国センADR 健康被害訴え4千万円請求 因果関係不明 (2019.9.26)
健康食品による健康被害を巡る消費者・事業者間の紛争の結果、因果関係は明確ではないものの、事業者側が300万円を支払うことで和解する事案が最近発生していたことが、国民生活センターが9月18日公表したADR(裁判外紛争解決手続)関連資料で分かった。肝機能障害などの健康被害を訴え、和解の仲介を国センに求めた消費者は当初、事業者に対して計4200万円もの支払いを請求していた。
消費者側からの和解仲介申請を受けて、国センの紛争解決委員会は「重要消費者紛争」と判断。判断基準は「多数性」と「重大性」の大きく2つ。同委員会の委員から選定された仲介委員(通常2~3名)が仲介に入り、和解による紛争解決を目指した。
事業者側は仲介手続きに協力する意思を示したが、請求は否認。話し合いの過程でも健康被害の因果関係を巡る双方の主張が対立したため仲介委員は和解案を作成し、双方に受諾を勧告。事業者側が治療費等の実費と入通院慰謝料相当額として計300万円を消費者側に支払う和解案を双方が合意し、これにより和解が成立した。
この場合の和解は裁判所が行う和解と異なる。和解で生じる義務が履行されなかった場合の強制執行までは認められていない。
事業者側は和解に消極的に応じた可能性がある。仲介が不調に終われば消費者側が訴訟を提起されることもあり得た。また、仲介委員は、この消費者が受けたとする障害と摂取した健康食品の因果関係について、「必ずしも明確ではない」と指摘していた。
ただ、仲介委員は、医師の診断や検査結果を根拠に因果関係があると訴える消費者側の主張には「相当程度の合理性が認められる」他、「被害救済の必要性が高い」とも指導。その上で、紛争の早期解決の手立てとして、少なくとも肝機能障害については因果関係が「仮にある」ことを前提として事業者側が治療費等を支払う和解案を取りまとめ、受け入れるよう双方に勧告した。
この消費者は当初、製造物責任法に基づく損害賠償として、治療費や入通院慰謝料の他に、将来にわたる逸失利益や後遺症慰謝料なども含めて計4200万円の支払いを事業者側に求めた。薬剤性肝機能障害の他に自己免疫性肝炎とも診断されて「通院や服薬に多額の費用が必要」などと訴えていた。
健康食品による健康被害に関する紛争を巡り紛争解決委員会が和解仲介に入ったのは今回が初だった可能性がある。国センのウェブサイトでは、健康食品に関する紛争手続の結果概要が12年5月以降現在までに今回の事案を除いて計9件公開されているが、いずれも契約・解約トラブル絡み。
紛争解決手続は原則非公開。ただし、紛争解決委員会が必要性を認めた事案については、同種の紛争解決に繋がる指針を示すことなどを目的に、結果概要を公表できる規定が設けられている。
健康食品が疑われる健康被害は因果関係の特定が難しい。因果関係がまったく無いことを明らかにすることも困難だ。今回の紛争解決手続の結果を受け、因果関係が明確にされずとも事業者側の和解金で紛争解決を図る流れが形成される可能性が懸念される。
国センの紛争解決委員会は、弁護士や法学者を中心に15名の委員で構成。同様に弁護士や法学者、消費生活相談員など34名の委員で構成される特別委員の枠組みも設けられている。同委員会事務局によると、医療関係者も複数含まれる。
「通院等で多額が必要」
国民生活センターがこのほど公表した「ADRの実施状況と結果概要(令和元年度第2回)」。健康食品による健康被害を巡る消費者・事業者間紛争解決手続の概要は「事案4」として公開された。事業者名等の詳細は非公開。
それによると、申請人である消費者は3年前の16年6月、「足のむくみが気になっていたため」ネット通販の定期購入で相手方事業者が販売するサプリの摂取を開始。1週間服用したが「足のむくみは軽減しなかった」一方で、同年7月上旬、「食欲不振や吐き気、黄疸」の症状が出て「緊急入院」。当該サプリによる薬剤性肝機能障害と診断されたという。
1カ月半後に退院。しかし同年11月下旬に「症状の悪化」で再入院。約1カ月後に退院。翌17年2月に職場復帰した。
その後17年5月、「自己免疫性肝炎の疾病名で地方自治体から特定医療費受給者認定を受けた」。また、DLST検査(薬剤によるリンパ球刺激試験)の結果でも、当該サプリに陽性反応が認められたという。このため、当該サプリの摂取によって薬剤性肝機能障害に引き続き自己免疫性肝炎が「発症したことは明らか」だと主張した。
「現在は5種類の薬を服用しながら症状を固定しているものの、通院や服薬に多額の費用が必要」。この消費者はそうとも主張したという。
一方で、事業者側は、消費者側の主張に対して次のように反論した。
当該サプリは13年3月から16年9月までに90万袋以上が同社に納入されているが、「本件と同様の肝障害の報告は1例もない」。仮に、当該サプリの欠陥が原因なのだとすれば、「薬物性アレルギーの発症例が申請人だけにとどまるはずがない」ため「欠陥がないことは明らか」。
また、申請人の症状には「薬物アレルギーにおける典型的な初期症状としての皮疹(ひしん)が現れていない」ことなどを踏まえ、原因は薬物アレルギーではなく「薬物代謝における個人的資質によるものと考えられる」。DLST検査結果についても、「同検査の診断正答率は50%程度」であり、同検査結果のみで原因を一つに絞ることは「誤った結果をもたらす」――。
このように双方の主張は鋭く対立した。一方、間に立った国セン紛争解決委員会の仲介委員は、当該サプリの原材料の一部に、肝機能障害を引き起こす恐れのある「成分A」が含まれていると言われていることに着目。事業者側に成分Aの分析試験を求めた。
その結果、当該のサプリ及び原材料ともに、成分Aは検出限界以下であることが判明。消費者側も、実際に摂取していた当該サプリの分析を事業者とは別の試験機関で実施したが、結局、成分Aは検出されなかった。
ただ、「成分A『類』」が検出された。この消費者は、「成分A類の一部には肝毒性が認められる」などとする主張を展開したという。