サプリメント法なぜ浮上したか 法制化の必要問う声(2014.8.7)


 食品の新たな機能性表示制度をめぐる消費者庁検討会の議論の過程では、業界代表委員がサプリメントの法制化の検討を求める場面も見られた。消費者庁が示す機能性表示のハードルは検討会を重ねるごとに高くなり、いかに表示できるかが問われていた局面で、なぜ法制化だったのか──。

業界代表主張「人格与えるべき」

 サプリメントの法制化を求める声は5月30日に行われた第6回検討会の中であがった。意見表明したのは業界代表委員を務めた宮島和美・日本通信販売協会(JADMA)理事。

 「1兆2000億円になったサプリメント市場、これは流通130兆円の中の約1%になる。GDPが500兆だから、決して軽んじられる数字ではない。そういうものをきちんとした方向に導くための法律があってもいいのではないか」「サプリメントは社会的にポジションもないし、人間でいう人格もはっきりしていない。やはり人格を与えるべきだ」などと訴えた。

 一方、新制度の対象は健康食品やサプリメントだけではない。そのほかに「保健機能を有する成分」を含む農林水産物から加工食品までの食品全般を対象にすることが閣議決定されている。それもあり、宮島理事提案に対して消費者庁は、「閣議決定の趣旨に即しているとは言い難い」と、検討会報告書の中で見解を記した。

 ただ、そのような前提は宮島理事も承知していたはずだ。それでもあえて意見した背景には、「検討会の中でも、健康食品については、安全性と機能性のそれぞれで、生鮮や加工食品とは、分けて考えるべきだという意見が多くの委員から指摘されていた」(JADMA事務局)ことがある。

 また、海外では、サプリメントを法律で定義付けている場合が多いという事情もあった。「しかし、日本では『いわゆる健康食品』というあいまいな存在のままだ。消費者に安心・安全に健康食品をお使いいただくために(新制度では見送られる見通しの)GMP(適正製造規範)の義務化など、様々な課題を解決していく必要もある」と同事務局。その課題を解決していくためにも、日本でもサプリメントの法制化が必要だと主張する。

サプリは食品? DSHEAは違う

 閣議決定された規制改革実施計画で、新制度に参考にすべきとされたのは、米国のダイエタリーサプリメント制度。具体的には、94年に制定された、一定の規制の下、事業者の自己責任で構造機能表示を行える「ダイエタリーサプリメント健康教育法」(DSHEA)という法律だ。一方、同法が対象にするのは錠剤、カプセル、粉末、液体などといったサプリメント形状の加工食品のみ。新制度とは異なり、通常の食品は対象外だ。

 参考にすべきとしたのはサプリメントに特化した法律の一方で、新制度では食品全般を対象にすることを決めた。その点で、閣議決定にはそもそもの矛盾があったと言えるのではないか。その矛盾が報告書にも表れているとする見方もある。

 国内外の機能性表示制度に精通する日本健康食品協会(JIHFS)の池田秀子理事長は、「機能性表示制度における安全性確保の方法と機能性を担保する方法について、極めてシャープな絵を描いてみせた」と報告書を評す。しかし一方で、「安全性の確保に関し、それでもなお十分ではない部分がある」と話す。

 「食品と食品添加物はこれまで食品衛生法で定められてきた。だが、機能性関与成分は食品でも食品添加物でもない。そうした成分を米国はDSHEAで、サプリメントに機能性を付与するものとして定め、その品質と安全性を確保するための手立てを講じている」と池田理事長。

 食品でも食品添加物でもない成分を含む製品の安全性と品質を確保するためにDSHEAでは、cGMPに基づく最新の製造管理基準に準拠することを義務化した。また、DSHEA施行前(94年10月15日)に米国で流通していなかった成分はNDI(ニュー・ダイエタリー・イングリディエント)と見なし、安全性根拠情報などの発売前届け出も義務化している。さらに安全性・品質確保の責任を負うのは、最終的に国(FDA)だ。

 「今回の新制度を導入しても、多くのいわゆる健康食品が市場に残るだろう。それらを含めた法制度がなければ、表示はもとより、安全性と品質確保も曖昧なままだ」。池田理事長はこう指摘する。

意義や役割 明確にする目的

 かつて日本でも、DSEHAに近い法案が作成されたことがあった。対象をサプリメントに限定し、通常の食品は除外。医薬品とも明確に区別することとしている。遡ること12年前の02年、国際栄養食品協会(AIFN)の前身NNFAジャパンの代表を当時務めていた故大濱宏文氏(JIHFS前理事長)が試案としてまとめたものだ。

 業界団体エグゼグティブ会議の当時議長を務めていた大濱氏が08年5月に内容を一部変更の上で広く公表して以降、しばらく忘れられていたといえるが、いま、再び光が当てられている。宮島理事がサプリメント法制定の検討を求めるに当たり、検討会に提出したためだ。

 宮島理事が提出した試案の日付は、大濱氏が国会議員に試案の説明を最後に行った13年11月5日。それから時間も経過しているため、再考の余地を残す一方で、試案には、サプリメント法の本質が盛り込まれているように思われる。

 この別名「大濱案」とともに、その存在意義を明確にする目的からも検討する必要性が主張されたサプリメントの法制化に対して消費者庁は、「まずは業界において議論を深める」べきだと報告書に記した。

 これに対してJADMAでは「高く評価している。非常に大きな一歩だ。報告書にある通り、JADMAだけでなく業界全体で議論すべき問題だと考えている」(事務局)と話す。一方、池田理事長は「DSHEAの本質は消費者保護にある。それを考えれば、国も法制化の意味に、もっと関心を向けてもよいのではないか」という。

 他方、ある業界団体幹部は、まずは新制度に対応することが第一で、「法制化は次のステップ」だとコメント。また、業界からは、「サプリメント法が無くても別に困らない」という指摘も聞かれる。

 確かに、法制化されずともサプリメントで機能性表示を行えるようになる。ただ、法制化以外では明確化しえないといえる定義や意義、役割が依然、不明瞭なままだ。機能性が表示できるとはいえ、それらがはっきりしないままでは、「いわゆる健康食品」の立場から脱却できないのではないか。

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