「機能性」巡る規制、大変化へ 事後チェック指針、4月から(2020.1.23)


 4月以降、機能性表示食品の事後規制のあり方が大きく変わりそうだ。制度を所管する消費者庁は1月16日、昨夏から検討を進めていた機能性表示食品の「事後チェック指針案」を公表、同時にパブリックコメントの募集を始めた。同庁は指針を通じ、景品表示法など関係法令に基づく事後規制の透明性を確保するとともに、不適切表示に対する事業者の予見可能性を高める。その上で、企業や業界団体による自主的規制の推進や、エビデンスについて客観的な評価を行える第三者機関の取組みを支援していきたい考えだ。指針の運用は4月1日から始める予定。

業界自主規制推進図る指針
 意見募集期間は来月14日まで。指針の正式名称は「機能性表示食品に対する食品表示等関係法令に基づく事後的規制(事後チェック)の透明性の確保等に関する指針」となる見通し。昨年6月閣議決定された政府の規制改革実施計画を受け、機能性表示食品制度の更なる運用改善を図るために、消費者庁が有識者や業界団体の意見も聞きながら検討作業を進めていた。指針は今年度末までに策定し、通知及び公表する。

 消費者庁は、指針作成の目的の一つに、「事業者の自主点検及び業界団体による自主規制等の取組の円滑化を図ることにより事業者の健全な広告活動等に資する」を掲げた。ここが事後チェック指針の役割的な根幹部分の一つで、同庁は今後、機能性表示食品の事後規制を行う主体を、企業や業界団体による自主的な規制や、アカデミアなど有識者で構成される第三者に委ねようとしている。規制改革実施計画でも、「第三者的な役割を持つ機関あるいは組織の活用等により、透明性のある法執行の仕組みを構築する」ことが同庁に求められていた。

 事後チェック指針案の構成は、①機能性表示食品の科学的根拠に関する事項②広告その他の表示上の考え方③届出資料の不備等における景表法上の取扱い──の3項目9ページ。届出ガイドラインと比べると小ぶりな指針だが、①では、届け出された機能性表示の科学的根拠として「明らかに適切とは考えられない具体例」(明らか不適切事例)を例示した。業界関係者からは「補足説明が必要だ」と分かりにくさを指摘する声もあがっているが、届出後のみならず、届出資料を作成するに当たっても、届出ガイドラインとともに重要な指針となる。

 ①に記載の科学的根拠に関する明らか不適切事例は、これまでの制度運用において、実際に届出後に疑義が生じた事例から選定されたとみられる。例えば、SRによる届出について、「研究レビューにおける成分と届出食品中の機能性関与成分との同等性が担保されない場合」は明らかに不適切だとされた。

 また、SR、最終製品臨床の双方に共通する明らか不適切事例として、抽出物(エキス)等に含まれる特定の成分を機能性関与成分とする届出に関し、「当該特定成分のみでは表示する機能性を根拠論文等により合理的に説明できない場合」を例示。これも、実際に届出後に疑義が生じ、届出者が対応を迫られた経緯がある。

指針が土台か公正競争規約
 一方、②は、販売開始後の広告等の表示を検討する上で、届出ガイドラインや「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項」とともに重要になる指針だ。今後、業界団体が策定した「機能性表示食品『適正広告自主基準』」や、現在作成作業が進められている機能性表示食品の公正競争規約にも反映されていくとみられる。

 ②の指針では、届け出された機能性の範囲を逸脱した表示は、景表法をはじめ食品表示法、健康増進法といった各関係法令上問題となる恐れがあることを改めて強調しつつ、景表法上問題となる恐れがある事項を整理して提示。「実験結果やグラフ」「医師や専門家等の推奨」「体験談」「届出表示や届出資料の一部引用表示」「打消し表示」──など広告を構成する表示要素別に考え方を示した。

 一方で、景表法違反に当たる恐れがないと判断される広告や表示は、食表法、健増法上も問題となる恐れはないと判断されるとの考え方も明記されている。

 ②ではまた、「誤認される『表示』の判断」に関する考え方を示した。実際に発生した機能性表示食品の広告表示を巡る景表法違反事例を踏まえたもの。表示全体に照らして、届出表示の内容が例えば「肥満気味の方の内臓脂肪を減らすのを助ける機能性がある」にもかかわらず、「あたかも、特段の運動や食事制限をすることなく、誰でも容易に腹部の痩身効果が得られるかのような印象、認識を一般消費者が受けるものと判断」されるような場合は、届出の範囲を逸脱したものとして景表法に「違反する」と言い切っている。

根拠判断、第三者機関が担う
 事後チェック指針の目的や役割を踏まえて注目されるのは、③の「届出資料の不備等における景品表示法上の取扱い」だ。ここでは、「本指針に基づき、機能性表示食品の販売前に、消費者庁、事業者及び事業者団体等による事後チェックが適切に運用される限りにおいて、景表法上問題となる恐れは想定されない」との前提を示した上で、それでも届出資料の不備等が事後的に明らかになった場合について、景表法上の取扱いに関する考え方を示している。

 それによると、「機能性表示食品に関する科学的知見及び客観的立場を有すると認められる機関又は組織等において妥当であるとの評価」を受けるなどして「表示の裏付けとなる科学的根拠が合理性を欠いているものではないと判断」された場合は、「景表法上問題となるものとは取り扱わない」としている。

 届出表示を裏付ける科学的根拠の妥当性を巡り、届出者と消費者庁との間で見解の違いが生じる届出後のトラブルが、これまでにたびたび発生してきた。同庁は今後、こうしたトラブルが起こった場合、「機能性表示食品に関する科学的知見及び客観的立場を有すると認められる機関又は組織等」、すなわち〝第三者機関〟にジャッジを委ねたい考えだ。「エビデンスはサイエンスの世界だが、食品だからグレーゾーンはどうしても出てくる。そこのジャッジを行政が行うのはおかしいし、届出した一企業が『正しい』と主張するだけというのも客観性に欠ける」とし、機能性について客観的な評価を行える第三者が間に立ってくれれば「物事をスムーズに運べる」と同庁幹部は話す。

 だが、そうした第三者機関は現状では見当たらない。そもそも誰が立ち上げるのか。事後チェック指針案をまとめた消費者庁表示対策課は、1月16日の長官定例会見の中で次のように説明している。

 「事業者団体も含め、届出をする事業者のエビデンスの客観性が向上される取組を行うための組織等が出来上がってくれば、そうした組織の活用を消費者庁としても推奨していきたいと考えている。その結果を踏まえた上での事後チェック体制を考えることも可能になる。今後そうした動きが事業者団体側で出てくれば、そうした取組についても可能な範囲で支援していきたい」

 消費者庁が指針の運用を開始するのと同時に業界団体は第三者機関を立ち上げることができるのか。第三者を構成する有識者らの人選も重要になりそうだ。また、現時点で疑義が生じている届出の取扱いはどうなるのか──今後の行方が注目される。



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