消費者庁 機能性の広告に初処分 届出超えた宣伝に優良誤認(2017.11.9)
消費者庁 機能性の広告に初処分 届出超えた宣伝に優良誤認
摂取するだけで痩身効果を得られるかのような広告を行っていたとして、消費者庁は7日、機能性表示食品の販売会社16社に対し、景品表示法違反(優良誤認)で再発防止などを求める措置命令を行い、発表した。処分されたわけでないにもかかわらず広告が不適切だったと自ら認めて「おわび」する社告が相次ぐ異常な事態の行き着く先は、機能性表示食品で初の行政処分だった。これにより企業が届出意欲を大きく減退させれば、制度の終わりの始まりにつながりかねない。
太田胃散、スギ薬局など16社
発表によると、措置命令を受けたのは、太田胃散▽オンライフ▽CDグローバル▽全日本通教▽ありがとう通販▽ECスタジオ▽協和▽スギ薬局▽ステップワールド▽テレビショッピング研究所▽Nalelu▽ニッセン▽日本第一製薬▽ハーブ健康本舗▽ピルボックスジャパン▽やまちや──の16社19商品。いずれも対象は葛の花由来イソフラボンを機能性関与成分にした機能性表示食品。今後の調査次第で、課徴金納付命令を行う可能性がある。
各社が届け出て受理された機能性表示は、肥満気味な人の体重やお腹の脂肪、ウエスト周囲径の減少を助ける作用だった一方で、同庁は、各商品の広告は届出の範囲を超えた「痩身効果」を謳っていると判断。商品を摂取するだけで、運動や食事制限をすることなく、誰でも容易に外見上の身体変化を認識できるまでの痩身効果を得られるかのように広告しているとみなし、不当表示(優良誤認表示)にあたると認定した。
各社は広告で、運動や食事制限することなく摂取するだけで痩身効果を得られると直接的に表示していたわけではない。しかし同庁は広告の文言だけでなく全体を見て優良誤認と判断。
例えば、機能性の根拠として研究レビューを届け出ていた太田胃散の広告では、大幅にゆるくなったズボンのウエスト部分を引っ張り、腹部を強調する写真とともに「体重やお腹の脂肪を減らします」などと記載。またウェブサイトの広告では、「きつい運動や食事制限…そんな我慢はもういらない」などと記載のうえで、「皮下脂肪 内臓脂肪に強力にアプローチ」などと表示していたことが優良誤認。
また、同社のウェブサイト広告では体験談も掲載。併せて「※個人の感想です。効果効能を保証するものではありません」との断わりを記載していたものの、同庁は、文字が小さかったこともあるためか、消費者が「表示から受け取る効果に関する認識を打ち消すものではない」と切り捨てた。
ただ、こうした広告を見て、摂取するだけで広告のように痩せられると認識する消費者が実際にどれだけ存在するかには疑問が残る。
届け出た機能性「否定しない」
消費者庁は行政処分発表に併せ、7日、景表法を所管する表示対策課で記者会見を開き、今回の処分はあくまでも届出表示の範囲を超えた広告に対するものであり、届け出られた機能性表示そのものを否定しているわけではないとの見解を示した。
同課の大元課長は、今回の違反事実の認定と「届出は必ずしもリンクしない」と述べた上で、葛の花由来イソフラボンは「特定保健用食品の許可も取得されているということで、一定の効果(内臓脂肪の減少を助けるなど届出表示のような効果)がある程度あること自体を否定しているものではない」とした。
また、葛の花由来イソフラボンの機能性表示食品は、富士フイルムや銀座・トマトなど他の企業も現在販売しているが、「痩身効果まで謳っているのは確認する限り(今回措置命令を行った)16社ということ。ほかの会社(の広告)については届出の範囲の内容だった」と述べた。
実際、富士フイルム商品のウェブ広告を見ると、届出表示はほとんど同じだが、太田胃散の広告にあるような表示は見当たらない。大きく表示したキャッチコピーは、「BMIが高めの方へ」「お腹の脂肪・体重を減らすのを助ける」と届出表示から引用したもの。「『適度な運動』+『バランスの良い食生活』に加えて葛の花由来イソフラボンでサポート」の記載もある。
ただ、「30代を過ぎてから身に覚えがありませんか」と記載のうえで、「お腹まわりに脂肪がついてきた」、「少し痩せてもすぐ元に戻る…」との記載とともに、ジーンズのボタンとファスナーが閉まらない写真を載せている。
もっとも、もう少しでボタンまで閉まりそうな写真を採用している点で、似たような写真だが確実に閉まらないであろう写真(=画像下)を使用している太田胃散の広告とは性質が大きく異なるともいえる。だが、届出表示を超えた「痩身効果」を標ぼうしているかどうかの判断を巡っては、広告を見る人それぞれの主観に委ねられる感が拭えない。
届出意欲の減退懸念
葛の花由来イソフラボンの機能性表示食品の広告を巡り、スギ薬局が唐突に、自ら不当な表示を行っていた事実を認め、「おわび」する社告を日刊紙に掲載したのは今年5月末。これを皮切りに、ほかの販売者でも同様の動きが相次ぎ、先月末までに計12社が顧客らにおわび。ニッセンでは、社告こそ掲載しなかったものの、ホームページで不当表示の事実を伝えるとともに、購入額を全額返金する対応を取っていた。
同庁は今回、その12社の全てを処分。加えて、社告掲載を行っていなかった、太田胃散、オンライフ、CDグローバル、全日本通教の4社も処分し、同4社には措置命令で再発防止のほか、消費者に対する景表法違反があった旨の周知徹底を命じた。
また、CDグローバルに関しては別の違反事実を認定してもいる。
同庁によると、同社は当初予想販売数量を大きく上回る注文を受けているかのように表示していたが、「実際には具体的な数値予想は立てておらず、表示期間中における注文数は僅少」(表示対策課)だったといい、同庁はこの表示に関しても優良誤認を認定。いわゆる「あおり広告」に対する措置命令は「初ではないが珍しい」(同)としている。
◇
機能性表示食品制度は施行からまだ2年半。「人に例えると、やっと小学生に上がったくらいのステージ」(同庁食品表示企画課赤崎課長、社福協主催〝健康食品フォーラム〟での発言=1日)に入ったばかりだ。
にもかかわらず下された行政処分。制度への影響を表示対策課はどう考えているのか。2日の会見の質疑応答で、ひとりの記者と同課の大元課長との間で以下のやり取りが交わされた。
記者「機能性表示食品制度は政府の成長戦略の一つとして導入された。処分の制度への影響をどのように考えているか」
大元課長「影響とおっしゃっている意味がよく理解できない。どういう主旨でのご質問か」
記者「例えば、販売事業者が制度を活用することに萎縮してしまうなどの影響があるように思う」
大元課長「どうしてか」
記者「……例えば、この制度は(トクホでは難しかった)中小の活用を促すという意味でも導入された。実際、消費者庁としても、中小の活用が増えていることを、この制度の成果の一つとして挙げていると思う。今回処分されたのは中小の事業者ということで、まだ成功例が少ない(中で処分が行われた)ということになると、萎縮することになると思うが」
大元課長「萎縮するかどうかについてお答えする立場になく、お答えは控えさせていただくが、今回の表示(問題となった表示)は、(届出表示の根拠)データをしっかり見ておけば当然できない。中小だからといって、そのようなデータの見方をできないということでは決してないと思う」。
「広告の事後規制 議論必要」
機能性表示食品の販売事業者の一部に措置命令が行われたことを受け、規制改革推進会議委員の森下竜一氏は次のコメントを本紙に寄せた。
▽措置命令が出たことは、大変遺憾であり、機能性表示食品に対する消費者の信頼を裏切る行為をした事業者には反省をしてもらいたい。
▽同じ関与成分を使用している事業者の中でも、措置命令を受けていない事業者も多々あり、機能性関与成分のエビデンスや機能性の文言に問題があるわけではないことに留意が必要である。機能性表示食品で広告が本来の機能性表示の可能な範囲を超えて、エビデンスのない対象者に対する広告が優良誤認にあたっているわけで、今後事者の方には正しい広告を行ってもらいたい。
▽一方で、今回の措置命令において、何が問題なのかは詳細な質疑応答を見ないと理解しにくく、取り締まる側の消費者庁にも、いかなる広告のあり方が正しいのか、しっかり説明する責任がある。
▽取り締まることが目的ではなく、優良誤認のない正しい広告を事業者が行うことができるような体制整備も、機能製表示食品制度においては消費者庁の役割だと理解している。
▽機能性表示食品制度では、事後規制が実施されることは制度の概要でもあり、消費者・事業者の双方の視点に立って、予見性のある広告の事後規制の在り方を議論する必要があると考えており、私見ではあるが、今後規制改革推進会議でも議論をしていきたい。
【写真=左:措置命令について記者会見する消費者庁表示対策課大元課長】
【イラスト=右:景表法違反を問われた広告。写真が特に問題視されたか(消費者庁発表資料より)】