日健栄協が提案 「健康食品の体系図」とは何か (2021.8.12)
健康食品の体系図──一般健康食品(いわゆる健康食品)から特定保健用食品(トクホ)までの健康食品全体を、〝ステップアップ〟という段階的「上昇」概念を取り入れて秩序化(体系化)させようという大胆な構想を、このほど業界団体の公益財団法人「日本健康・栄養食品協会」(日健栄協)が打ち出した。ステップの頂点には、トクホの疾病リスク低減表示が鎮座する。どのような背景と目的からこの体系図は生まれたのか。8月3日、日健栄協の矢島鉄也理事長にインタビューを行った。
ステップアップできる仕組みを
──まず、「健康食品の体系図」とは一体何なのか、というお話から。
「その前に背景を説明したい。今年3月、私も委員として参加した消費者庁『トクホ(疾病リスク低減表示)に関する検討会』の報告書が公表された。その内容はご承知の通りだが、私としては、同庁幹部の方々も同じだと思うが、疾病リスク低減表示にとどまらず、トクホ制度全体について議論されることを期待していた。この検討会自体はトクホに関するものだが、健康食品産業全体を今後どう発展させていくべきなのか、という思いで検討会に臨んだ。
そのように考えるきっかけとなったのは、昨年9月、トクホの公正競争規約のスタートに合わせて開催された日経SDGsフォーラム。『トクホで考える健康新時代』と題したもので、消費者庁の伊藤長官によるご講演もあった。その中で長官は、今後のトクホについて、エビデンスの蓄積された機能性表示食品がトクホに発展していくような流れを望む、といったとても大きなお話をされた。
このお話を、前述の検討会に照らせば、疾病リスク低減表示についてだけ議論すればいいというものではない。実際、検討会報告書の最後に『今後、必要な情報を収集しつつ、トクホ制度全般について検討されることを期待する』との一文がある。この一文が加えられた意味について私は、消費者にとって分かりやすい表示のあり方を含め、トクホに限らず健康食品全体が発展していけるような議論を消費者庁は望んでいる、ということだと受け取った。
ならば、その準備をしようと。日健栄協として健康食品全体の発展をどう考えるのか。そこを協会各部の部長らで検討した結果まとまったのが今回の体系図。今後、会員企業の意見をできる限り多く吸い上げ、そして意見を反映していきながら、消費者庁に日健栄協からの『要望書』として提出したいと考えているところ。今年度末までの提出をめざしている」──体系図は、有効性、安全性、品質管理のレベルに合わせながら、一般健康食品→認定健康食品(JHFA)→機能性表示食品→トクホ→疾病リスク低減表示の流れでステップアップしていこうという内容。つまり、ステップアップを切り口にした健康食品全体の制度改正を求めるということ?
「制度改正という言葉が適切かどうか分からないが、要するにステップアップしていける仕組みの構築を提案したいということ。現在までにトクホは30年、機能性表示食品は5年の運用実績がある。そろそろ全体を見直してもいいのではないか。前述の検討会報告書でも、トクホ制度全般の検討に言及している」
──体系図の頂点に疾病リスク低減表示が置かれ、次いでトクホ。その直下に機能性表示食品が配置されているが、「トクホにしたくない」と考える事業者も少なくないのではないか。というのも、トクホよりも機能性表示食品の方が可能なヘルスクレームの範囲が明らかに広い。
「ご指摘の点は、今後の議論になるはずだと認識している。いずれにせよ、エビデンスに応じてヘルスクレームを行える仕組みを求めたい。その上で、一番上の疾病リスク低減表示に向けて、やる気のある事業者がスムーズに商品をステップアップしていける仕組みを提案できればと考えている。
機能性表示食品にとどまるのも、トクホにステップアップするのも、そこは事業者の自由だが、ステップアップしていく場合の『道しるべ』のようなものが必要。我われはそれを求めている」
事業者と商品の発展うながす
──今の業界ニーズを踏まえると、この体系図の頂点には、機能性表示食品が置かれてもいいように思う。疾病リスク低減表示を含めたトクホを頂点とする理由は。
「疾病リスク低減表示を認められている制度が唯一トクホだからだ。それにトクホは機能性表示食品とは異なり国が表示を許可している。その点を消費者が比較し出すと機能性表示食品もいずれ行き詰ってしまうおそれがある。また、トクホ制度の最大の魅力は、疾病リスク低減表示が可能な点にこそある。
我われは、疾病リスク低減表示が欧米のように多様化されることを望んでいる。そのために、前述の検討会で、条件付きで既許可トクホを疾病リスク低減表示に一律移行できる仕組みの導入を提案した。また、申請にかかわるガイダンスの作成を日健栄協内で進めてもいる。消費者庁とも協議を重ねながら完成をめざすことにしている」
──この体系図の仕組みが実現したと仮定する。業界全体、そして消費者に与えるベネフィットは何か。
「事業者は日々努力している。それが報われることになると思う。商品開発もしやすくなるのではないか。事業者や商品が発展していくことは非常に大事。次にどのようなエビデンスを取得するか、さらに品質を高めるためにはどうすべきか、などといった課題を追求、改善させながら発展していくことになるが、体系図の仕組みは、それを促すことになると考える。
消費者にとっては、現在よりも健康食品を理解しやすくなるのではないか。疾病リスク低減表示に向かって努力している商品であることを理解してもらえるだろうし、いわゆる健康食品からトクホまで、表示ルールを統一できる可能性もあるかもしれない」
【写真=左:日本健康・栄養食品協会 矢島鉄也理事長 右:日健栄協が示した「健康食品の体系図」。(画像提供=日健栄協)】