変調したトクホ市場 日健栄協調べ (2021.8.12)
食物繊維、8割減の異常値
2020年度の特定保健用食品(トクホ)市場規模は5610億円となり、前年度から883億円減少した。減少率としては13.6%の大幅なマイナスで、6000億円を割り込むのは11年度調査以来──こんな調査結果を、1997年度からトクホ市場規模調査を実施している日本健康・栄養食品協会(日健栄協)が取りまとめ、7月30日公表した。大幅な落ち込みに驚く声も業界内から上がる。日健栄協では、現行方式でのトクホ市場規模調査を終える考えを示している。
日健栄協の発表によると今回(15回目)のトクホ市場規模調査は昨年12月に実施。トクホ取得企業150社(1071品目)にアンケートを行い、140社(1056品目)から回答を得て、市場規模などを集計した。売上げ見込み額に関して詳しい情報が得られなかった品目については、ヒアリングや販売統計などを踏まえて日健栄協で推定した。
日健栄協調べのトクホ市場規模は、13年度調査以降、6000億円台で堅調に推移していた。17年度は6586億円。20年度はそこから1000億円以上も下落したのはなぜか。業界からは「機能性表示食品に市場を本格的に取られはじめた」との見方も上がる。
実際、日健栄協が公表した20年度の「保健の用途別市場規模」を見ると、「骨・ミネラル」「血圧」を除く全ての用途別市場が前年度から減少した。特に「整腸」カテゴリーのうち「食物繊維」の落ち込みが激しく、前年度の約302億円から約8割減少し約68億円に激減。同カテゴリーの「乳酸菌」も、前年度から約13%減少した。
また、「販売経路別市場規模」からもトクホ市場の異変を認めることができる。宅配チャネルを意味すると思われる「戸配」が半減。19年度は1211億円と、「スーパー」の2842億円に次いで2番目に大きなトクホの販売経路だったが、20年度は616億円まで落ち込んだ。
一方で、「コンビニ」は約13%増の1250億円、「通信販売」は約7%増の313億円、「ドラッグ・薬局」は3.2%増の416億円と、市場規模が拡大した販売経路もいくつかある。
許可件数も低調 復調要素少なく
日健栄協調べで6000億円を大きく割り込んだ20年度のトクホ市場規模。21年度以降も減少の一途を辿る可能性がありそうだ。
そもそも事業者によるトクホ表示許可申請件数が大きく減少している。日健栄協の調べで20年の年間トクホ許可件数は累計11件(年度換算では8件)と、トクホ制度施行直後の1990年代前半の水準にまで落ち込んだ。
もっとも、民間調査会社によるトクホ市場規模調査結果と比較すれば、過度に悲観する必要はないのかもしれない。富士経済(東京都中央区)が今年3月公表した20年のトクホ市場規模は、見込みで3338億円、かつ、前年比は5.1%のマイナスと、日健栄協のトクホ市場規模調査結果と大きな開きがある。
現行方式の市場調査に〝幕〟
日健栄協は、現行方式のトクホ市場規模調査を、2020年度調査を最後に終了することを決めた。調査方式などを改めて再開する考えを示唆しているものの、時期は示していない。1997年度から続いてきた歴史ある市場規模調査(2013年度まで隔年、以降は毎年度実施)にいったん、終止符が打たれることになった。
20年度トクホ市場規模調査結果を伝える中で明らかにした。現行方式の調査をいったん終える理由も示しているが、不明瞭な内容にとどまっている。日健栄協では次のように説明している。
「当協会としては検討会が指摘した特定保健用食品制度の活用に向けて考え、行動したいと考えています。市場規模調査のありかたについても再検討の時期と考え、これまでの方式による市場規模調査を今年度にて一旦終了とします」
ここで言及されている「検討会」とは、消費者庁が今年3月に報告書を公表した「特定保健用食品(疾病リスク低減表示)に関する検討会」のこと。同報告書では、トクホについて次のように指摘している。
「(前略)トクホの位置付けや疾病リスク低減表示の役割等、トクホの制度全般に関わる考え方について、検討していく必要があるとの意見が出された。このような意見も踏まえ、今後、必要な情報を収集しつつ、トクホ制度全般について検討されることを期待する」