食衛法改正に向け識者懇談会 健康食品も議論の対象 厚労省(2017.9.21)
2003年以来15年ぶりとなる食品衛生法改正に向け、厚生労働省が有識者懇談会を今月立ち上げ、法改正の方向性などの検討を始めた。今回の食衛法改正は、20年の東京五輪・パラリンピック開催に合わせたHACCPによる食品衛生管理の制度化や、食品用器具・容器包装規制の見直しが主眼。ただこの懇談会では、それら以外にも食衛法(食品安全)を取り巻くさまざまな課題を議論対象にしており、健康食品もその一つ。法改正の影響が健康食品に大きく及ぶかどうかは現時点では不透明だが、議論の行方が従来の健康食品行政に一定の変化を与える可能性がある。
課題に「事業者の把握、監視指導」
厚労省は18年の通常国会で食衛法改正案を提出したい考え。それに向けて厚労省は法改正の方向性などを検討する懇談会を設置し、今月14日に初会合を開催。早くも20日には2回目(全5回の予定)の会合を終え、年内にも意見を取りまとめる方向だ。懇談会の構成員には、座長を務める国立医薬品食品衛生研究所の川西徹所長を筆頭に、消費者団体FOOCOMの森田満樹代表ら識者12名を選定している。
14日の初会合では健康食品に関して議論が過熱。国民生活センターの調べによれば、ここにきて消費者から寄せられる健康被害情報が急増しているだけに、構成員の中からはGMPの義務化など食衛法改正による規制強化を求める意見が上がった。
懇談会で厚労省は、健康食品をめぐる「課題」として3つの視点を提示している。①関連事業者の把握、監視指導②危害事例の収集・処理体制の充実強化③消費者に対する健康食品に関する知識の普及啓発の3つだ。
このうち①は、厚労省が05年に発出した通知「錠剤、カプセル状等食品の適正な製造に係る基本的な考え方について」および「原材料の安全性に関するガイドライン」と密接に絡んでいる。厚労省は懇談会で、「健康食品の適正な製造管理のあり方は、ガイドラインが通知に示されているが、より実効性のある仕組みを構築する必要がある」として健康食品全体に関する課題と問題意識を示した。
この問題意識は、プエラリア・ミリフィカを含む健康食品への対応を検討するために厚労省が先月開いた新開発食品調査会でも、同省から提示されていた。問題となったプエラリアのみならず、健康食品全体に関する「今後の論点」の一つとして挙げており、厚労省は今回の懇談会で、「実効性のある仕組み」を構築するための具体的な方向性として、「事業者の把握」と「監視指導」の二つの方策を同時に取り得る可能性を示したことになる。
このうち特に注目されるのは「事業者の把握」だ。今回の懇談会では、食品関連事業者の「営業届出の創設」や「許可制度の見直し」も検討されている。すべての食品等事業者を対象とするHACCPの制度化も絡み、厚労省は、食衛法の政令で現在34業種が定められている営業許可対象業種以外の事業者も自治体が把握できるようにする目的で、新たに「届出」を求める仕組みを構築したい考えを示している。
また、営業許可対象業種そのものについても、「食中毒リスクに応じたものにする等の一定の判断基準」を設け、対象の見直しを行う方向性も打ち出している。
現在の営業許可対象34業種が定められたのは1972年。以降、「現在に至るまで見直されていない」(厚労省)と言い、当然ながら健康食品販売業、同製造業は対象に含まれていない。
業許可の仕組み見直しへ
営業許可制度の見直しなどに関しては20日の会合で議論。健康食品関連事業者を対象にする必要性を直接指摘した構成員はいなかったが、「誰でもつくれるし、販売できる」(法規制に詳しい業界関係者)のが現状であり、また食衛法に基づき売が暫定的に禁止にされたアマメシバに代表されるように、重度の健康被害事例が過去に無かったわけではないことからも、今後の会合で議論になる可能性は十分考えられる。
事業者を把握することで、地方自治体の食品衛生監視員らは監視指導の網を効率的にかけられるようになる。ただ健康食品に関わる行政機関は厚労省だけではない。法改正によって健康食品への規制を強化するにしても、保健機能食品制度を所管する消費者庁など関係省庁などとの調整が必要だ。加えて、輸出促進などのために健康食品の規制緩和路線をひた走る政府の思惑も絡み、健康食品の規制強化は一筋縄とはいかない。
また、初回会合で構成員が主張した食衛法改正によるGMPの義務化も、その必要性を求める声は年々高まっているものの、極めて微妙だ。「そもそも健康食品の(法的)定義がない中で、(義務化の議論を詰めるのは)時間的に難しい」(前述の業界関係者)ためだ。
ただ、今回の懇談会は、長中期的に取り組むべき事項も含め、食衛法改正の方向性などを検討するのが目的。決して目の前だけを見たものではない。来年の通常国会に提出される見通しの法改正案に盛り込まれないにしても、懇談会で上がった意見や問題意識は、安全性確保を念頭に置いた健康食品行政のあり方に影響を与える可能性がある。