サプリメントに起因する“うっかり”ドーピング違反がまたも起きた。違反したのは競泳選手。しかも原因となったサプリは、昨年8月に違反が確定した自転車競技選手と同じ製品だった。競泳選手は国内競泳界で初、自転車競技選手も国体初のドーピング違反となった。相次ぐドーピング違反の発生で、食品・サプリメントの反ドーピング認証の整備は、今や急務の状況になったといえよう。
日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の規律パネルは1月31日、競泳選手に対して、ドーピング違反と認定し、競技成績の失効と7カ月(2017年9月21日~)の資格停止の制裁を課したと発表した。
発表によると、同競泳選手は、昨年9月に開催された日本学生選手権水泳競技大会でのドーピング検査において、WADA(世界アンチ・ドーピング機構)が禁止する興奮薬1,3-ジメチルブチルアミンが検出された。その後、予備検体をLSIメディエンスが分析した結果、同様の物質が検出されたという。
JADA規律パネルでは、検体の分析結果や選手、コーチの陳述書などから、同選手が服用していたサプリメント「ANAVITE」に1,3-ジメチルブチルアミンが含有されていたと結論。今年1月になって、競技成績の失効とドーピング違反の制裁を課すことを決定した。国内競泳界では初のドーピング違反例となる。
この事態に日本水泳連盟は動揺を隠しきれないようだ。「ANAVITE」は米国ガスパリニュートリション社のマルチビタミン・ミネラルで、昨年8月に国体初のドーピング違反となった自転車競技選手が摂取していたサプリと同じ商品。自転車競技選手の違反では、「ANAVITE」から禁止物質の1-テストステロン代謝物である1-アンドロステロンが検出されている。
日本水泳連盟では自転車競技選手のドーピング違反を背景に、9月からホームページ上などで「ANAVITE」に注意するよう関係者に呼びかけていたが、そうした中で同じ商品によるドーピング違反が起きる結果となった。
当該競泳選手は、昨年5月上旬にオンラインショッピングサイト「アマゾン」で購入し、日常的に摂取していたという。今年2月1日時点で、同サイトで「ANAVITE」は2381円で販売されている(内容量など不明)。当該競泳選手は購入時にネット上で「ANAVITE」の禁止物質含有などを調べたが、禁止物質の記載はなかったとしている。
前述の当該競泳選手の陳述書などによると、練習で多忙などの事情から、日本水泳連盟の注意喚起を十分認識していなかったという。日本水泳連盟は今回の事態を受けて、1月31日付けで、ドーピング防止活動を改めて徹底させる旨のコメントを発表している。
待ったなし 反ドーピング認証体制
近年、日本ではサプリメントに起因するドーピング違反が増加している(表参照)。表のうち今回の競泳選手ほか、自転車、サッカー、ソフトボール選手はいずれも“うっかり”ドーピングと考えられる。 “うっかり”ドーピングは、資格停止期間は短くなる可能性はあるものの、競技成績の剥奪は必須で、制裁自体を免れることはほとんどない。
サプリメントに起因するドーピング違反が多発する背景には、食生活とサプリメント摂取が密接に関係していることがある。同じ「ANAVITE」で違反となった自転車競技選手と競泳選手も、陳述書などによると、競技選手として普段の食生活で不足しがちな栄養を補うためにサプリを摂取しており、その中で海外通販サプリを購入したという事情があった。
自転車競技、競泳ともその競技団体では、海外通販サプリを購入・摂取しないよう注意喚起していたが、一連のケースでは、それが徹底されていなかったことになる。だが、選手本人もコーチも日々の食生活の細かな部分まで管理するのは難しいのが実情だ。
反ドーピング活動の一環として、すでに大部分の競技団体はスポーツ薬剤師(ファーマシスト)と協力体制を構築しており、かぜ薬など医薬品を選手が服用する場合には、アドバイスを受けられる仕組みが導入されている。この部分に関しては、教育活動の成果もあり、選手側の認識も高い。
しかし、食品の反ドーピング活動に詳しいドームの青柳清治氏は、「スポーツファーマシストでは限界がある」と指摘する。「サプリメントはあくまで食品。スポーツ薬剤師では分からない部分がある。アスリートはサプリを摂取しなければならない事情があるのだから、食品の観点から、管理栄養士などが普段の食生活でのサプリメントの扱い、反ドーピングの取り組みなどを選手にアドバイスしてあげることが必要」(同)という。
そうした選手側の状況がある一方で、製品側にも生産工程における禁止物質の混入、コンタミネーションのリスクがある。前述の「ANAVITE」による違反も、コンタミによって禁止物質が製品に含有していた可能性がある。
選手やコーチ、スポーツファーマシストが製品コンタミを事前に察知することは不可能だ。そこで製品を供給する側が、反ドーピング認証の取得などに取り組む必要があるが、国内では様々なドーピング認証が乱立気味で、中にはあたかも認証を受けたかのように訴求するものもある。
日本アンチ・ドーピング機構(JADA)は「サプリメント認証制度に関する有識者会議」を設置し、認証体制のあり方を議論しているが、JADA自らが実施している認証を廃止し、認証は民間ベースに移行する案が浮上しているといわれる。JADAの事情として、利益相反を確保する観点から、反ドーピング機関自体が認証を行うことは望ましくないからだ。
いずれにせよ、アスリートにとって安心できるサプリメント商品をより多く流通させるために、認証体制の整備が急がれる。製品供給側にとって、今や反ドーピング認証が喫緊の課題になっている。