農産物の機能性表示 九州が取り組み加速(2017.3.23)
北海道と並ぶ農業地域である九州が、農産物の機能性表示の取り組みを活発化させている。熊本地震の影響はあったものの、各県とも昨年頃から大学や工業試験センターなどと協力して、機能性農産物の研究体制整備や充実に乗り出しており、民間企業と連携した機能性表示食品の届出の動きも加速しそうだ。取り組みも各県各様で、長崎県は機能性表示食品に絞った選択型研究開発、宮崎県は届出までの一貫サポート体制の構築、佐賀県は化粧品展開も含む多用途型開発が特徴。福岡県は国と連携して研究開発水準の向上に注力。大分県、鹿児島県、熊本県も動き出している。
長崎、佐賀、宮崎県が先行か
県産農産物の機能性表示食品の届出で一歩リードしているのが長崎県。研究開発は県農林技術開発センターが中心になり、長崎県立大学や長崎大学との協力体制も構築している。
届出関連は、びわの葉とワンダーリーフを混合発酵させた飲料で届出書類を提出済み。血糖値の低下や肥満予防などを訴求する。ヒト試験は長崎大学、長崎県立大学などとの協力で実施した。椿の葉と茶葉の混合商品でも届出書類の提出を行う予定。ヒト試験も実施済み。
さらに、ミカンと緑茶葉の混合製品の届出も検討する。機能性関与成分はヘスペリジンなどで、ヘルスクレームは詳細を詰めていく。ヒト試験もほぼ終えている。「商品差別化のために栄養機能食品ではなく、機能性表示食品に的を絞る」(県農林技術開発センター)考え。4月からは届出候補素材の探索も加速させる。
佐賀県はここ数年、機能性農産物の活用で九州で最も活発な動きを見せている。2015年に「食と農の振興計画2015」を策定したが、水稲に代えて初めて園芸作物を振興品目の筆頭に掲げるなど、大胆な変革方針を打ち出している。6次産業化も明記。構造改革のテンポが早い。
県産農産物の研究開発は県農業試験センターが、機能性食品展開は「徐福フロンティアラボ」が担当。佐賀大学とも協力しており、昨年は農林水産省の「健康な食生活を支える地域・産業づくり推進事業」に採択された。
同県で注目されるのは、民間企業と県、唐津市、玄海町、各大学の協力で設立した「社団法人・ジャパンコスメティックセンター」(唐津市)。九州の農産品を使った化粧品開発などを行う。すでに本場フランスほか、アジア各国の化粧品業界と提携関係を構築している。
宮崎県は2017年度から、地元の宮崎大学や県各機関と連携し、同県を機能性農産物の研究拠点とする取り組みをスタートさせる。
県産農水産物の機能性表示は、昨年末までにブルーベリー葉、金柑、日向夏など約20種の農産物を候補に選定しており、今年から機能性表示食品の届出に向けた活動を開始する。栄養機能食品としての展開も積極的に推進する。
ヒト試験などは宮崎大学が協力。成分分析・管理などは島津製作所と共同開発した超臨界流体高速クロマトグラフィー技術を活用する。県外の農産物の研究も受け入れる方針で、成分分析、臨床試験、届出までの一貫体制を構築する考えだ。「機能性農産物における日本の研究拠点化を目指したい」(県農政水産部)としている。
福岡、大分は中小企業対策
人口と商工業で九州最大の福岡県は、今年から理化学研究所、九州大学と連携した機能性表示食品の研究開発を本格化する。理化学研究所の機能性食品研究に関係する組織を県内に誘致するほか、九州大学は農学、医学部が研究に協力。地元企業も参加し、研究成果を商品化に繋げる考えだ。
分野は県産農産物に限定せず、加工食品を含めた機能性表示食品全般の研究開発を行う予定。中小企業対策のスタンスで取り組む。「機能性表示食品の研究開発でトップクラスの水準を目指す」(県商工部)としており、研究開発拠点の整備も検討する。産学官で構成する「福岡県バイオ産業拠点推進会議」が、活動をバックアップする。
「一村一品運動」の発祥県で知られる大分県は、2015年に「おおいた農林水産業活力創造プラン」を策定。県農林水産研究指導センターもこれに合わせて試験研究基本方針を定め、機能性農産物の本格的な研究開発に乗り出している。今後は県産業科学技術センター、大分大学との協力体制も整えていく。
第1弾として機能性関与成分の分析を行ったのは、全国一の生産量を誇る乾シイタケとカボス。乾シイタケは九州両品とも機能性表示食品として届出を行うかは流動的としている。
第2次産業と観光業の比率が高い同県は、面積の8割を山地が占めるが、湧水が豊富で温度・高低差を生かした農産物の適地。水産業や豊後牛に代表される畜産も盛ん。6次産業化にどう取り組むか注目だ。
2大農業県、鹿児島と熊本も動く
農産物出荷額で九州トップの鹿児島県は、他県に比べ畜産業の比率が圧倒的に高く、黒毛和種の肉用牛や豚の飼養頭数では全国1位の地域。農産物は野菜や茶葉類(荒茶)も盛んだ。
2013年に策定した農業試験研究推進構想をベースに、県農業開発総合センターが中心に取り組む。食品開発は14年に開設した大隅加工技術センターが担当。機能性農産物の研究開発が徐々に動き出している。
南国の気候条件から有望素材が多く、今後に期待がかかる。新種の茶類ほかマンゴーなど温暖・南方系作物の新規栽培などに適した地域であり、北海道と並びどれだけ6次産業化に取り組めるかがポイントとなりそうだ。
鹿児島に匹敵する農業出荷額を持つ熊本県は、九州の農政全般の拠点でもある。熊本市に農林水産省の九州農政局があるほか、九州の機能性表示食品に取り組む「九州地域バイオ産業クラスター推進会議」も同市を拠点にしている。昨年の地震・大雨による被害は甚大だったが、各種農業振興策はより一層、力が入っているといえよう。
県農業研究センターが研究開発の中心だが、地震直後の昨年5月に「フードバレーアグリビジネスセンター」が開設され、農産物の高付加価値化、食品関連産業との連携など急ピッチで取り組みが進んでいる。県商工観光労働部が管轄する県産業技術センターも開発支援に積極的だ。6次産業化で多くの成功事例が出てくることが期待される。