厚労省・消費者庁通知 活性成分の定量分析を要求(2017.10.12)
「販売するなと言っているに等しい」──厚生労働省と消費者庁が先月22日に都道府県などに発出した通知「プエラリア・ミリフィカを原材料に含む健康食品の取り扱い」をめぐり業界関係者からはこんな声も聞かれる。法的根拠はないものの、厚労省が求める製造管理などを事業者が行わない場合、製品の取扱い中止も含めた指導を行うよう求める厳しい内容だった。デオキシミロエストロールなど、女性ホルモン様作用を持つ成分の定量分析の実施も求められている。
求められた厳格な製造管理
通知は、健康被害情報が突如急増したプエラリア健康食品をめぐる国民生活センターによる注意喚起、それを受けた都道府県(厚労省)による製造管理や健康被害発生状況に関する事業者調査、その調査結果等を検討した厚労省・新開発食品評価調査会の意見を受けて発出したもの。主な柱は、原材料から最終製品までのGMPに基づく適正な製造管理の徹底と、商品パッケージ等を通じた健康被害リスクに関する消費者への情報提供の2つだ。
通知の内容は、健康被害の発生を未然に防ぐことを目的に、事業者に原材料の安全性を確保したうえで、適正な製造管理を求めることで、事実上の販売規制に乗り出すものとも受け止めが可能。と同時に、健康被害リスクのおそれがあることを明示させることで、消費者に購入されること自体を抑制したい狙いが透けて見える。
通知には、事業者から消費者へ情報提供すべき安全性に関する事項として、女性ホルモン様物質を含むため生体内に影響を及ぼすおそれがあること、肝障害がある人の症状が重篤化するおそれがあること──などが盛り込まれた。生体内への影響に関する提供情報としては、例として、不正出血や月経不順が挙げられている。肝障害に関しては、新開発食品評価調査会の委員が言及したもので、1症例とはいえ死亡事例が報告されているという。同調査会の関係者は、「そこまで伝えても買うのであれば、それは自己責任」などと述べている。
一方、適正な製造管理に関しては、デオキシミロエストロールやミロエストロールといったプエラリアに含まれる女性ホルモン様作用を持つ物質の定量分析を、原材料ロットごとに実施するよう求められた。成分分析に対応できる最終商品販売会社は少なく、原材料事業者の負担が大きく増すことになる。
そもそも、それら物質の定量分析に、商業ベースで対応できる分析機関は国内には存在しないとされる。そのため通知では、それら物質の定量分析に関する文献情報をいくつか記載。文献を参考に、事業者自らで定量分析方法を検討、実施するよう要求しており、事業者に丸投げしたかっこうだ。
今後の分析対応について原料事業者は「定性分析は可能だが、定量については現状では難しい。今後検討する」と話す。
一方で、定量分析が可能になったとしても、通知では、「毒性試験等のデータから製品の摂取量が十分安全域にあることを確認すること」も求めており、新たに安全性試験を実施する必要に迫られる場合も考えられる。販売量が少なかったり、負担の増加を避けたかったりする原料事業者の中からは、今後の取扱いを見合わせる先が出てきそうだ。販社にしても、厚労省が求める製造管理等に対応できなかったり、製品設計の見直しを避けられなくなったりすれば、終売を検討せざるを得ない場合も考えられる。
規格必要 日健栄協が策定を
今回の通知の発端となった、特に若い女性から数多く寄せられた月経不順や不正出血といった健康被害相談と、プエラリア健康食品の因果関係ははっきりしていない。相談には医師の診断を伴うものは存在しないとされ、寄せられた健康被害相談は、どれもがいわば「自己申告」の域にとどまる。
また、相談件数の増え方にも極めて不自然なものがある。
国民生活センターのPIO‐NETに12年度以降の5年余りで寄せられた相談件数およそ200件のほとんど全てが、15年度と16年度の2年間に集中しているためだ。時期を同じくして相談件数が急増した通販の定期購入トラブルとの関連を疑う見方も根強くあり、法的拘束力を持つ販売規制が求められるほどの健康被害が実際に起こっていたかどうかには釈然としないものがある。そのため厚労省も今回は通知による指導にとどめた可能性がある。
ただ、プエラリアに含まれるデオキシミロエストロールは、医薬品に利用されるエストロゲンと同等の活性を持つとされる。そのうえ、産地によって含有量が大きく異なるとも言われており、安全性のみならず機能性の担保を考えれば、おのずと規格化が求められることになる。
デオキシミロエストロールなどの植物性エストロゲンを規格化することで、プエラリアは、特に更年期女性向けの健康食品素材としての有用性が高まる可能性がある。その意味で今回の通知は、プエラリア市場の健全化と成長が期待できるものと言えるかもしれない。事業者をサポートする役割を担う日本健康・栄養食品協会には、定量分析方法の確立を含めた規格基準の策定が求められそうだ。