健康被害報告 なぜ急増 品質管理にも向かう視線(2019.9.26)


 健康食品の摂取によって下痢など消化器障害を大半とする健康被害情報が急増しているとして、消費者庁が9月6日、当該商品の名称や販売者名を公表した問題が波紋を呼んでいる。当該商品に配合された原材料名からはそうした健康被害が起こるとは考えづらく、製造・品質管理に課題があった可能性も憶測されている。健康食品GMP認定工場で製造されていたことが、事態をより一層複雑にしている。

GMP認定工場で製造日健・栄養が立入調査
 本紙第1000号既報の通り、同庁が消費者安全法に基づき商品名を公表し、消費者に注意喚起したのは、MCTオイル(中鎖脂肪酸油)粉末や植物エキスなどを配合した『ケトジェンヌ』を名称とするハードカプセル状食品。販売元はe・Cycle(イーサイクル、東京都渋谷区)。主にネット通販で販売されていた。

 同品は、日本健康・栄養食品協会が認定した健康食品GMP工場で製造されていたことが分かっている。販売元が明らかにしたためだ。また同庁も、報道発表資料に掲載した同品のパッケージ写真について、製造所固有記号をマスキングしなかった。このためすぐに特定可能な状況にされていた。

 事態を重く見た日健栄協は9月10日、製造元に緊急立入調査を実施。協会関係者は20日、取材に「調査結果を現在精査している」とコメントした。ただ、原因解明に向けた道のりは平坦ではない。

 販売元のイーサイクルは9月24日、第三者機関が行った同品の成分分析試験結果をホームページで公表。「下剤に使用される成分としてはマグネシウムのみが挙げられました」などと発表した。マグネシウム(酸化マグネシウムとみられる)は便秘薬の薬剤としても使用される。

 ただ、検出量は100㌘当たり9.0㍉㌘と微量。この分析試験結果をもって同社は、「本商品は適正・安全性を保持していると認識している」などと「安全宣言」とも受け取れるコメントを早くも出した。

 一方、製造元でも独自に第三者機関で成分分析試験を進めている。酸化マグネシウの他にも計8つの下剤成分を調べているといい、近くまとまる見通しの分析結果は日健栄協に提出する方向だ。

 下剤成分が混入していたのだとすれば話は分かりやすい。だが、健康食品GMPの信頼性を著しく損ねることになる。他方で何も検出されなければ、健康食品GMP認証機関として「原因不明」が許されない日健栄協は対応に大きく苦慮することになる。

無視できない「水様便」サプリが原因の診断も
 同品を巡っては決して軽くはない健康被害を引き起こしていた可能性がゼロではない。同庁は、健康被害を訴えた消費者に聴取を行い、報道発表資料に3名の証言を掲載した。いずれも「水様便」の症状を訴えており、重篤な消化器障害を引き起こしていた可能性も示唆される。「もし、品質管理に問題があったのだとすると、健康食品GMP全体が見直しを迫られることになりかねない」(健康食品GMP認証関係者)。

 消費者安全法の注意喚起に関する規定では、因果関係が明確ではなくても商品名等の公表が可能だ。万が一にも恣意的運用をされないよう業界関係者は注視すべきだが、同庁は、同品の摂取で消化器障害を中心とする健康被害が生じていること自体は「間違いないと思う」(消費者安全課)とする。

 実際、同庁が公表した消費者3名の証言に基づけば、同品が症状の原因だった可能性を完全に否定することは難しい。3名とも同品の摂取を止めたら症状は治まったとしているためだ。同品が原因だとする医師の診断を受けた人もいる。

 もっとも、だからといって因果関係が明確とは決して言えず、原因も全く分かっていないのが実情だ。
 改めて同品の原材料を見てみる。中鎖脂肪酸油(粉末)▽亜麻仁油粉末▽難消化性デキストリン▽オリーブ葉末▽サジー抽出物▽明日葉末▽スピルリナ原末▽大豆胚芽抽出物などであり、不特定多数に下痢症状を引き起こしそうな素材は見当たらない。

 また、摂取量を見ても、パッケージ記載の1日あたり摂取目安量は2粒。脂質含量については2粒当たり0.16㌘とされており、2倍量以上を摂取したとしても下痢症状が起こるとは考えづらい。それにも関わらず健康被害情報が急増した。

 同品の販売が始まったのは今年3月と最近だ。同庁によると、同庁の事故情報データバンクに登録された同品に関する健康被害情報件数は4月が1件、5月が4件、6月が6件。それが7月に入ると33件、8月は45件と7月以降大幅に増加した。同庁関係者によると、商品名が特定された上で健康被害情報がこのように集中的に寄せられるのは稀だという。

契約トラブルも急増か 原因解明がより複雑に
 一方で、同品に関して急増していたのは健康被害情報だけではない。そのことも事態をより複雑にさせている。

 まず、そもそも同品を摂取する人が急増していた。販売元によれば発売開始から8月までの新規顧客件数は約6万5000件(同社ホームページより。現在削除)。そのうちおよそ6万件を、健康被害情報が急増した7、8月の2カ月間で得ていたとされる。

 また、定期購入契約に関するトラブルも急増していたとみられる。同品は定期購入を前提に初回価格を大幅に値下げるいわゆる「定期縛り」の手法で販売されていたが、ネット上では解約を巡る不平不満の声が散見される。

 実際、国民生活センターのPIO‐NETに9月23日までに登録された当該販売元の健康食品(ケトジェンヌ含め3品目)に関する相談件数は、2018年度が1530件だったのに対し、今年度は既に2100件余り。とくに7月は、単月で1100件近くに達している。

 こうした同品を取り巻く状況から、健康被害の訴え自体の信ぴょう性を疑問視する見方が業界からあがり始めた。最近の健康食品を巡る健康被害情報は、定期購入の解約トラブルなど契約を巡る相談と一体化しているケースが目立つこともあり、本紙としてもその可能性を疑っている。ただ、そうした見方は実際に健康被害が発生した場合の対応を誤らせる可能性があるといえ、危うい側面も持つ。

 因果関係はあるのか、ないのか。あるのだとすれば原因は何か。ないのだとすればどうして健康被害情報がこうも急増するのか──。一刻も早い解明が求められる。
 なお、食品安全を所管する厚生労働省は、今のところ動きを見せていない。

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