「歩行能力の改善」問題で厚労監麻課が講演 (2019.2.21)

サプリ塾修正①

 医薬品医療機器等法(薬機法)に抵触の恐れがあると突如指摘された機能性表示食品のヘルスクレーム「歩行能力の改善」。昨年末に発生したこの問題は、年を跨いでも業界の最大関心事の一つとなっている。13日、「機能性表示と薬機法の関係を考える」をテーマに都内で開催された日本通信販売協会主催の「サプリ塾」には、約250名もの業界関係者が参加。薬機法を所管する厚生労働省医薬生活衛生局監視指導・麻薬対策課専門官の講演に、とりわけ大きな注目が集まった。

薬の効能と表現が同じ「ただちにダメじゃない」
 問題の経緯を振り返る。
 まず、昨年11月末から12月初旬にかけ、HMBを機能性関与成分にした届出が相次ぎ撤回される。ヘルスクレームも共通していた。「(前略)自立した日常生活を送る上で必要な筋肉量及び筋力の維持・低下抑制に役立つ機能、歩行能力の改善に役立つ機能が報告されています」だった。

 撤回の背景には消費者庁の事後監視がある──業界関係者の多くはそう推測した。
 だが、そもそもの発端は厚労省監麻課であったことが日本流通産業新聞の報道で分かり、業界を驚かせた。

 監麻課は昨年11月初旬、広告で「歩行能力の改善」を謳う機能性表示食品が薬機法に触れる恐れがあるとする疑義を、消費者庁食品表示企画課に伝えた。その後、前述のHMBの届出撤回が始まることになる。

 薬機法に触れる、すなわち無承認無許可医薬品に該当する恐れがあるとなぜされたのか。本紙ほか各専門紙の取材で、「歩行能力の改善」の表現が医薬品の効能効果と一致していたことが問題になったのが分かった。具体的には後天性の腰部脊柱管狭窄症等を適用とする医療用医薬品「リマプロストアルファデクス」(一般名)。その効能効果の一部に、「歩行能力の改善」が含まれていた。

 ただ、それだけで医薬品と誤認される恐れがあったり、機能性表示食品に認められる健康維持増進の範ちゅうを超えていたりするなどと主張するのは無理筋と言えた。しかし、実際に関連届出の撤回が進んでいる。〝言葉狩り〟だと批判する声が業界関係者の一部から上がることになった。

 そして今月13日の「サプリ塾」。講演した厚労省監麻課の小川雄大危害情報管理専門官は、「承認されている医薬品の効能効果を標ぼうすることは、医薬品に該当する可能性があり注意が必要」だと注意喚起した。医薬品の効能効果を調べる方法も参考情報として紹介。「PMDA」(医薬品医療機器総合機構)のウェブサイトでキーワード検索できると伝えた。

 そこに同じ表現があることだけをもって「薬機法違反の恐れがある」とされたらまさに〝言葉狩り〟だ。しかし同専門官は次のように述べ、そうではないと強調した。

 「ただし、医薬品の効能効果として使用されている表現であっても、その機能の説明において健康の維持増進が明示的である場合、ただちに医薬品に該当するとは判断しない」
 「機能の説明において、健康の維持増進、保健の用途であることが明示的である場合には、当然、医薬品とは判断しない。そこの線引きの判断が非常に難しいことは分かるが、我々としても、何でもかんでもダメだと言うつもりは全くない」
 医薬品の効能効果と同じ表現となることに注意喚起しつつ、同じ表現でも「ただちにダメじゃない」と繰り返し説明する専門官。

 極めて分かりづらい話だが、要は、国民が適切な医療を受ける機会を損なうなど、保健衛生上の危害が生じるリスクを回避するため、「医薬品と誤認される可能性を最大限排除するよう努めて欲しい」と業界に要請した格好だ。そのためには「機能の説明(機能性表示食品のヘルスクレーム)において、(疾病の治療などではなく)健康の維持増進であることが明示的」である必要があるという。

 そうすると、一連の「歩行能力の改善」を含むヘルスクレームは、そこが明示的ではなかったのだろうか。

 HMBについては前述の通り「自立した日常生活を送る上で必要な」として機能の範囲を限定している。単に歩行能力の改善を訴求しているわけではない。もう一つ、同じく「歩行能力の改善」を含むため、今後撤回される可能性が無視できない『アミノエール』(味の素)のヘルスクレームは次の通りだ。

 「(前略)足の曲げ伸ばしなど筋肉に軽い負荷がかかる運動との併用で、60代以上の方の、加齢によって衰える筋肉の維持に役立つ筋肉をつくる力をサポートする機能と、歩行能力の改善に役立つ機能があることが報告されています」

 これを読んだ人は通常、歩行能力改善に役立つのは「軽い運動」との併用が前提だと理解する。さらに、運動との併用を前提にしている以上、このヘルスクレームは健康維持増進の範ちゅうだと考えられる。

 ただ、これが広告になると話は少し違ってくる。
 昨年11月8日付朝日新聞朝刊(東京本社版)に掲載された『アミノエール』の全面広告。届出表示から抜粋する形で最も強調されているのは「筋肉をつくる力を高め、歩行能力を改善する」。この前文として「(前略)軽い運動との併用で(後略)」とあるが、強調文言と比べると顕著に小さい。同16日付にも全4段広告が掲載されていて、やはり同様のつくりだ。

広告表示を修正 それで済んだ?
 これを景品表示法の強調表示と打消し表示の関係に例えれば、この広告を見た一般消費者は、強調表示(歩行能力を改善する)と打消し表示(軽い運動との併用で)を一体的に認識できない可能性は確かにある。すると、消費者が認識するのは「歩行能力の改善」の部分だけとなり、監麻課に言わせれば、「医薬品の効能効果と同じ。誤認される可能性がある」となろう。

 「広告で機能性表示の一部を切り抜いていけないわけではない。しかしその結果、機能の説明の部分(健康維持増進であることの明示)がなくなり、医薬品と誤認され得る表現になってしまう可能性が当然考えられる」。厚労省監麻課の小川専門官は13日の講演で、届け出たヘルスクレームの広告表示についてもこう注意を促した。

 監麻課は昨年12月の取材に、消費者庁への疑義情報提供のきっかけとなったのは広告だったと述べている。届出データベースを逐一チェックしているわけではないという。

 以上をまとめると、今回の問題の背景には、届出者も意図しないヘルスクレームと医薬品の効能効果の重なり、その重なった部分の行き過ぎと言えなくもない広告表示での強調があったと考えられる。これにより監麻課は、医薬品と誤認される恐れがあると捉えた。

 一方で、そうすると次の疑問が立ち上がってくる。
 「歩行能力の改善」をヘルスクレームに含む届出の全てが撤回される必要が果たしてあるのか。問題の契機となっ広告表示を修正すれば済んだのではないか。それではダだというならば結局、「歩行能力の改善」という言葉を狩り取ることが目的だということにならないか。あるいは他にも何らか撤回されるべき事情があるのか──。
 「歩行能力の改善」問題を受けた届出撤回は14日現在9件。同表現を含む届出は『アミノエール』はじめ他にもある。複数の業界関係筋によると、ここにきて届出撤回を促す動きが更に強まっている。

消費者庁「厚労省に照会しない」
 「薬機法に抵触する恐れがあるとの話に業界はかなり驚いた。46通知もあり、(機能性表示食品など)保健機能食品は薬機法の『外』にいるとの認識が強かったと思う」

 13日の「サプリ塾」のパネルディスカッションでパネリストの一人を務めたファンケル総合研究所の寺本祐之機能性食品研究所長は、「歩行能力の改善」問題に対する業界の受け止めをこう捉えた。

 薬機法に紐付く「46通知」(無承認無許可医薬品の指導取締りについて)では、明らかに食品と認識されるもの▽健康増進法に基づく特別用途食品▽食品表示法に基づく機能性表示食品は、「原則として医薬品に該当しないと判断する」とされている。

 この点について、この日講演した厚労省監麻課の小川専門官は、あくまでも「原則」だと強調。明らかに食品として認識されるものであっても例えば「がんが治る果物」などと標ぼうすることは薬機法の規制対象になり得るとし、機能性表示食品であっても、医薬品的効能効果を標ぼうすれば、規制対象になり得る可能性があると述べた。

 一方、寺本氏は、業界の驚きの背景には他の理由もあったと推測。消費者庁は届出書類確認時、ヘルスクレームに関し、薬機法に抵触するおそれを懸念していると考えられる不備指摘を行っているため、受理されたものは、少なくとも薬機法に抵触しないという安心感もあったのではないか──とした。

 この日の「サプリ塾」には消費者庁食品表示企画課の久保陽子食品表示調査官も講演し、パネルディスカッションにも参加。寺本氏の指摘に対して同調査官は、機能性表示食品制度は届出制であり、「届出時に届出表示の審査、あるいは消費者庁が了解する制度ではない」と述べ、「もし、届出が公表されたから消費者庁に認められた表現であるという認識を持つ事業者がいるのであれば、改めていただきたい」と訴えた。

 さらに、「厚労省への照会等を行った上での公表(届出受理)は行っていない」とも発言。業界には以前から、同庁は届出を受理する前、ヘルスクレームの適法性について判断が難しい場合、厚労省に照会しているとする見方があった。これを公に否定した格好だ。

 今回のサプリ塾に参加したある業界団体関係者は、「制度施行前、別の専門官が『ヘルスクレームについては法に触れていないかどうかを(届出書類確認時に)見る』と言っていた。薬機法に触れるおそれがないかを確かめるものだと理解していた」と話す。

 薬機法を所管するのは厚労省。監麻課の小川専門官はパネルディスカッションで、「今回このような問題(歩行能力の改善問題)が起こったが、どういうものがダメ、良いということを我々がはっきり示していないにも関わらず、これまで大きな問題なく運用されている」と述べ、過去の届出に遡ってまで薬機法上の適法性を検証する必要はないとの考えを示唆した。

 しかし今後の届出はどうか。特に新規のヘルスクレームを届け出る場合は、「(医薬品的な効能効果と誤解されるかどうかを)明確に線引きすることはできない。総合的な判断になる」(小川専門官)と断言していることもあり、不安が募る。消費者庁で行わないのであれば、業界団体が自主的に、監麻課に照会できる仕組みを構築してもよさそうだ。

【写真=2月13日に開催された「サプリ塾」の様子。消費者庁食品表示企画課と厚労省監麻課の担当官が顔を揃えるとあり、多くの業界関係者が詰めかけた。監麻課担当官は広告について「イメージ戦略が先行して日本語が乱れている。規制にかからないように工夫した結果だろうが、規制しないわけにもいかない」と私見を述べた。食表課担当官は「新しい制度だからこそ、新たな事象が次々起きていると感じる」としつつ、「制度をより良くしていくための方向性について、我々と事業者、事業者団体が一致していれば(制度運用は)上手くいく」と語った。パネルディスカッションには文藝春秋前社長の松井清人氏らも参加した。】

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