機能性表示食品 6年目迎えた新制度 (2020.6.25)


 機能性表示食品制度が6年目を迎えた。一時は大きく停滞した届出公開件数の反転増加傾向は続いており、新規の機能性関与成分、ヘルスクレームの公開も多い。一般健康食品から機能性表示食品にシフトしようとする事業者は減っていないとみられ、サプリメント・健康食品市場に占める機能性表示食品の割合は今後も増えていく。2019年度の届出公開状況を軸に、制度のこれまでを駆け足で振り返る。そして今後を展望する。

届出公開 過去最多
 2015年4月施行の機能性表示食品制度。5年目の19年度の届出公開件数は、年度別の過去最多記録を大きく上回る882件で着地した。それまでの最多件数だった前年度よりおよそ200件も多かった。

 制度施行初年度(15年度)の届出公開件数は300件台前半。さっそく不満の声が上がり、翌16年度は620件と倍増。しかし17年度は急ブレーキがかかり400件台にまで急落。なかなか届出が公開されない状況は18年度に入ってからもしばらく続いた。

 だが、18年度は終わってみれば、700件に迫る届出が公開された。年度半ばごろから公開件数が大幅な増加反転を見せ、最終的に年度別最多記録を更新。この流れが19年度も継続され、あと一息で900件に到達せんとする届出が公開されることになった。

 18年度半ば以降、いささか唐突に公開件数が増えはじめた背景は判然としない。ただ、制度運用を担当する消費者庁は19年7月、届出に関する運用改善目標を公表。同庁に届出資料が提出されてから50日以内に公表あるいは差し戻しを行うとする新ルールを設け、ルール通りに運用を進めた。これが19年度の届出件数が過去最多を更新した理由の一つと考えられる。

 18年度後半も同様の傾向が見られていたが、19年度の届出は従来にない内容のものが目立った。
 そもそも同年度第1号(届出番号E1)の届出が「ピカシン」だった。

 マンゴスチンエキスに含まれるロダンテノンBという新規の機能性関与成分について、「糖化ストレス軽減」による肌の潤い保持を訴求するもの。抗酸化は以前から届出されていたが、抗糖化に関してはこれが初めてだった。
目を見張る新規モノ
 19年度に届出が公開された新規の機能性関与成分としては他に、SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)▽クレアチンモノハイドレート▽希少糖▽赤パプリカ由来キサントフィル▽マスリン酸▽ジオスゲニン▽豚プラセンタ由来ペプチド▽小麦ブラン由来アラビノキシラン▽カシスアントシアニン▽ローヤルゼリー由来ペプチド▽ボタンボウフウ由来クロロゲン酸▽大麦若葉由来食物繊維▽フィチン酸▽本わさび由来6‐MSITC▽ユーグレナグラシリスEOD‐1株由来パラミロン▽グルコラファニン▽βラクトリン▽モリンガ種子由来グルコモリンギン▽デルフィニジン-3,5-ジグルコシド▽PQQ──などがあった。

 この他、19年度から機能性関与成分の対象に追加されたエキスに関する届出も公開。桃屋が「熟成にんにくエキス」、ハウスウェルネスフーズが「秋ウコンエキス」をそれぞれ機能性関与成分として届け出て注目を集めた。今のところエキスの届出はこの2つにとどまる。

 一方、新規のヘルスクレームについて見ると、「老化に伴うアミロイドベータやタウタンパク質の蓄積を抑え~」との作用メカニズム文言を機能性表示に盛り込んだクルクミンに関する届出が公開された。

 アミロイドベータやタウタンパク質は、脳に蓄積することでアルツハイマー病の発症要因になるとされる異常タンパク質。この届出を見て驚いた業界関係者は少なくなかったようで、ある関係者は「腰を抜かした」と語った。

 また、肌領域のヘルスクレームについて、「紫外線刺激から肌を保護するのを助ける」との表示が初めて公開された。強い抗酸化作用を持つことで知られるアスタキサンチンを機能性関与成分にしたもの。それまでに届出が公開された肌領域の機能性表示は「保湿」がほとんど全てだったこともあり、肌への働きについて新たな訴求が可能になることを期待させる届出となった。

肌領域に広がり
 この、紫外線刺激からの肌保護機能を訴求する届出はその後も増加。今月22日時点で計6件の届出が公開されている。

 肌領域では他にも、肌の「弾力性の低下」を抑える働きを表示する機能性表示食品が初登場した。現時点までに計2件に増えている。

 第1弾となったのは、美容食品素材としてお馴染みの魚由来コラーゲンペプチドを機能性関与成分にしたもの。過去、同素材についてもっぱら暗示されてきた〝プルプル〟は、単なるイメージではないことを届け出ることで証明した。さらにこの届出には、「肌の健康に役立つ」といったヘルスクレームも盛り込まれていた。

 また、20年度に入ってからは、いわゆる排尿サポート機能を訴求する届出まで公開されている。機能性関与成分はクランベリーに含まれるキナ酸で、ヘルスクレームと同様に従来なかったもの。18年度後半から続く新規の機能性関与成分とヘルスクレームの拡充ぶりには目を見張るものがある。

19年度 過去最高の意味とは
 制度施行以来の機能性表示食品の届出総数は今月23日時点で3032件。消費者庁は今月8日から20年度分「F」シリーズの届出公開を開始。新型コロナウイルス感染拡大に対応した政府の緊急事態宣言の影響で公開が遅れたが、新年度の届出公開件数は既に80件超まで積み上がっている。

 3032件のうち現在販売されている商品数は、同庁の届出データベースによると現時点で1371件。その市場規模はと言えば、市場調査会社の富士経済は2020年に3007億円(内訳=明らか食品が266億円、ドリンク類が1309億円、サプリメントが1432億円)と予測する。また、矢野経済研究所は2019年度について2382億円と見込む。

 一方で、増加しているのは届出件数や市場規模ばかりではない。届出公開件数3032件のうち少なくとも276件の届出がこれまでに自主的に取り下げられており、撤回届も積み上がっている。現在販売中の機能性表示食品が届出総数の半分も満たない理由の一つがここにある。

 2020年に入ってからの届出取り下げは現時点までに48件。共通する機能性関与成分の取り下げも複数みられている。

 そのひとつは一定数の届出があるウェイトコントロール素材由来成分。取り下げの理由として、「リニューアルに伴う販売終了」「申請内容変更に伴うリニューアル」や機能性関与成分の変更を挙げている場合が目立ち、同時進行で既存の届出に何らかの変更を加えた新規届が進められている可能性も考えられる。

 一口に撤回と言っても、これまでの届出を振り返ると理由は様ざま。リニューアルの他にも、販売を取り止めることになったり、届出者の法人名が変わったり、変更届では済まない変更が必要になったり──などと様ざまで、もちろん、事後に届出上の不備が明らかになった場合もある。

「届出制」が軌道に
 制度施行以来、この事後に明らかになる不備が届出者を苦しめる事例が複数見られた。不可抗力的な不備もあり、行政に対する憤りと諦めが複雑に入り混じりながら取り下げが決められた届出も少なくない。特に、販売開始後に突き付けられる不備は、届出資料の提出から公開までに長期間を要していた時期はとりわけ、制度を活用すること自体に対する疑問、疑念を業界に抱かせることになった。

 それでも、届出ガイドラインが制度施行から現在までに6度も改正された事実に象徴されるように、制度そのものと制度運用の改善が繰り返し重ねられながら現在に至る。記録を大きく塗り替えた19年度の届出件数は、行政手続法に基づく「届出制」と、日本では珍しい「事業者責任」が採用された機能性表示食品制度の運用が、いよいよ本格的に軌道に乗ったことを示す証左といえる。

 今年度以降の届出はどのような推移を見せるのか。制度施行以来、表示に対するより厳しい監視の目が一般健康食品に注がれていることもあり、一般健康食品から機能性表示食品へのシフトを検討する事業者は増えこそすれ減っていないとみられる。また、消費者庁の届出確認のスピードも安定的に早まっている。そのため届出件数自体は当面、右肩上がりで積み上がり続けていくだろう。

 一般健康食品から機能性表示食品へのシフトは、国が求めるところでもある。それを加速させるために重要になるのが、届出資料の形式確認を行う側も慎重になるといわれる新規の機能性関与成分、新規のヘルスクレームのさらなる広がり。多くの事業者に「やりたい」と思わせる真新しい機能性表示食品の登場が、業界の制度活用を一層加速させることになる。

事後チェック指針
 そのなかで試金石となりそうなのは、「免疫系(Immune System)」に対するヘルスクレームを行う届出が今年度以降、公開されるかどうかだ。これが出てきて初めて、海外主要国のサプリメントや食品の機能性表示制度に実質的に追いつく。

 消費者庁は、今年度から機能性表示食品の「事後チェック指針」の運用を開始した。届出ガイドラインやQ&A(質疑応答集)などといった関連指針や規則に加えて事後チェック指針に基づく届出を行うことで、以前より透明性に優れた世界で機能性表示食品の販売を展開できる。

 また、事後チェック指針に関連して、業界団体が有識者で構成される民間組織の運用を今月から開始した。届出公開後、機能性に関する科学的根拠に対する疑義が提起された際、専門知識を持つ第三者としてその是非を判定する民間組織。撤回以外の選択肢を届出者は得ることになる。

 今年4月、制度はスタートから6年目を迎えた。世界的に広がった新型コロナウイルス感染症を含め、様ざまな変化の中で制度の運用、活用が進むことになる。健康食品による有害事象の発生を未然に防ぐことを目的にした食品衛生法に基づく指定成分等含有食品制度が今年6月に施行されたことも踏まえ、機能性表示食品制度は新たなステージに入った。

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