性表示食品が一般用医薬品の領域に足を踏み入れつつある現状に危機感を示す。「機能性表示食品は医薬品に近いヘルスクレームが行われていて、医薬品と健康食品の区別がなくなりつつある」。また、昨年の機能性表示食品制度に関する検討会でビタミンの制度対象化が見送られたことについて、「よりしっかりとした品質管理のもとで製造されているビタミン含有保健剤でまずはやれるようにするべき」とし、機能性を表示できる「順番が異なる」と指摘する。
医薬部外品の効能効果の見直しは今回限りでない可能性が高い。OTC協の杉本会長は、「これははじめの一歩。解熱鎮痛剤や胃腸薬など、長年変わらない効能効果表現となっているものについては、他のカテゴリーでも検討をしていきたい」。また、そもそも規制改革実施計画が効能効果の表現の見直しを指定したのは医薬部品だけではない。「将来的には一般用医薬品にまで見直し対象は広がるだろう」と前述の開発担当者は話す。
医薬部外品などの効果効能表示見直しで懸念されるのは機能性表示食品制度への影響だ。ビタミン含有保健剤の効能効果見直し案で示された表示・表現は、機能性表示食品で可能な表示・表現の実質的な「ネガティブリスト」にもなり得るといえ、機能性表示の幅が狭まる可能性が懸念される。
今回のビタミン含有保健剤の効能効果見直し案には「肌の不調」がある。具体例として示されているのは「肌荒れ」と「肌の乾燥」の二つのみだが、そのほかの肌に関連する表示・表現も「不調」の一種と解釈されれば、届出は困難となりそうだ。
「(効能効果の見直しは)食品業界として邪魔をする話ではまったくない。ヘルスケアは(食品と一般用医薬品・医療部外品の)両方で担っていけばよい。ただ、その中で、きっちり線を引くようなことはやめてもらいたい。予防に資するのは食品も同様だ」。健康食品業界関係者はこう話し、機能性表示食品における予防表示の道が完全に閉ざされることに警戒感も示す。