国産、そして海外実績 β-アラニン 強みは高品質 (2020.8.27)
食薬区分改正で注目を集めたβ‐アラニン。スポーツサプリメントから、サルコペニア対応などの中高年層向け機能性食品まで、市場を横断できる有望素材だ。ただ、こう思っていた業界関係者は少なくないかもしれない。「できれば国産がいい」と。そうしたニーズに化学品メーカーの有機合成薬品工業(東京都中央区)が応える。現時点で世界唯一の日本国産β‐アラニンを国内市場にも普及させるべく、黒子の立場を捨てて本格的な市場参入を果たした。同社の松川昌雄執行役員(第一営業部長兼営業統括部長)に、同成分を巡るこれまでの経緯や日本での需要開拓戦略などを尋ねた。
──日本に先駆けて米国のサプリメント市場で販売実績があります。その経緯を教えてください。
「我われがβ‐アラニンの製造を開始したのは1958年。もう60年以上製造している。現工場(常磐工場=福島県いわき市)での製造は1971年に始めた。もともとの主要用途は、パントテン酸カルシウムを製造する際の主原料。その意味で、β‐アラニンはニッチな非必須アミノ酸だが、それをバルク供給できる世界でも有数のメーカーとして展開してきた」
「医薬グレードのβ‐アラニンをベースにフード(サプリメント)用途を開発し、米国への輸出を始めたのは2009年。日本では食品として販売できるのかはっきりせず、フードとしての利用が先行していた米国をターゲットに需要開拓を進めたというのが経緯」
──米国で知られるβ‐アラニンのブランド原材料の製造元です。米国への年間輸出量について。
「供給量は申し上げられないが、米国におけるβ‐アラニンの市場規模は年間でおよそ3000㌧といわれる。複数の企業が市場に展開しているが、当社のβ‐アラニンはスポーツニュートリションとして米国市場で実績をつくっているのは事実」
──食薬区分改正でβ‐アラニンが専ら非医薬品リストに収載された後、日本でいち早く市場流通されたのは海外産です。どう差別化していきますか?
「品質の高さに尽きる。米国市場での長年の供給実績と、唯一の国産β‐アラニンであることが我々の強み。安価な製品が既に出回っていると聞くが、価格競争をするつもりはない」
──日本でもスポーツニュートリションとして提案していく? 他に提案はありますか。
「米国での主要ユーザーはボディビルダーなどのアスリート。今のところ日本でもそうした用途で注目されていると思うが、むしろ一般生活者の需要を喚起したい。超高齢社会に対応するためだ。そのために、スポーツだけではなく、加齢に伴い筋力や身体機能が低下するサルコペニアのほかロコモティブシンドローム対策の面からも需要を高めていく。一時的ブームに終わるのではなく、長く愛用してもらえる方法を考えたい」
──筋力に対するβ‐アラニンの有効性を報告する文献は少なくありません。脳機能に関する文献も存在すると聞いています。機能性表示食品制度への対応について。
「もちろん、可能性があるならば追及していきたい。ただ、今のところ具体的に検討しているわけではない」
──独自に機能性研究を行う考えは?
「当社の研究所が東京・板橋にある。外部研究機関と共同で、β‐アラニンにミトコンドリア活性機能があることを発見し、このほど国内特許の共同手続きを完了した。当社のアミノ酸事業でβ‐アラニンと並び主力のグリシンにも、同様の機能があることを明らかにした。ミトコンドリア活性機能は全身の健康維持に関わるといえ、海外市場も含め、両アミノ酸の市場可能性を高めることにつながる研究成果。この知見をどのように活用するかは、お客様ともアイデアを出し合いながら検討していきたい」
──β‐アラニンは、一定量を摂取すると肌に独特なピリピリ感があらわれます。もちろん、それは副作用ではないし、食品安全に関わるような話でもありませんが、食品としては非常に珍しいこの現象をどう捉えていますか?
「『効果感』などとして好意的に捉える向きもある。しかし、サルコペニア対策などとして中高年以上層に摂取してもらうことを考えると、どう捉えられるかは未知数。医薬品も取り扱う我われとしては懸念している面もあり、フラッシング現象(ピリピリ感)がなぜ起こるのかなどを、消費者に適切に伝えていく必要があると考えている。そうした取り組みがまだまだ足りていない」
「また、フラッシング現象を起こさないための抑制技術の開発も進めている。食品・飲料メーカーなどのお客様がお持ちのノウハウや加工技術などもお借りしながら、商品化を実現できればと思う」
【写真=有機合成薬品工業 松川昌雄 第一営業部長兼営業統括部長】