新市場「物忘れ改善薬」 記憶力の機能性表示食と競合か(2017.9.7)
【写真=オンジ抽出エキスを配合した各社の商品。左から、「アレデル顆粒」(クラシエ製薬)、「キオグッド顆粒」(ロート製薬)、「もの忘れ改善薬 ワスノン」(小林製薬)】
2015年に厚生労働省が「単味生薬のエキス製剤」に係る製造販売承認のガイダンスを作成したことを契機に中年期以降の物忘れ改善として、発売が相次いでいるオンジ抽出エキス(イトヒメハギの根を乾燥させた生薬)配合の第3類医薬品が好調だ。ドラッグストア業界の動きにも上手く乗っている。
ロート製薬など相次ぎ発売
同ガイダンスは単味生薬エキス製剤の製造・規格・試験方法を定めたもので、これをクリア・承認を受けた単味生薬商品は、効果効能の表示が可能になるというもの。
オンジエキスは大きな潜在的ニーズを背景に、今年4月から、大手企業だけでもロート製薬㈱、クラシエ製薬㈱、㈱森下仁丹、小林製薬㈱などが相次いで新商品の販売を開始しており、ドラッグストア(DgS)などを中心に活発な商戦が繰り広げられている。
発売から間もないため、現時点では各社のシェアや業績への影響は明確でないが、「購入したお客様の約7割が、今まで同目的の内服剤の購買経験がない方たち。市場に手応えを感じている」(ロート製薬広報・CSV推進部)と出足は好調だ。ロート製薬は4月に「キオグッド顆粒」を市場投入している。
クラシエ製薬も4月に「漢方セラピーゴールドシリーズ」として「『クラシエ』オンジエキス顆粒」を発売。「需要は底堅い」(ヘルスケア事業部)と好調の様子で、7月には、単発商品バージョンの「アレデル顆粒」の販売もスタート。商品群の拡大で販売攻勢をかけている。
6月下旬に「物忘れ改善薬ワスノン」を市場投入した小林製薬㈱も「新たな市場づくりに向けて頑張りたい」(広報部)と意気込みを隠さない。業界関係者の間では、小林製薬が最もコマーシャル活動に力を入れているとの評価が専らで、先行勢を猛追しているようだ。
しかし、第3類医薬品で「物忘れ改善」という新しいヘルスクレームの商品であるため、激しい競合というより、各社とも「新たなジャンルなので今は市場が広がる段階。競合ではなく市場を作っていくという取り組み」(クラシエ製薬)の姿勢で臨んでいる。
「物忘れ改善」は、機能性表示食品のイチョウ葉やDHA・EPA関連の商品に見られる「記憶力の維持」(認知機能)などと類似する側面もあるため、これら機能性表示食品との競合も予想される。だが、各社とも「あくまで国が認可した医薬品であり、効果効能をきちんと表示できる。そこは機能性表示食品と大きく違う」(ロート製薬)という立ち位置だ。
実際、各社とも「医薬品なので売場でお客様に効果効能をきちんと説明できることは大きなメリット」(業界関係者)と説明する。現場で消費者が似たようなヘルスクレームの第3類医薬品と機能性表示食品を手に取った場合、“漢方の薬”の方が受け入れられやすいという。
厚労省による一般用医薬品の規制緩和は、前述の2015年の「生薬のエキス製剤の製造販売承認申請に係るガイダンス」(適用対象・単味生薬のエキス製剤)、16年の「ビタミン含有保健剤の承認基準改正」(予防表示が可能)と毎年実施されており、見方によっては、トクホや機能性表示食品などと一般用医薬品の市場が近くなりつつあるともいえる。
ただ、今回の「物忘れ改善薬」自体で認知症に対応できるわけではなく、認知症が疑われる場合は、医師の診断が必要であり、機能性表示食品と同様に、それら商品自体で治療できるとの誤解を避ける必要があるのはいうまでもない。
DgSなど時代の流れにマッチ
第3類医薬品オンジエキスが活況の背景には、近年のドラッグストア(DgS)業界の動きも影響している。少子・高齢化の進展により、百貨店や大型ショッピングモールが頭打ちの半面、商圏の縮小化で、DgSやコンビニエンスストアの出店が加速している。特に郊外や住宅地のDgSは、食料品や日用雑貨の品揃えを拡大するなど“小型スーパー化”が進んでおり、購買層の平均年齢も高くなっているのが現状だ。
元々DgSでは漢方も扱っており、医薬品の販売は“本流”の業務。そこに「物忘れ改善」を訴求し、かつ手軽に入手できる第3類医薬品の投入は、ニーズにマッチした動きといえよう。「漢方薬というと、かつては奥まった薬局で売っているというイメージだった。しかし、最近はパッケージを工夫したり、ポップを付けて専用棚をつくるなど、消費者が手軽に見れるような取り組みをしている」(業界関係者)という。
また、第3類医薬品でシニア・高齢者層をターゲットにしている点も大きい。各社とも「これまではメタボや女性に焦点を当てた商品が多かったが、主に高齢者を念頭に置いた“物忘れ改善”は潜在的ニーズが非常に大きい。今後は高齢者層のニーズにより密着した商品も投入していきたい」(クラシエ製薬)と意欲を見せている。
第3類医薬品、DgS、高齢者――という3つのキーワードに上手くミートしたのが、オンジエキス商品の活況の要因といえよう。