機能性表示食品 措置命令 正しく伝わったか (2017.11.23)
制度施行から2年半余りとまだ「幼い」機能性表示食品をめぐり下された厳しい行政処分。消費者庁は今月7日、あたかも「飲むだけで痩せる」と受け取れる広告は優良誤認にあたるなどとし、葛の花由来イソフラボンを機能性関与成分とする機能性表示食品の販売16社に対して措置命令を行った。広告宣伝に行きすぎがあったのであれば仕方ない。が、無関係の企業まで影響を受けた現実もある。
誤認が誤認を呼ぶ事態
消費者庁が7日下した機能性表示食品を販売する一部企業に対する措置命令は、それを報じたメディアの伝え方も大きく災いし、風評被害を生んだ。
処分を受けていない葛の花の販売企業に返品・返金を求める声が相次いだ。ある企業では、7日夜から9日の3日間で60件近い問い合わせや返金要請などを受けたという。取引先からは今後の取り扱いを見合わせる可能性を伝えられた。
この企業では「成分自体に効果がないとする誤った情報が伝えられてしまった」と一部メディアの伝え方を疑問視。「悪意を感じる」と憤る。別の企業では、あるテレビ番組での報道を見て、「言い方、切り取り方、テロップの出し方のせいで、100人いれば100人が誤認する」と指摘した。
実際、同庁の報道発表の一部を切り取ることで、結果的に、あたかも「実際には痩せる効果の根拠はなかった」などと、事実関係が大きく歪んだ情報を伝えたメディアも少なからず見受けられた。
同庁表示対策課が措置命令発表に際して開いた記者会見。同課は、葛の花は機能性表示食品の届出表示とほぼ同様のヘルスクレームが許可された、特定保健用食品の関与成分であることに言及。
また、葛の花の主要な機能性である内臓脂肪減少そのものは「否定しない」と明言。さらに、処分した16社とは無関係の葛の花機能性表示食品の広告は問題が認められなかった旨も説明していた。
限られた文量、放送時間の中では仕方のない面もあるが、それらの点が報じられることはほとんどなかった。
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ただ、この会見が報道に一定の影響を与えた可能性は否めない。同課の大元課長は「食品で痩身効果を得ることは通常あり得ない」と断言。医薬品的な効能効果である痩身効果と、機能性食品による内臓脂肪などを減少させる効果(ダイエット効果)は似て非なるものだが、専門外の記者や一般消費者には違いが理解しづらい。
また、報道発表資料における一部記述にも疑問符が付く。違反事実について説明する中で、補足的に、機能性表示食品として届け出られた葛の花の機能性に関する根拠の概略を解説している部分があり、次のように記載していたからだ。
BMI25~30の者が対象▽運動と食事制限により、摂取エネルギーを消費エネルギーが上回る状態を維持する必要(運動では12週間平均で約8000~9000歩/日、これは通常より2000歩/日多い)▽実験結果の約1㌔㌘減、ウエスト約マイナス1㌢㍍は、通常1日の変動範囲──。
このような根拠であるため処分した16社19商品は「運動や食事制限をしなくていいわけでは決してない」と同課は説明。おそらくこの説明を取り上げたものと思われるが、「(被験者は)実際には運動や食事制限をしていた」と試験手法への疑念を示した報道も複数あり、それが「痩せる効果の根拠はない」の風評を助長させた疑いがある。
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しかし、実際のところ被験者は、運動や食事制限を指導されていたわけではない。その点は届け出られた論文を読むと分かる。
葛の花の研究レビューには主に4つの文献が採用されている。そのうちトクホの根拠論文ともなっている文献によると、確かに被験者は指導されていたのだが、指導内容は「今まで行っていた運動を止める、または新しく運動を始める等、試験開始前の生活リズムと大きく変化しない」よう求めるもの。機能性食品の臨床試験では、試験中の生活を試験前と大きく変えないよう指導するのが一般的だ。
食事に関しても、「肥満に影響を及ぼす医薬品および健康食品の服用を避ける」「22時以降は間食を含む食事の摂取を避ける」などの一般的な指導が行われていたが、1日あたり摂取カロリーを一定量に制限していたなどという事実は論文からは認められない。
一方で、消費者庁が指摘する通り、被験者の1日あたり歩数は試験期間12週間平均で8000~9000歩、摂取カロリーは1900~2000㌔㌍弱だった。
この点を試験の「前提」や被験者の「条件」と伝えた報道も見受けられたが、本来は被験者の「属性」、あるいは「試験開始前からの生活リズム」と捉えるべきもの。そもそも被験者の選択基準は「20歳以上65歳未満男女」「BMI25以上30未満」などに限られており、歩数にせよ、摂取カロリーにせよ、選択基準にはなっていない。
論文責任著者が語る真実
「コントロール(プラセボ摂取群の被験者)の1日あたりの歩数や摂取カロリーも同じ。当たり前だが、試験条件は揃えている。それと比べて葛の花は有意な結果が出ている」
前述の論文の責任著者を務めた近藤和雄・東洋大学教授(食品環境科学部、お茶の水女子大学名誉教授)はこう話す。近藤教授はポリフェノールによる動脈硬化抑制作用を医学雑誌「ランセット」に発表したことでも知られる医学博士だ。
プラセボとの比較で有意差が確認されていることもほとんど報じられなかった情報だ。1日あたり8000~9000歩、摂取カロリー2000㌔㌍前後に制限すれば「痩せるのも当然」と捉えた記者もいたようだが、とすれば、プラセボ群も同様であった以上、葛の花の摂取によってより痩せられる(内臓脂肪や体重などが減少する)ことを論文は示していることになる。
近藤教授は次のようにも語る。
「体脂肪(内臓脂肪や皮下脂肪)の有意な減少はCTスキャンで確かめられた。脂肪の評価方法としてコンセンサスを得られているもので、なにも家庭用の体脂肪計で確かめたわけではない。そもそも表面上の体重減少をどうこう言うための論文でもない。確かに、表面上の体重減少は1㌔だった。だが、体脂肪の減少がCTにより確認されるという科学的なデータが取れている。それが(葛の花の機能性の)最大の根拠。そこを無視してはならない」
近藤教授は葛の花に関して3つの論文で責任著者を務めた。今回の措置命令をどう受け止めているのか。
「広告に行きすぎがあった。それに尽きると理解している。食品は薬ではないのだからそんなに大幅には痩せない。その中でデータがあるということは、『痩せる方向にベクトルを向けられる』と言える科学的根拠があるということ。消費者にはそれを上手く利用してもらえればいいのだが、過剰な広告で木端微塵にされたような気がしている」
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確かに、広告に行きすぎがあったのだろう。葛の花の臨床試験はBMI25~30の肥満気味の人を対象にしたものだったが、問題となった広告群には「対象者が限られることの表示はなかった」(表示対策課)。果たして実際にそう受け止めた消費者が存在するのかは甚だ疑問だが、「誰でも容易に飲むだけで痩せる」と受け取れると指摘されても仕方なかったのかもしれない。
ただ、措置命令の発表、その報道によって消費者、さらには一部の業界関係者にまで誤解が生じた。その誤解が、機能性表示食品制度そのものに打撃を与えかねない事態に発展している。一部を切り取られる可能性は予測できた以上、制度を所管する消費者庁の報道発表にも、より一層の慎重さが求められた。
一方、措置命令発表を受けて健康食品産業協議会は、10日付で会員団体への「連絡事項」として声明を発表し、広告表現に十分注意するよう求めた。機能性表示食品の広告自主審査を日本健康・栄養食品協会が今後行う計画であることも伝えた。
しかし、伝えたのは事実上それだけ。企業を守る、業界を守る、制度を守る──そうした姿勢も示して然るべきだったのではないか。