食と健康、強い追い風 コロナ下の人生100年時代 (2021.1.14)
世界を混乱させている新型コロナウイルスの「効用」をあえて考えてみたい。それは、「健康」であり続ける価値を改めて気づかせたことではないか。だからこそ今、その価値を社会的に提供できるヘルスケア産業に追い風が吹いている。高齢化が進む中で、社会や経済の持続可能性を確保する役割も担う同産業の中で決して小さくない面積を占めるのが、サプリメント・健康食品など機能性食品=ヘルスケア食品=である。世界がコロナ下におかれた今、その社会的存在価値はグローバルに高まっていくことになる。
人生100年時代。寿命を延ばすだけでなく、健康に生活できる期間(健康寿命)をいかに延ばしていくか。100年という長期間を充実したものとするためには何が必要なのか──世界トップクラスの長寿国・日本がそうした大きなテーマに取り組み始めた矢先に襲ってきたのが新型コロナウイルスだ。
世界の新型コロナウイルスによる死者数は1月9日時点で190万人、感染者数は8880万人に上ると推計されている。
言うまでもなく、人生100年時代を生きるには健康であることが前提となる。しかし、世界中に拡がり混乱を招いた新型コロナウイルス(コロナ禍)は、その前提を根底から脅かしている。感染せずとも、精神的ストレス、生活習慣や食生活の乱れ、運動不足、経済的ダメージ──など様々な健康リスクをまん延させているからだ。
今、人々の注意はいかにウイルスに感染しないかに向いている。それはとりもなおさず、いかに自身の健康を維持するかに関心が集中していることを意味する。
実際、コロナ禍は人々の健康に対する意識を高めた。明治安田生命が20~79歳の既婚男女5640名を対象に昨年8月実施したインターネット調査によれば、コロナ禍を機に「健康への意識が高まった」と回答した人が45%(女性49.5%、男性40.7%)と約半数に上った。そのうち過半数の約51%が「食事・栄養に気を配るようになった」、約35%が「運動を心がけるようになった」、約23%が「ストレスをためないように心がけるようになった」とそれぞれ回答している。
健康リスク拡大にどう立ち向かう
コロナ禍によって健康維持・増進に向けた生活習慣の見直し、改善に取り組む人々の数が底上げされた形だ。その背景には、生活の変化によって実際に食生活の乱れや運動不足、ストレスの増加などを経験したことがあるだろう。明治安田生命の調査では、「(運動不足・食生活の乱れにより)体重が増えた」、「ストレスが増えた」と回答した人がそれぞれ21%、24%と2割を超えている。
それだけではない。体温チェックを厳しく要求される機会が増えるなど、自身、あるいは家族の体調変化に敏感にならざるを得ない日々が続いている。また、生活習慣病は感染や重症化のリスクを高めるとされていることから、糖尿病や高脂血症などの対策を怠れない。一方、感染リスクを考えると病院など医療機関においそれとは行けない。しかしそれはそれで体調不良と感染リスクを惹起する可能性がある──。
そのようなトレードオフ関係にも苛まれる状況下で人々は、「健康」や「未病」、そして「予防」の価値をより明確に認識するようになったはずだ。つまりコロナ禍は、否が応でも「ヘルスケア」に対する人々の注目を高めた。
健康や未病、予防という価値を、人々の自助努力で獲得していくことを意味するヘルスケア(セルフケア)は、人生100年時代を支える新たな産業として、国も成長を後押しする2020年代の重要キーワードでもある。新年を迎えても終息の兆しさえ見えない中で、その価値はさらに高まりこそすれ、下がることはない。
日々の健康を左右 食の役割大きく
とくに、ヘルスケアの中でも今後さらに人々の関心と注目を集めそうなのが「食と健康」の領域である。日々の健康維持に大きな影響を与えるのは食事など「食」であるためだ。コロナに対する抵抗力を高める目的も含め、コロナ禍で大きな低下リスクに直面している健康を維持するために、「食」から摂り入れる栄養素や機能性成分が、健康や未病に及ぼす価値に対する注目が今後さらに高まっていくと考えられる。
食と健康。食とは、人々のウェルビーイング(幸福)とも密接に関係する日々の食事のことであり、また、食事を補助するサプリメント・健康食品のことでもある。サプリ等により近い医薬部外品を含めてもいいかもしれない。そうしたヘルスケアやセルフケアに紐づけられた新たな「食」が、コロナ禍、さらには、アフター・コロナ禍における人生100年時代を支えるプロダクトの1つになっていく。
そのなかでも重要な位置に置かれるべきなのは、「機能性食品」と言い換えることもできるサプリメント・健康食品である。日本では緊急事態宣言、海外ではロックダウンによる外出自粛などソーシャルディスタンスの拡大、失業者の増加など雇用環境の変調を受けた景気後退局面を受け、以前のような食生活を享受できなくなっている。そこを栄養(食の1次機能)と機能性(3次機能)の両面から補助・補強していく役割を機能性食品が担う。
栄養については言うまでもないが、コロナ禍ではとりわけ、食の3次機能の面からの貢献が求められることになるだろう。古い文献だが、旧厚生省の昭和62年版厚生白書が機能性食品について次のように定義していることに改めて注目したい。
「生体防御、体調リズムの調節等に係る機能を、生体に対して十分に発揮できるように設計された日常的に摂取される食品」。
同白書ではまた、食の3次機能について「生体に対する食品の調節機能」と説明した上で、調節機能の具体的な機能として、生体防御▽体調リズム調節▽老化抑制▽疾患の防止▽疾病の回復──の5機能を提示している。いずれもコロナ禍を健康に乗り切るために必要な機能といえ、そうした機能を「十分に発揮できるように設計」された食品が機能性食品である。
機能性食品の需要 世界中で高まる
こうした本質を持つ機能性食品を生活者や消費者に提供するために、婉曲な言い回しながらも、表示(ヘルスクレーム)にまで落とし込んだのが特定保健用食品や機能性表示食品などの保健機能食品だ。中でも、昨年登場した「健康な人の免疫機能の維持に役立つ」旨を表示する乳酸菌(プラズマ乳酸菌)の機能性表示食品は、機能性食品の本質的役割を余すところなく体現したプロダクトといえる。そのような機能性食品をより多く開発していくことが、サプリメント・健康食品業界の今後の責務となろう。
機能性食品が日本社会により浸透していく下地は既に十分出来上がっている。昨年からのコロナ禍を受けて、健康志向食品の消費がこれまで以上に伸びているためだ。納豆やヨーグルトなど発酵食品に注目が集まったのは誰しも記憶に新しい。コロナ禍との因果関係は不明だが、ビタミンDも含まれる麦芽飲料『ミロ』(栄養機能食品)の需要が急増しすぎ、長期(少なくとも今年3月以降まで)の販売休止を余儀なくされる「事件」も起きた。
また、訪日客の蒸発でインバウンドは大打撃を受けているものの、サプリメント等の需要も上向いている。日本通信販売協会が会員企業約130社を対象に毎月行っている売上高調査によると、「健康食品」のカテゴリーは〝巣ごもり消費〟の影響も受けてか、昨年4月以降5月を除き11月まで前年同月比が連続して増加している。総務省の家計調査(2人以上世帯)でも、「健康保持用摂取品」の支出額は9月こそ落ち込んだものの、4月以降は前年比10~50%台の2ケタ増が目立ち、コロナ禍でサプリメント等のニーズが改めて高まっていることを窺わせる。
コロナ禍は、世界中に価値観の大きな変化を迫った。しかし、世界共通で変らないものがある。健康に毎日を過ごし、その状態を出来るだけ長続きさせることだ。
その望みを打ち砕きかねないコロナ禍は、2021年もしばらく続く。結果、人々にヘルスケアを提供できるプロダクトやサービスの価値が、世界的にさらに大きく高まっていくだろう。その中で、食の3次機能に関する科学的根拠と、それを再現する適切な製造・品質管理を背景にした機能性食品に対しては、とりわけ強いフォローの風が世界的に吹くことになる。