不可解な届出撤回 成分名変更で取下げ必要か (2017.6.8)


 機能性表示食品の届出を取り下げる動きが目につくようになってきた。なぜ撤回するのか首を傾げざるを得ないものもある。何が起きているのか。

 6日現在の届出撤回件数は計27件。うち15件はMizkanが届け出た酢飲料で、今年4月26日付で一斉に撤回していた。ミツカングループが3月1日付でグループ4社を統合したことによる法人格消滅が理由。15件中11件については存続会社のMizkan Sanmiを届出者にした新規の届出が済んでいる。

 法人解散などで届出者が商品の製造販売を行えなくなった場合、撤回届出を行うよう求める記載がガイドライン(GL)にはある。以前、カルピス(当時)が届出2件を撤回したのもそれが理由だろう。一方、理由が不可解な撤回届出も出ている。

 「機能性関与成分名称変更のため」。理由をこう説明する撤回届出2件が先月26日付で行われた。いずれも届出者は甲陽ケミカルで、グルコサミンを機能性関与成分とするサプリメント。撤回届出が受理されたのに合わせ、同社はホームページで事情を伝え、機能性関与成分名をグルコサミンからグルコサミン塩酸塩に変更するため届出を「一旦取り下げ」るとした。

 そのように名称を変更するだけで撤回する必要があるのか。新規の届出を行うためであるにせよ、GLでは新規の届出を行う必要がある場合として、機能性関与成分の変更は当然ながら挙げているものの、名称の変更については触れていない。

 そこで同庁担当課に撤回理由について見解を尋ねてみた。同課は新規届出が必要になる場合のうち〝1日あたりの摂取目安量当たりの機能性関与成分の含有量の変更がある場合〟を示しつつ、「この規定に該当すると事業者が判断し、撤回を申し出たと思われる」と推測。また、名称の変更が「この事項に該当すると自ら判断し、撤回したと思われる」などと話した。

 名称変更で含有量が変わるはずはなかろう。日本の健康食品業界でグルコサミンといえば、すなわちグルコサミン塩酸塩を指す。「グルコサミン」と表示があっても含有量に関しては「グルコサミン塩酸塩」としての定量値を表示しているのが一般的で、撤回された2商品もそのようにしていたはずだ。

 一方、別の考えもある。「グルコサミンとグルコサミン塩酸塩は別物」「機能性関与成分がグルコサミン塩酸塩であるなら、少なくとも定量表示はグルコサミン(塩酸塩)と記載すべき」──こう指摘するのは機能性表示食品制度の検討会委員を2度にわたりつとめた合田幸広・国立医薬食品衛生研究所薬品部長。正しい機能性関与成分名に対して強いこだわりを持つ。

 ただ、「別物」だとしても日本では慣例的に同じものとして扱われている。既存添加物リストでも「グルコサミン」として名称登録されているほか、日健栄協のJHFA規格基準でも名称は「グルコサミン食品」。消費者の誤認を防ぐため、機能性関与成分名は正しい名称を届け出る必要があるが、とりわけグルコサミンに関しては、そこまでこだわる必要はない。

 甲陽ケミカルはグルコサミン原料製造販売で国内最大手。グルコサミン機能性表示食品の届出支援も行っている。グルコサミンの名称で届出済みの事業者は他にも複数存在し、その名称変更を理由にした届出撤回が波紋を呼ぶ可能性は容易に想像できただろう。それにもかかわらず撤回を決めたのはなぜか。変更届出で済ませられなかったのはなぜか。

 撤回圧力を受けた結果だとしか考えようがないだろう。そもそもグルコサミンの名称で届出を受け付けたのは消費者庁であるはずだが、同庁担当課は「個別案件には答えられない」。仮に、水面下で圧力をかけていたのだとすれば、同庁は極めて微妙な制度運用を行っていることになる。ある人はこう指摘する。「右手で頭を撫でた後に左手で顔を殴るようなもの」
 「生産終了となるため」。こうした理由で撤回届出を行った事業者もいる。
 商品名は「ファインフルーツ ベリー&アサイー」だがGABAを機能性関与成分にした乳飲料を届け出ていたオハヨー乳業。先月29日付で撤回届出が受理された。その2日後の31日にも、同じくGABAが機能性関与成分のゼリー食品の撤回届出が受理された。届け出たのは安曇野食品工房。理由は「販売休止で再開の予定がたっていないため」としている。

 いずれも期待に反して販売不振だったのが直接的な理由だ。オハヨー乳業は同機能性表示食品を昨年9月に発売していたが「当初は導入も進んだものの、尻すぼみとなってしまった。販売量が期待値に届かなかった」(同社広報担当)。先月に生産を終えたという。

 GLでは、撤回届出を行う場合として「届出者が当該商品の販売、製造を中止したとき」も示している。これに応じて同2社は撤回届出を行ったと推測できるのだが、特定保健用食品では、現在は未販売でも許可を取り消していないケースが多い。販売を再開する可能性があることなどが理由だ。同2社としても、せっかく受理された届出は、そのまま残しておきたかったのが本音のはずである。
 「機能性表示食品の分析方法を示す資料について(依頼)」。届出者は最近こう題された書面を受け取っている。差出人は消費者庁。先月8日付で課長通知として届出者に発出されたものだ。
 相当数に上る届出者に送付されたとみられるこの通知は、分析法方法を示す届出資料の内容が「不十分」であることが分かったなどとし、届出資料の修正や指摘事項に対する回答を求めたもの。回答期限は先月25日だった。

 回答期限を過ぎた後に複数受理された撤回届出。同庁の事後監視の動きとの関連を疑うのは考えすぎともいえないだろう。ここにきて機能性表示食品の広告宣伝に対する監視指導を表示対策課が強めているという話もあり、当面の間は届出状況の変化に注視する必要がある。



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