たもぎ茸由来エルゴチオネイン 届出へ (2020.6.25)
認知機能領域の機能性表示食品対応素材に今後、新たな植物由来素材が加わりそうだ。「たもぎ茸」という北海道産食用キノコ由来のエルゴチオネイン。最新の臨床試験結果をまとめた査読付き論文が先ごろ国内ジャーナルに掲載された。原材料供給元は機能性表示食品の届出に向けた準備を加速させている。
論文は今年4月、「薬理と治療」に掲載された。エル・エスコーポレーション(東京都中央区。以下、LS)が原材料販売を手掛けるエルゴチオネイン含有タモギタケ抽出物『アミノチオネイン』(登録商標)の認知機能改善効果をRCT(ランダム化比較試験)で検証したもの。
試験では、軽度認知障害(MCI)を含む健常者52名を対象にコグニトラックスを使った認知機能検査を実施。タモギタケ由来エルゴチオネインを1日5㍉㌘(アミノチオネインとして500㍉㌘)含む食品(錠剤)を8週間摂取することで、認知機能速度がプラセボ群と比較して有意に改善することが分かった。
また論文では、機能性表示食品制度上では健常域者と整理されるMCIを対象に層別解析を行った結果として、言語記憶力、単純注意力、持続注意力についても、プラセボ群との比較で有意差が認められたと報告している。
原料は北海道産
エルゴチオネインとはキノコ類や穀類、豆類などに含まれる親水性アミノ酸で、強い抗酸化作用を持つといわれる。LSは、食品素材中ではキノコの「たもぎ茸」に同成分が特に多く含まれることに着目し、北海道産「たもぎ茸」を原料にしたアミノチオネインを開発。以来、金沢大学などと共同研究を進め、エルゴチオネインには、神経新生作用、神経障害保護作用、記憶障害抑制作用のほか、抗うつ作用(特許第5904378号)が示唆されることを動物試験などで明らかにしてきた。
脳関門を通過
アミノチオネインとして初のRCTの結果をまとめた前述の論文によれば、エルゴチオネインは脳に選択的に取り込まれる。同成分は体内で産生されることはないが、同成分を体内に取り込むトランスポーター(OCTN1)が存在する。それが脳においては神経細胞に発現するためだと考えられている。同社らの研究報告によると、経口摂取されたエルゴチオネインは、消化吸収された後に血液脳関門を通過して脳に到達、分布することも分かっている。
RCT論文の掲載を受けてLSは現在、機能性表示食品の届出をまずは同社として行う準備を加速させている。同時に研究レビューなどの用意も進めており、体制が整い次第、最終製品販売会社などに対する届出サポートを展開していく計画。届出が実現すれば、同社のオリジナル素材としては初の機能性表示食品対応素材となる。
飲料応用も可能
タモギタケ由来エルゴチオネインを機能性関与成分にした機能性表示食品で可能な製品の範囲は、サプリメントから一般食品まで幅広いものになる見通し。エルゴチオネインは水との親和性が高い成分であるため、飲料類にも展開できる。
認知機能領域の機能性関与成分には脂溶性成分や水に溶けにくい成分が多いこともあり、水溶性であるアミノチオネインの素材特性が機能性表示食品市場で強みになると同社では見ている。
一方、食品素材中に一般的に含まれる成分とはいえ、新規の機能性関与成分となるだけに安全性も気にされるところだが、同社はヒトに対する過剰摂取試験を実施し、安全性を確認。前述のRCTでも、論文によれば、タモギタケ由来エルゴチオネインに起因する有害事象は発生しなかったとしている。
認知機能領域の機能性表示食品の届出件数は今月18日時点で256件と多い。そのうち植物由来の機能性関与成分はイチョウ葉由来フラボノイド配糖体・同テルペンラクトンなど一部に限られる。タモギタケ由来エルゴチオネインが機能性関与成分となることで、消費者は新たな選択肢を得られることになる。