疾病リスク低減表示 制度改善、長期化へ(2021.3.25)
トクホ(特定保健用食品制度)制度に組み込まれている疾病リスク低減表示制度の「今後の運用」を議論していた有識者検討会の最終会合が3月19日にオンラインで開催、今後の運用に関する「方向性」のみを取りまとめた。現行の疾病リスク低減表示制度に基準のない虫歯のリスク低減表示、現行制度で基準を定めている許可文言の柔軟性の2点について、速やかに具体的な検討を行うよう、トクホを所管する消費者庁に求めた。また、今後、トクホ制度全般に対して検討を加える必要性を指摘した。
検討会、「方向性」示す
検討会は、欧米など海外諸国の疾病リスク低減表示の現況を踏まえながら、国内制度の今後の運用を議論した。
米国や欧州で表示が許可されている、カルシウム・ビタミンDの摂取と骨粗鬆症リスク低減の他、ビタミンDの摂取による転倒リスク低減に関する表示を、制度対象に加える検討を今後行うかどうかも議論の俎上に上げられた。
しかし、ビタミンDの有用性を指摘する意見が議論の過程では複数上がっていたものの、「丁寧な議論を重ねる必要がある」ことを理由に、速やかに具体的な検討を行うべき課題に当たるとは判断しなかった。
消費者庁は、検討会が取りまとめた意見を踏まえ、来年度以降、非う蝕性糖質甘味料を含む食品による虫歯リスク低減表示を具体化するための検討に入る。
また、「(疾病リスクを低減する)かもしれません」に代表される消費者に分かりにくいヘルスクレームに関する規定を改めたり、科学的根拠に基づく範囲で許可文言の一部変更を認めたりなど、許可文言に柔軟性を与える具体的な検討にも着手する。
一方で、検討会が「今後、期待する」として同庁に求めたトクホ制度全般の検討については、現時点では白紙状態とみられる。
検討会では、国の健康・栄養政策を踏まえ、トクホの位置づけや疾病リスク低減表示の役割など「トクホ制度全般に関わる考え方」を今後検討するよう同庁に求めた。現在のトクホ制度が抱える全般的な課題への対応を求めたものと考えられ、実行するには同庁としても大掛かりな取り組みが求められることになる。
検討会は、昨年12月に初会合を開催。計3回、実質的には2回の会議を経て、疾病リスク低減表示制度に関する今後の運用の方向性を取りまとめた。
会議数が少なかったこともあり、疾病リスク低減表示制度の今後の運用に関する具体的な議論がなされたとは言い難い。最終的に取りまとめた報告書は、あくまでも今後の運用の「方向性」に関する委員の意見を取りまとめる内容にとどまり、両論併記の書きぶりも目立つ。
同庁では、「(通常の検討会が最終的に取りまとめる)報告書とは意味合いが少し異なる」(食品表示企画課)としている。
業界、得たものは何か
「特定保健用食品制度(疾病リスク低減表示)に関する検討会」が取りまとめた「今後の運用の方向性」は、トクホ制度に対する事業者の意欲を上向かせるものにはならなかった。
食品、あるいは食品成分と疾病リスク低減の関係を直接的に表示する「疾病リスク低減表示」は、食品の機能性表示の最上位に位置づけられる。日本では、トクホ制度においてのみ認めている。
しかし、表示基準が設定されているのは、「カルシウムと骨粗鬆症」と「葉酸と神経管閉鎖障害」の2関与成分2機能にとどまり、かつ、現在までの許可実績はカルシウムと骨粗鬆症しかない。欧米など諸外国と比較して制度が成熟、浸透していないのが現状だ。背景には、疾病リスク低減表示の仕組みがトクホ制度に導入された2005年以降、制度の運用見直しが全く行われていなかったことがある。
そうした現状を打破できれば、届出が既に3000件を超えた上で、事業者の制度活用に向けた意欲が一向に衰えない機能性表示食品に水をあけられたトクホの価値を、ふたたび引き上げられる可能性があった。
しかし検討会が示した制度の見直しを含む「今後の方向性」は、非う蝕性糖質甘味料等による虫歯リスク低減表示の追加と、許可表示に関わる文言の柔軟性の具体化にとどまった。
事業者が制度対象に追加されることを期待していたビタミンDと骨粗鬆症・転倒の関係については、「海外のデータをそのまま日本に当てはめることは難しい」「消費者の期待度が高く誤解されやすいため慎重に取り扱うべき」などといった慎重な意見が上がり、「丁寧な議論を重ねる必要がある」とされ、速やかに具体的な検討を進める必要性が退けられた。
一方で、疾病リスク低減表示の対象に加えるべく具体的な検討が今後行われることになる虫歯に関しては、「虫歯の原因にならない甘味料等を使用している」などといった間接的な表現がトクホで既に認められており、疾病リスク低減表示に新鮮味はさほどないといえる。機能性表示食品でさえ、「むし歯」に言及するものが既に届出されている。
業界代表として検討会委員を務めた日本健康・栄養食品協会の矢島理事長は、3月19日の最終会合の中で次のように述べている。
「事業者からすると、実現可能性が低い。(虫歯の疾病リスク低減表示が)可能になったからといって、『申請して下さい』と言われても、なかなか難しいといった(会員企業からの)意見がある」
事業者にとって、今さら虫歯リスク低減表示に魅力はなく、対象に追加されても表示許可を申請する事業者はほとんどいない──と言いたかったのだろう。
この発言を受け、一部の委員が「そうであるならば具体的な検討を行う必要があるのか」と疑問視し、取りまとめ内容を修正する必要性を指摘。矢島氏は慌てて「あくまで一部事業者の意見。限られた情報を伝えただけ」と取りつくろう必要に迫られた。
疾病リスク低減表示の拡充を望んだ側が、議事録も残される公式の場で、すべてをご破算にしかねない意見を堂々と述べてしまう事態。そのことが象徴するのは、業界にとって、今回の検討会を通じて得られた成果がほとんどなかったことに他ならない。