クロレラ チラシ差止訴訟 消契法巡り最高裁が判断(2017.2.9)
不特定多数の消費者に働きかけるような新聞折込みチラシなど広告も、消費者契約法に基づき適格消費者団体が差止請求できる「勧誘」に当たる可能性があるとの初判断を、最高裁が示した。消費者庁は消契法の逐条解説で、勧誘とは特定の消費者に向けて行う働きかけを指すとし、広告は勧誘に当たらないとする解釈を示していた。最高裁の判断を受け同庁は今後、現在改定作業中の逐条解説に必要な修正を加える方針。
差止請求は棄却
この判断は、サン・クロレラ販売を相手取り、適格消費者団体の京都消費契約ネットワーク(KCCN)が差止請求訴訟を提起した、クロレラチラシ配布差止等請求事件の上告審判決として、最高裁第三小法廷(山崎敏充裁判長)が示したもの。判決は先月24日付。
最高裁は今回、新聞購読する一般消費者に向けた当該チラシは特定の消費者に働きかけたものではないため勧誘に当たらないと判断した二審判決について、「法令の解釈適用を誤った違法」と指摘。不特定多数の消費者に向けた働きかけだとしても、「個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得る」とした上で、「ただちに勧誘に当たらないとはいえない」との判断を示した。
消契法上の勧誘要件のあり方を巡っては、消費者委員会の専門調査会から、「必ずしも特定の者に向けたものである必要はない」として、範囲拡大を求める声が以前から上がっていた。昨年6月公布の改正消契法では見送られたが、現在も優先的検討課題として調査会で検討されており、今回の最高裁判断が議論に影響を与える可能性がある。
ただ、対象範囲を広告にまで広げると事業者の活動に大きな影響を与える懸念がある。全日本広告連盟など広告関係4団体は、「正当な広告活動まで大きく制限することになりかねない」として、勧誘の概念を広告にまで広げることに強く反対している。
「配布されていない」
一方で、最高裁は今回、KCCNの上告そのものは棄却。裁判官全員一致のうえで差止請求を退けた二審を支持した。
一連の裁判を巡っては、クロレラの効果効能が記載されていたものの商品名のない当該チラシが医薬品と誤認させる優良誤認に当たるかどうかなどが争われた一審の京都地裁では、KCCCNの訴えを全て認め、表示の差し止めと、KCCNが求めた優良誤認表示であることを伝える周知広告の配布を命じた。KCCNは、文字の大きさ20ポイント以上でB4サイズの新聞折込みチラシで周知するよう求めていた。
これに対して二審の大阪高裁は、当該チラシは「現時点では配布されていない」「(今後も)配布を一切行わないことを明言している」などとして一審を取り消す判決を出した。また、チラシは消契法上の勧誘に当たらないとの判断も示していた。
スプリング法律事務所・新保雄司弁護士に聞く 差止判断 食品表示では影響大
最高裁は今回、消費者契約法上の「勧誘」の範囲に関し解釈指針を示した。多様な解釈のあったところだが、不特定多数に配布するチラシも勧誘に当たる可能性があるとした。今後、広告実務に影響を与える可能性がある。
一方で上告は棄却。判断理由は、現時点で配布されていないし今後も配布される予定のないチラシを差し止める必要性はないというもの。差止請求を認めた一審を取り消した二審判決も同様だ。言ってしまうと、不当表示を行っていたとしても、配布を取り止めてしまえば判決を受けずに済むことになる。一審が認めた不当表示に関する周知広告の配布を求めるのも難しいということになる。これでは「逃げ得」だと受け取る人もいるかも知れない。
ただ、この判断を、消費者団体訴訟制度の対象である食品表示法に適用されると話は変わってくる。チラシは捨ててしまえばよいが、表示が付された商品自体を廃棄するのは簡単ではない。製造コストが掛かっているし、表示を差し替えたり、貼り替えたりするのにもコストが掛かる。
適格消費者団体による差止請求の要件は消契法と食表法とで類似している。食品表示に差止請求が行われた場合、チラシと同様の対応を取るのは難しいと言え、事業者にインパクトを与えることになりそうだ。