禁止物質検出 国産サプリから (2019.10.10)
【写真=英LGC社の分析で禁止物質が検出されたドームの「アイアンSP」、インフォームドチョイスを取得する前だった】
世界ドーピング防止機構(WADA)が禁止物質に指定している成分が、国内製造のサプリメントから検出された。検出量は極めて微量と考えられ、当該製品の販売会社は、「ドーピング検査で陽性反応がでる可能性は極めて低い」と声明を出した。ただ、当該製品はスポーツサプリメント大手が販売するもの。また、健康食品GMP認定工場で製造されていたこともあり、波紋を呼んでいる。
禁止物質が含まれていた原因は今のところ不明だ。
当該製品は、サプリメントのアンチドーピング認証を受けたものではなかった。英LGC社が運用する世界的なサプリメントによるドーピング防止プログラム「インフォームドチョイス」(IC認証)を取得するための事前の分析検査で禁止物質が検出。検査はLGC社で行われており、IC認証がサプリメントのドーピング防止に役立つことを改めて証明する格好になった。
ただ、認証を受ける前に販売が始められた。そのため既にアスリートも摂取していた可能性が高い。販売会社によると、禁止物質の検出が明らかになるまでに約2000個が流通、うち約1000個が購入された。販売会社は、ドーピング検査で陽性反応の出る可能性は極めて低いとの見解を示しているが、アスリートに対し、念のため摂取しないよう呼び掛けている。
禁止物質が検出されたのは、スポーツアパレル大手のドームが販売を手掛けるスポーツサプリメント「DNS」シリーズのうち、今年6月に発売されたヘム鉄を主要原材料とする『アイアンSP』。蛋白同化ステロイド(筋肉増強剤)の一つとしてWADAが禁止物質に指定しているDHEAなど、当該製品には本来含まれていないはずの3物質が検出されたと同社が9月25日夜、公表した。
ドームは、LGC社から分析結果の連絡を受けて即日公表。公表文によると、正確な混入量は現在調査中だが、推定混入量は、スポーツサプリメントに関するガイドラインに定められている製品分析上の検出限界(1㌘あたり100ナノ㌘以下)程度と「極めて微量」だとしている。
ガイドラインとは、日本アンチドーピング機構(JADA)に設置された有識者会議がまとめた「スポーツにおけるサプリメントの製品情報公開の枠組みに関するガイドライン」のこと。
ドームでは現在、当該製品の原材料の成分分析を行うなどして原因究明を急いでいるが、9月25日時点で推測される原因として、「当該製品の製造されたラインに残存していた禁止物質が混入した可能性」があることを公表。当該製品と同じラインで製造された別の製品中(原材料中)に含まれていた禁止物質が、キャリーオーバーによって当該製品に混入した可能性を示唆した。
IC認証に関わる業界関係者によると、当該製品の製造工場ではこれまでにIC認証取得製品の製造実績はないという。
一方、同工場は、健康食品GMP適合認定を受けている他、サプリメントに関する米国認証機関によるGMPに登録。禁止物質が検出されたことに加え、ドームが示唆した混入原因の可能性に対し、同工場関係者は当惑している様子だ。「GMPの逸脱はない」と強調する。
仮に、原因がドームの推測通りであったとすれば、その要因としては、製造ラインの洗浄不足が考えられる。そのため、同工場のGMPの運用を疑問視する見方が出ている。
一方、「今回の問題は、健康食品GMPの問題と切り離して考えるべきだ」とする意見もある。サプリメントに禁止物質が含まれるかどうかを確認するための分析精度は、サプリメントに一般的に求められるそれと比べて明らかに高いためだ。
サプリメントへの禁止物質の含有量が僅か10億分の1㌘(ppb)であったとしても、現在のドーピング検査における高度な分析レベルでは、それを摂取したアスリートの検体は陽性反応を示す可能性があるとされる。そのため、IC認証を運用するLGC社による製品中禁止物質の分析検査も、ppbのレベルで行われているという。
医薬品でも防止難しく
実際、国内で今年、ドーピング違反を認定されたアスリートが服用していた医療用医薬品から、禁止物質のアセタゾラミドが検出される問題が発生。原因究明を進めた製造販売元では、製造ラインに当該禁止物質が残留していたことに伴うキャリーオーバーが原因であったことを公表しつつ、禁止物質の混入レベルはPIC/S GMPガイドライン(国際的な医薬品GMP基準)における「最も厳しい基準」である10ppm基準から逸脱するものではなかったと説明。つまり、アスリートの服用は別にして、医療用医薬品として製造・品質管理上の課題は無かったとした。
「要は、LGC社によるサプリメント中のドーピング禁止物質の検出精度は、健康食品GMPやcGMPどころか、医薬品GMPの要求事項すら上回っているということ」だとサプリメントのアンチドーピングに詳しい業界関係者は指摘する。
禁止物質の混入量が僅かppb単位だとしてもアスリートにとっては死活問題。ドーピング検査で陽性反応が出れば、極めて重いペナルティを科せられる可能性がある。
改めて今回の問題は、アスリートに向けて販売されるサプリメント・健康食品は、発売前に、アンチドーピング認証を取得しておく必要性をまざまざと見せつけたと言えそうだ。
ドームのDNSはアスリートの利用者が多い。そのため同社は多くの製品でIC認証を取得している。ただ、今のところ全製品には達しておらず、同社には原因究明と同時に早急な対応が求められることになりそうだ。
今回の問題を受けて日本スケート連盟は、9月27日付で所属選手など関係者にサプリメントについて注意喚起する通達を発出。「サプリメントの使用を考える時、今回の禁止物質混入の事例を見た上で、必要性を今一度考慮」するよう求めている。