「お試しが定期に」相談激増 国セン、行政に法執行を要求(2019.12.26)
「お試し500円」などと通常価格よりも安く購入できると訴求している一方で、定期購入が条件であることが分かりづらく、その上で解約しづらい健康食品や化粧品の通信販売を巡り、消費者からの苦情・相談が増え続けている。国民生活センターは12月19日、商品注文時に契約内容や解条件をよく確認するよう消費者に注意喚起。加えて、消費者庁に対し、特定商取引法や景品表示法の規定に違反する事業者への法執行を行うよう要望した。
前年度比2倍超 状況悪化の一途
国センの調べによると、この問題を巡る消費者相談は全国的に増加しており、2019年度の11月末時点までにPIO‐NETに登録された相談件数は2万9177件に上った。年度途中であるにもかかわらず前年度を上回った形で、前年度比は実に230%の「激増」状態。国センは、16年6月、そして17年11月にも、この問題を巡る注意喚起を行っているが、治まるどころか悪化の一途を辿っている格好だ。
この問題で消費者からの相談が多い通販媒体はインターネットで、全体の9割近くを占める。商品としては、ダイエット効果や筋肉増強効果を謳う健康食品が6万638件(約64%)で最多。次いで除毛剤や美肌効果を謳う美容液などの化粧品が2万9369件(31.2%)。相談者の属性は、高校生など20代未満から80歳以上までと広範囲に及んでいる。
「リピート商材」である健康食品や化粧品の通信販売において、定期購入顧客の獲得は事業の生命線。定期購入を巡る消費者トラブルの社会問題化は、健康食品・化粧品の通信販売全体に対する信頼性が損なわれかねない。
国センによると、この問題で特徴的なのは、消費者が苦情を訴える通販事業者の多くが、販売サイトで「ダイエットをサポート」「筋力がアップ」などと商品の効果とともに、「お試し300円」「初回実質0円(送料のみ)」などと通常価格よりも安く購入できることを強調して表示しつつ、実際に安く購入するためには定期購入を条件としている点だ。
しかし、契約条件に関する表示が小さかったり、何度もスクロールしないと表示されないページの途中に表示されていたりするため、定期購入が条件であることが販売サイト上で認識しづらい。
また、注文受付終了までのカウントダウン表示を行うことで申し込みを煽ったり、「〇日間解約保証」などと表示して期間内であればいつでも解約できるように強調している一方で解約条件の詳細はリンク先でないと確認できなかったり、最終的な注文画面に初回分の数量、金額のみを表示し、定期購入期間における数量や支払い総額を表示しなかったりする場合も目立つ。
さらに、契約条件を認識しないまま注文した消費者が解約を求めると、定期購入が条件であることを理由に解約を断るケースが目立つ他、解約のために何度電話しても通話中で繋がらないと訴える相談も多い。こうした「連絡不能」に関する相談件数は、今年4月から10月までに8411件にも上り、昨年度の7425件を上回っている。
他にも、商品を摂取した後の体調不良を理由に解約を求めても、医師の診断書の提出を事業者から求められる場合もあるという。
こうした消費者が意図しない定期購入を誘引するかのような、健康食品・化粧品ネット通販手法を巡る消費者相談が増え続けている背景について国センは、「特定の事業者によって行われているわけではなく、少なくとも100社以上が同じ手口で販売している」「販売手口が一種流行化している」(相談情報部)ためだと指摘。「ある事業者に関する相談が落ち着いてきても、新たな事業者が同じような手法で販売するため、相談件数が増え続けている」という。
相談件数の5割 上位10社に集中
法律で規制することも不可能ではない。消費者庁が所管する特商法では、16年の法改正で通信販売の定期購入契約に関する表示義務の追加・明確化を実施し、定期購入を購入条件にしていることや、総額、契約期間などの取引内容を表示することを義務付けている。
また、特商法で禁じる「顧客の意に反して売買契約等の申し込みをさせようとする行為」に関するガイドラインでは、申し込み最終画面で契約条件を全て表示していない場合などは、同行為に該当する恐れがあると指摘している。
一方、景表法でも、消費者に認識されなかったり、認識されても強調表示から離れた場所にあったりする打消し表示は、打消し表示の要件を満たさないと判断し、同法が禁じる優良誤認表示や有利誤認表示と認定する運用が行われている。
実際、今年8月、「初回限定80%OFF」などと表示しつつ「いつでも好きな時に1ステップで解約できます」と表示しながら女性向け育毛剤を販売していた通販事業者に対し、埼玉県が景表法違反(優良誤認・有利誤認)で措置命令を行った。県は、実際には解約手段は電話に限られており、そのうえ電話がつながりにくく、売買契約が容易に解約できない状態だった認定した。
国センでは、3度目となる今回の注意喚起を通じ、法規定に違反する通販事業者に法執行を行うよう、消費者庁に要望した格好だ。特商法では業務停止命令も行える。国セン関係者によれば、この問題を巡り消費者からの相談件数が多いネット通販事業者は、ある程度数が絞られている。「2019年度で言えば、(相談件数)上位10社が全体のおよそ5割を占めている」という。