ビルベリー抽出物の科学的根拠 識者の評価 一段高まる (2017.8.10)

日本アントシアニン研究会_機能性評価査定会議修正①

 アントシアニンで規格化されるビルベリー抽出物の視機能改善作用に関するエビデンス。その現状を科学的に正しく評価しようと、業界関係者と外部の有識者の間で興味深い取り組みが先月、都内で行われた。5年ほど前、同様の試みが国の予算で実施されたが、今回改めて有識者が示した評価結果は、当時と比べてレベルが一つ高かった。それもそのはず、日本発の質の高い臨床試験論文が当時よりも増えている。

 7月26日午後、東京ビッグサイト会議棟。2012年の発足以来6回目となる「日本アントシアニン研究会」(矢澤一良会長)の学術集会が開催され、業界関係者や大学所属の研究者など約100名が聴講に訪れた。

 聴講者の多くが注目したと予想されるプログラムの一つは「機能性評価査定会議」。この日の冒頭に行われた同研究会としても初の試みだ。

 これは、ビルベリー抽出物の視機能(眼精疲労および眼疲労)改善作用に関する科学的根拠(ランダム化比較臨床試験論文=RCT論文)を幅広く収集し、その研究の質などを調査したうえで、外部の識者に調査結果を総合的に評価査定してもらおうというもの。つまり、12年4月に結果が公表された、ビルベリー抽出物を含む11の機能性食品成分を対象として消費者庁が実施した「食品の機能性評価モデル事業」とほぼ同じことを、ビルベリー抽出物に限定して実施したものだ。

 調査方法はモデル事業と原則同じ。調査結果を評価する外部の識者についてもモデル事業で「評価パネル」を担当した学識経験者11名のうち3名が同じ。さらにモデル事業と同様に、識者が最終的に判定する「科学的根拠レベル」(総合評価)について、「A」(機能性について明確で十分な根拠がある)から「F」(根拠情報とみなせるものがほとんどない)まで6段階を設けた。

 ビルベリー抽出物の視機能に関する評価対象機能に、「視力回復」も含まれていた点がモデル事業と今回で異なるものの、今回、4名の有識者で構成された評価委員が示した総合評価は全員揃って「B」(機能性について肯定的な根拠がある)。モデル事業の際は「C」(機能性について示唆的な根拠がある)であったため、当時と比べて1段階高く評価されたことになる。

質の高さも評価
 査定会議で評価委員を務めたのは、モデル事業で評価パネルを務めた唐木英明氏(東京大学名誉教授)、日比野康英氏(城西大学教授)、室伏きみ子氏(お茶の水大学学長)に加えて加藤久典氏(東京大学大学院特任教授)の4名。モデル事業における機能性評価専門チームにあたる調査委員は、同研究会会員企業と研究会事務局が担当した。

 モデル事業において、ビルベリー抽出物の視機能改善作用をめぐっては、「根拠となる論文が少なく、質も低い」(モデル事業の結果報告書)などと指摘されていた。それが5年経過して評価が高まるのはなぜか──。評価委員の声を聞いてみよう。

 「前回の評価(モデル事業)以降に出てきた論文にかなり質の良いものが多い」と述べたのは加藤氏。国際的な臨床試験論文の指針「コンソルト声明」にのっとった論文が増えた点も含めて高く評価した。一方、日比野氏は、モデル事業当時の状況について、「日本人を対象にした論文がほとんどなかった」と指摘したうえで、今回は日本人を対象にした論文が多かったことを高く評価した。

 また、室伏氏は、「(モデル事業以降に)いろいろな論文が出され、論文の内容についても以前の評価を踏まえたうえできちんとした実験が組まれている。これからが期待できる」とコメント。その一方で、論文の結論が肯定的、かつ質が高いと調査委員が判断した複数の論文が、「同じラボ、同じ人たち」でまとめられたものであること、日本語で執筆されていることが課題だと指摘した。
 ただ、室伏氏は、こうした課題が改善されれば、「A判定でもいいだろう」との考えを述べている。

屋台骨にアントシアニン研究会
 日本アントシアニン研究会が発足したのはモデル事業の結果が公表されてから半年ほど経った12年の秋。ビルベリー抽出物の市場規模は決して小さくないにもかかわらず、モデル事業で識者に厳しい評価を受けたことが大きな契機となった。質の高い臨床研究と論文を新たに積み上げ、それによりモデル事業のC評価を覆すことが、「研究会設立の大きな目標の一つとしてあった」と会長の矢澤一良氏は話す。

 そのような大きな目標を掲げたことが「この研究会の原動力になった」とも矢澤氏は言う。
 実際、会員企業となったインデナジャパン、常磐植物化学研究所、えがお、わかさ生活、オムニカらは、モデル事業以降、アントシアニンで規格化されたビルベリー抽出物の眼精疲労改善作用などを検証するRCT論文を連続的に投稿。少なくとも昨年末までに、8報の査読付き論文を新たに積み上げていた。研究投資額としても相当なものだ。

 査定会議での評価員の結論について、矢澤氏は次のように話す。
 「現状ではA評価とは言えない一方で、Cは克服したと評価していただけたと考えている。AとBの差は小さくないように、BとCの差も小さくない。もちろんB評価というのは、検証した効果の大きさに対してではなく、あくまでも論文の質と内容に対する評価。ただそれは、論文で検証された機能性に関して、学術的に評価されたということにもなるだろう。こうした活動(臨床試験の実施とその結果の論文報告)の積み重ねを今後も続け、それに基づく製品が増えていけば、必ず消費者に恩恵を与えられる」

新たな評価法構築
 モデル事業で評価対象とされた機能性食品成分の中にはA評価を受けたものもあった。ただ、モデル事業以降に新たなRCT論文を積み上げていった成分は果たしてどれだけあったか──。そう考えると、発足以来現在までの同研究会と、会の活動に携わった事業者の取り組みには、目を見張るものがある。

 この間には機能性表示食品制度の施行もあった。それが背中を押したことも間違いないが、論文数が不足しているなどと指摘されたことをバネとし、識者から「質が高い」と評価されるRCT論文を積み上げていった同研究会と会員企業の取り組みは、機能性食品成分に関する学術研究団体の新たなあり方を示したとも言える。

 加えて、今回の査定会議に関して特筆すべきは、識者の評価がCからBに高まったことだけではない。調査にあたり収集した論文の質の評価手法も同様だ。

 「日本では、栄養成分を除く機能性食品に対して行われた研究の多くは、研究出資者が企業であり、論文の作成にも企業関係者が含まれている場合が多い。そのため、試験結果の考察には強いバイアスのかかる傾向がある」。研究会事務局はこう指摘する。

 そこで事務局は今回、モデル事業では考慮されていなかった「利益相反」を重視。モデル事業では「肯定的」と「否定的」の2分類とされていた論文の結論判定について、その中間にあたる「必ずしも肯定的と言えない」を新たに設け、最終的に3分類で判定するといった調査方法の改良を行った。

 「必ずしも肯定的と言えない」に分類されたのは、論文著者の結論が肯定的だったとしても、利益相反が確認されるとともに、論文の結論に問題のあることが懸念されると判定された論文。その懸念の有無を判定する際の指標としては、「研究で採用された評価尺度について科学的コンセンサスが得られていない場合」「著者の結論と無関係に、統計処理された試験結果が、実際にはプラセボ対比試験としては有意になっていない。または適格基準を満たす被験者が統計処理対象から除外されていた場合」の2つを設定したという。

 この日、査定会議の評価委員4名は、こうした科学的根拠の質に関する調査方法についても「適切だ」との見解で全員が一致。室伏氏は、「前回を参考にしながら新しいものを付け加えていて、大変結構だと思う。特に、COI(利益相反)を検討されることは必要なこと」、日比野氏は、「評価内容は相当に練られていると考えてよい」とそれぞれ述べた。

 モデル事業から5年。機能性食品成分の科学的根拠の質をめぐる評価手法に、利益相反を考慮に入れるという大きな改良を加えたうえで、複数の学識経験者にその評価手法や評価結果の妥当性を公開の場で確認、承認してもらうという公平性と透明性がより高い形で臨んだ今回の「リターン・マッチ」(研究会事務局)。評価委員が最後に示した結論は、モデル事業と比べて一段レベルの高い「B」評価だったといえそうだ。

【写真=「機能性評価査定会議」の様子:(7月26日、東京ビッグサイト会議棟)】

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