食薬区分WG委員はかく語る 真剣に議論 (2021.7.29)


 社福協(一般財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会)は7月9日、厚生労働省が主催する、食薬区分(医薬品の成分本質)に関するワーキンググループ(WG)の現任委員(構成員)を演者に招いた会員向けオンラインセミナーを開催した。食薬区分は、その成分本質(原材料)が医薬品としての規制が必要かどうかの判断を示したもので、食品該当性に関する判断を提示するものではないが、「機能性を有する新規素材を食品分野に導入する最初の関門」(同セミナー関係者)となる。その審議に関わる有識者の話を公に聞ける機会は非常に少ないだけに、少なくとも180人を超える業界関係者が聴講した。

 この日のセミナーの大テーマは、「『機能性表示』の新たな可能性への挑戦~食薬区分リスト再考を含めて~」。講師のひとり、食薬区分ワーキングWG委員を務める伊藤美千穂・京都大学院薬学研究科准教授は、「食薬区分の最近の動向」と題した講演を行った。また、消費者庁食品表示企画課保健表示室の久保陽子課長補佐も講演。機能性表示食品について、「消費者の信頼を高めるために」をテーマに語った。

 食薬区分に関して講演した伊藤氏は、指定成分等含有食品制度を引き合いに出し、とくに生理活性の強い成分を含むサプリメント・健康食品素材について、製造・品質管理の重要性を説いた。医薬品の製造・品質管理および品質評価の統合的概念である「CMC(ケミストリー、マニュファクチャリング&コントロール)」の考え方が、サプリメント・健康食品分野にも「必要になってくる」と指摘。「食薬区分はその入り口となるが、区分がどうこうだけでなく、取り扱う成分について各自がスペシャリストになっていただきたい」とした。

 伊藤氏はまた、「食薬区分の会議では、毎回数品目について議論するが、その会議資料はA4サイズで1000ページを超えることも珍しくない」とした上で、主に事業者から照会される食薬区分の審議は、審議前の「予習」も含めてかなりの時間を消費しながら行っている実態を解説した。「膨大な量の資料を元にした、そしてそれに各委員の経験等も含めた専門知識を十分にまぶして、慎重に検討を重ねて(食薬区分が)決められている」。

 一方で、提出資料の「量」が非常に乏しい場合もあるという。伊藤氏は、「データが足りなければ、しっかりとした議論ができない。そのまま通るということはない」と指摘。「徹底的に(安全性などの各種情報を)調べ」、サプリメント・健康食品素材として利用できるという確信を持った上で、食薬区分を照会するよう求めた。

専ら医薬の4要件 「ぶれていない」
 伊藤氏は、食薬区分を巡るこの日の講演を、日本の人口動態とセルフメディケーションの話から切り出し、食薬区分も、少子高齢化に伴う社会保障費の増大に代表される日本社会が抱える問題の解消をめざす政府の規制緩和の動きと無関係ではないとの見解を示した。「(食薬区分は)厚労省の中でも真剣に、しかもスピード感をもって取り組む必要のあるタイトルの一つになってきたように、はたから見ていて思う」。

 実際、厚労省は食薬区分WGを、令和元年度と2年度は、それぞれ計4回開催した。それまでは年度を通じて1回、多くても2回にとどまっていた。

 今年、2021年は、食薬区分の法的根拠である通称「46通知」(=局長通知=無承認無許可医薬品の指導取締りについて)の発出から、ちょうど50年の節目。その中で今年、食薬区分の一部改正を迅速化する目的で、同通知の本体と食薬区分リスト(専ら医薬品リスト/専ら非医薬品リスト)を切り分ける制度改正が行われている。

 だが、伊藤氏は、同通知が示した医薬品の範囲に関する基準や、専ら医薬品と判断する際の考え方は「ぶれていない」と述べ、専ら医薬品と判断する「4要件」の存在を改めて強調した。4要件は以下の通り(一部抜粋)。

 専ら医薬品としての使用実態のある物▽毒性の強いアルカロイド、毒性タンパク等、その他毒劇薬指定成分▽麻薬、向精神薬及び覚せい剤様作用がある物▽処方せん医薬品に相当する成分を含む物であって、保健衛生上の観点から医薬品として規制する必要性がある物──。これらに一つも該当しないことが確認されて初めて、専ら非医薬品該当性が判断されることになるという。

専ら医薬→非医簡単ではないが
 講演後の質疑応答。伊藤氏は、医薬品としての使用実態がある成分本質を専ら非医薬品と判断することは、「かなり難しい」と述べた。

 直接的に言及したわけではないが、食薬区分WGと厚労省が先ごろ、専ら医薬リストに収載されているタウリンやグルタチオンなど複数の成分本質について、専ら非医薬リストへの区分変更が要請されたことに関し、いずれも不可とする判断を示したことの背景を示唆したものと考えられる。

 伊藤氏は、「医薬品として使われているものには現実に薬効がある。薬効があるものを医薬品の範ちゅうから外してしまうと、規制ができなくなる」と述べた。専ら医薬品を専ら非医薬品に区分変更した場合、摂取量のコントロールなどが難しくなることに懸念を示したとみられる。

 ただ、伊藤氏は、ここにきて「規制緩和を強く意識するように言われている」と述べた上で、「何もかもダメというわけではない、という風が吹いてきている」との現状を言及。医薬品としての使用実態がある成分本質を専ら非医薬とすることは困難である原則に変わりはないが、「ケースバイケース」だと述べた。今後、例外が生じることもあり得る可能性に含みをもたせた。


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