機能性表示制度 現場からの主張 山本哲郎・TTC社長(2014.8.21)
食品の新たな機能性表示制度の大枠が固まったことを受け、まだまだ手探りながらも、具体性のある対応策が語られ始めた。最終製品や、日本独自原料の安全性・機能性評価で役割を果たすことになる臨床試験受託会社はどう思案しているのか。8日、都内で開催された第9回グルコサミン研究会・研修会に登壇した、食品臨床試験受託大手「TTC」の山本哲郎社長による講演をまとめた。
安全性の検証「ケースバイケース」
新制度「検討会報告書」によると、機能性表示を行うためには、機能性関与成分が明らかにされている必要があるという。明らかでない場合は新たに見出さなければならないことになるが、その難易度について山本社長は次のように話した。
「機能性関与成分の分離・同定、その有効性の検証は、研究的要素が非常に強く、極めて高度な技術性や長期の試験期間が必要となる。勿論、費用も多くかかる。ここで手間取るケースが出てくるのではないか」
一方、首尾よく機能性関与成分を明らかに出来ても、その食経験がなかったり、乏しかったりする場合には安全性の検証が求められる。その際に厄介なのは、それが複数存在する場合だという。その対策についてはこう述べた。
「それぞれ単独で安全性を検証するよりも、複数の成分を一つのグループとして検証する方が効率も良い。一つずつ分けて安全性を検証するというのは、言うのは簡単だが、実際に出来ることではない」
そもそも、食経験情報だけで安全性が十分と言い切れる成分はどれだけ存在するのだろうか。山本社長は次のような見解を示した。
「例えば、茶葉をお湯で抽出する場合は食経験があるといえるが、アルコールで抽出する場合はないといえるだろう。また、ミカンの皮を抽出・濃縮してミカンジュースに添加することは、食経験が乏しいとなる。普段からミカンの皮を沢山食べているわけではないからだ。食品だから食経験があるというわけではない。食経験とは加工方法と摂取量にかかわるといえ、最終的には安全性を検証しなければならないケースが増えてくる」
その安全性の検証について報告書では、「特定保健用食品の安全性評価に必要な情報を参考に」とした上で、遺伝毒性試験、動物を用いた急性毒性・反復投与試験、人に対する過剰・長期摂取試験などといった安全性試験で評価することが適当だとしている。
「これらをどのレベルで実施するかはケースバイケースとなろう。トクホの場合はこれら全てが必須となるが、全て行うと費用は2000万円近い。相談しながら、慎重に実施していくべきだ」
このように山本社長は、安全性試験は費用が高額になりがちだと指摘。また、エームス試験や染色体異常試験といった遺伝毒性試験について次のように問題提起した。
「食品の安全性を確かめるには本来向いていない試験だ。食品でも、陽性になる場合が多い。以前、天然由来の食品添加物243品目について調べたことがあるが、108品目で陽性反応が見られた。だからといって100%駄目だということでは勿論ない。高度な判断が要求されるが、安全性試験全般をトータルで判断するのが望ましい。そういう意味でも、安全性試験はケースバイケースと言った。だが、小核試験で陽性だった場合はすぐに開発を断念するべきだ。毒性が非常に強いことを意味している」
臨床試験「被験者選定が重要」
他方、機能性評価についてはどのように考えているのか。「動物試験の結果は、必ずしも人の結果と合致するとは限らない」とした上で、山本社長は次のような方法を奨めた。
「勝手な判断は禁物だが、安全性に問題がないと判断できた場合は、まずはオープン試験で人に対する有効性を探索的に検証し、その結果から動物試験などを行い、関与成分の分離・同定や作用機序を確かめる。その上で改めて人で二重盲検法により検証するのがよい。この方が時間的にも効率的で、有効性も捕まえやすい」
また、臨床試験の実施に当たっては、被験者の選定がかなり重要になるという。
「人によって反応性が違うことを理解した上で被験者の募集を行う必要がある。そのノウハウが大事だ。トクホも同様だが、それをしないと結果は出ない。極端な話、1千名単位で被験者を集め、その中から最適な被験者を選択するケースもある。そこまでやらないと結果を出せない場合がある」
一方、報告書では、臨床試験結果は査読付き論文として報告されているのが適当だとしているが、山本社長は論文投稿についてこう注意を促している。
「被験者15名で試験をスタートし、最終的に7名で解析しているような酷い論文がある。これは絶対に止めた方が良い。企業姿勢が疑われてしまう。一般的には1群25~40名が適当だろう。また、食品に関する臨床試験は論文が通りにくい。投稿する先をしっかり検討しないと、論文のところでつまずく可能性がある」