グルコサミン 事後監視で届出混沌 指摘 研究レビューに及ぶ(2017.7.6)
機能性関与成分名を「グルコサミン」から「グルコサミン塩酸塩」に変更することを理由にした機能性表示食品の相次ぐ届出撤回。事態は更に混沌とした様相を呈しつつある。成分名に「塩酸塩」の有る、無しに関わらず、研究レビューを届け出ているグルコサミン機能性表示食品の多くに影響が及びかねない事態に発展しているためだ。届出受理後に疑問視されたのは成分名だけではない。科学的根拠も同様だったことが分かった。
影響広がる可能性
関節ケア訴求グルコサミン機能性表示食品の届出撤回は4日現在で5件(2社)。届出撤回の理由については2社とも、機能性関与成分の名称を「グルコサミン」から「グルコサミン塩酸塩」に変更するためだとしている。
撤回したのは国内グルコサミン原料供給最大手の甲陽ケミカルと、健康食品通販大手の山田養蜂場。いずれも新規の届出を完了するまでは、健康食品として販売していく意向を示しているものの、顧客への影響を心配する声が聞かれる。また、そもそも成分名をグルコサミンからグルコサミン塩酸塩に変えるだけで撤回する必要があるのか──。唐突とも言える届出撤回をめぐって疑問と憶測も呼んだ。
N‐アセチルグルコサミンを除くグルコサミンの届出は、成分名に「塩酸塩」を付けたものと、付けていないものが混在している。日本の健康食品市場でグルコサミンと言えば、グルコサミン塩酸塩を指すのが一般的だが、食薬区分の非医薬品リストでは「グルコサミン塩酸塩」として収載されている一方、既存添加物リストには「グルコサミン」と登録されており、公的にも名称の統一は図られていない。そのため、届出成分名に「塩酸塩」を付ける、付けないは、届出者の判断となっているのが実情のようだ。それにもかかわらず撤回したのはなぜか。
一連の届出撤回から浮かび上がってくるのは、制度を所管する消費者庁が現在、あくまでも機能性関与成分名として正しいのは「グルコサミン塩酸塩」だと見なす制度運用を行っている可能性だ。それを正しいとする根拠は分からないが、成分名「グルコサミン」でも届出を受け付ける制度運用を行ってきた中で、外部有識者の意見を受け、考え方を180度転換させたとみられる。実際、成分名「グルコサミン」の届出は、今年1月以降(届出公表日としては3月以降)、1件も受理されていない。
採用文献 同一多く
グルコサミン機能性表示食品の届出撤回は今後も続く可能性が高いと考えざるを得ない。4日現在、撤回2社と同様に、届出成分名を「グルコサミン」とするものは他に7件(7社)が存在するためだ。
加えて、この7件の届出には成分名以外の共通点がある。まず、機能性の科学的根拠を研究レビューで届け出ていること。また、研究レビューで最終的に採択した文献数は2報であり、かつ、いずれの届出も同じ文献を採択していること。つまり、研究レビューの内容はほぼ同一である。
機能性表示食品の販売に向けた事業者の勢いが、特定保健用食品に対するそれを大きく凌駕している背景の一つには、原料メーカーなどが研究レビューを自ら用意し、最終商品販売会社への届出支援を積極的に行っていることが挙げられる。グルコサミンも、そうした取り組みを通じ、現在までに、中小企業からも含め、30件を大きく超える届出が積み上がることになった。
ただ、この届出支援の仕組みは、研究レビューの内容に対する疑義などの問題が万が一にも生じると、影響が芋づる式に拡大しかねない。そうしたこの制度が特有に抱えるリスクが、今回初めてグルコサミンで顕在化してしまったとみられる。一連のグルコサミン機能性表示食品を巡る消費者庁の事後チェックの視線が向かう先は、成分名称のみならず、研究レビューの内容にまで及んでいることが、4日までに分かった。
複数の関係者の話を総合すると、同庁は、前述の研究レビューの内容について、プラセボ対照群との群間比較で統計学的に意味のある有意差を示す文献が含まれていないことなどを理由に、「科学的根拠として弱い」などと疑問視し、届出の撤回を勧奨しているという。撤回しない場合、食品表示法、景品表示法、健康増進法の関連3法に抵触する可能性を示唆しているようだ。
こうなると、事は成分名「グルコサミン」だけにとどまらなくなる可能性が高い。「グルコサミン塩酸塩」の名称で届け出ていても、主に1日あたり摂取目安量を1500㍉㌘に設定している場合、研究レビューを届け出ているものは、一部の例外を除き、ほとんどが前述の研究レビューと同じ文献2報を採択しているためだ。
事実、「塩酸塩」を付けて届け出た事業者の一部が、同庁の動きを受け、今後の対応について検討を始めた。影響の広がりを食い止めることが出来るか。業界団体の対応も問われそうだ。
事業者に血を流させるな
届け出た成分名にせよ、研究レビューにせよ、そもそもその内容で「受理」したのは消費者庁。機能性表示食品制度の根幹には「事後チェック制」があるとはいえ、平然と手のひらを返すような制度運用には疑問が残る。
行政手続法で規定される届出制に則った「形式確認」で受理したのならまだしも、場合によっては1年以上を費やして届出内容がチェックされた。その上でようやく受理された届出に対し、販売開始後に突然、不備があるなどとして暗に撤回を求められるのだから、「どうして受理する前に指摘しないのか。これでは撤回させるために受理しているのと変わらない」(グルコサミンの届出者)と受理された側も当惑するしかない。
加えて、「科学的根拠が弱い」などと指摘している研究レビューを含む届出を新たに受理したことを、グルコサミンで最初の撤回届出が行われたのと同じ日に公表しているとあっては、混沌の度合いも極まることになる。
そもそも群間比較で有意差の付くことが、機能性表示食品における機能性の科学的根拠として必要条件であるのかどうか。届出者側は、群間比較で有意差が付いていないとしても、ガイドラインでも求められている「トータリティ・オブ・エビデンス」の観点などを踏まえ、表示しようとする機能性について肯定的と言えると判断し、自己責任で機能性表示を行おうとしたのだろう。今後も届出情報をめぐり消費者庁と届出者の見解が事後に対立する場合があり得る。第三者調停機関の設置が求められそうだ。
同庁はガイドラインを根拠に不備を指摘しているようだが、規制改革推進会議が第一次答申で指摘し、改善を求めた通り、ガイドラインには「解釈の幅がある」。その幅を埋めないまま、公式には明示していない事実上の独自解釈を金科玉条のごとく振りかざせば、事業者の血が流れるばかりである。いきおい、機能性表示食品にしないで販売しているほうが楽だし得、という風潮が今後、業界内にさらに蔓延していくことが懸念される。